岸田の失敗
いらぬ世話というのは、古今東西あるもののようで、今目の前に座る金髪の男性は非常に不愉快そうに眉間にシワを寄せている。
もちろん原因は私だ。
『ここの社員は変わった歓待をしてくれるのだな』
『い、いや!その!』
いつもは踏ん反り返っている課長だが、今はその傲慢さはナリを潜め真っ青になっている。
まあ、それはそうだろう。社運を賭けた外資系企業との合同企画の責任者が、目の前で自分の部下に紅茶をぶっかけられたら流石にね。
あ、勿論ぶっかけたのは私。岸田玲子です。
でも、これには深い訳があるんです。
…………………………
お昼休憩から帰ってきた私が自席に着くやいなや先輩に押し付けられた仕事がそもそもの発端だった。
「岸田!あんた英語出来たよね!?」
突然肘を捕まれ立ち止まると、血走った目でこちらを見上げてくる先輩が視界に入り嫌な予感がした。
大体こんな切羽詰まった表情と、ピリピリした部内の様子を見れば、何かあったといっているようなものだ。
勿論そんな面倒は眼前で叩き落したいところだが、まぁ、周りの我関せずの態度をみれば全員一致の押し付けだと嫌でも分かる訳で。
「片言ですけどね」
「全然いいよ!助かるー!じゃ、よろしく!お茶は用意しといたから!」
まるで逃げるように去っていく後ろ姿を呆然と見遣り、小さく溜息をついて給湯室に向かった。
はっきり言って自分の英会話スキルは甚だ低い。それゆえに自信を持って客人の前に出れるわけではなく。さらに言えば超VIPに素敵な対応なんか夢のまた夢な私が行くのだから、察して頂きたい。
ええ勿論。破れかぶれですよ!責任は全て部署全体、ひいては常日頃厭味しか言わないあの課長のせいだ!……と、責任転嫁してなんとか現実逃避していたのだが。
扉の先の淡く輝く金髪に、思いっきり引き戻されました。
だって、美人なんですもん!どう美人かは後日説明するとして、『マニア垂涎!ザ、男の娘!』って言ってもいいくらいな美人なんですもん。私は背後にベルサイユ宮殿が見えましたよ!ドレスを着てないのが違和感を感じるほどだよ!
……という、至極稀少な逸材に出会ったんです。ぼけーっとするでしょ?みとれちゃうでしょ?そのあとハッと我に帰ってお茶を置こうとしたときに、足元にひらりと一枚の書類が落ちたら、反射的に拾うよね!?もう気分は下僕ですよ!人間、本能で自分の立ち位置を理解しちゃうんですよ!!
まあ、そんなことしたら、ただでさえ不安定なお茶のトレーが無事な訳はなく、超VIPなお客様の頭へと真っ逆さまに落ちていったわけです。