第一章 Story No.1-夢-
雲ひとつ無い澄んだ青空。照り付ける、夏の強い日射し。
俺は頬をつたう汗を拭いながら、最寄りのコンビニへと歩いていた。
最寄りと言っても歩くとかなりの距離になる。
だが、考え事をするにはちょうどいい位かもしれん。昨日の夢のことを……な。
昨日見た夢。あれは、夢にしては妙にリアルだった気がする。
生まれてから、夢なんて結構な数を見てきたが、昨夜のだけはいつものとは、何かに違っていた。
まるで、夢であって、それでいて夢でない様な・・。矛盾してるなんて言わないでくれ。
本当にそうとしか言えないんだからな。
さて、考えるといってもだな、所詮夢だ。具体的な内容までは、はっきりと覚えていない。
そう言うと、じゃあやっぱ夢じゃねえか、と思うだろう?
ところがどっこい、一概にそうとも言えないんだな、これが。
まあ、とりあえず順を追って夢の回想でもしてみるか・・・。
Little brave
〜少しだけの勇気〜 第一章
Story No.1 -夢-
回想、しようと思ったけどやめた。
覚えてない、うん。
あれだよ、やっぱりただの夢だ、ありゃ。
夢のようで、それでいて夢じゃないようってのは、嘘だ。
ホントスイマセンでした。
まあ、そんな事を考えているうちにコンビニに到着した。
中に入るやいなや、アルバイトらしき俺と同じ位の年齢に見える女の子の店員が挨拶してきた。
「いらっしゃいませ!おはようごじゃ」
噛んだ。
顔を真っ赤にしてうつむかないでください。
トキメキ感じちゃうじゃないですか。
中はクーラーが効いてて涼しい。
え〜と、ジャンプはどこだったかな。
と、雑誌を探している俺に背後から声がかかった。
「お、悠雅じゃねえか。」
ん、誰だ?こんな休日の朝早くに、コンビニなんかに居そうな奴なんて俺の知り合いにいたか?
あ、ちなみに悠雅ってのは俺の名前ね。
俺が振り向くと、高校のクラスメイト、アホの谷口がそこにいた。
谷口か・・・。
遅刻常習犯のお前がこんな早くにコンビニなんかに来るなんて、どういう風の吹き回しだ?
「いや、何か分からんけど、早起きしちまってな。
もちろん、二度寝しようと思ったんだが、目が冴えて寝れなかったんだよ。だから来た。ていうか、お前も人のこといえる立場じゃねえだろ!」
俺は遅刻したことねえよ。ついでに言えば、欠席も早退も無い。
「あ、そういえば俺、昨日すげえ面白い夢をみたんだぜ!」
ほう、そりゃ面白いな。
「・・・オイ、まだ何も言ってねえぞ・・・。」
不機嫌な顔をつくる谷口。
お前の見た夢なんぞ、落とした一円くらいにどうでもいいね。
「そうかよそうかよ。じゃあ教えてやんねえよ。」
そりゃどうも。
会話を終えると谷口はジャンプを立ち読みはじめた。なんだ、こいつは立ち読み派か・・・。
俺は購入派さ。じっくり読みたいからな。
ジャンプの山から一冊取り上げて、レジに向かおうとしたら、またしても同じクラスの奴が入店してきた。
ん?さっきの店員が何やら意気込んでいるようだ。
今度は噛まないように気合を入れているのか。
「いらっしゃいませ!おひゃようごじゃ」
噛んだ。
だから、顔を真っ赤にしないでくださいよ。
襲いたくなるじゃないですか。
「あれ?、こんな所で会うなんて奇遇だね。」
ぬ、お前も来たのか・・・国木田。
俺は、立ち読み中の谷口を方を親指で指してやる。
「あ、谷口も居るんだ。」
アホの谷口がこちらに気付いた。
「ん、国木田?お前まで来たのか。」
「うん、何故か早起きしちゃってね。」
それを聞いた瞬間、俺は嫌な予感がした。
まさか・・・。
国木田、まさかお前も変わった夢を見たとか言うんじゃないだろうな?
驚きの表情を浮かべる国木田。
「あれ?どうしてわかったの?」
オイオイ・・・。
何なんだ、これは?
偶然と呼ぶには、出来すぎてないか?
「お前も面白い夢を見たのか、国木田。実は俺もすげえ面白い夢をみたのだ。
どうだ、聞きたいだろ?」
自慢気に話すなよ谷口。
そんなに誰かに聞いて欲しいのか。
別に誰も聞きたく無いだろうがな。
「いや、いいや。別に聞きたく無いから。」
ほらな。
「な、お前も聞いてくれないのかよ、トホホ……。」
谷口は嘆息しながら、あからさまに肩をすくめた。
「お前らがそんなに薄情な奴らだとは、思わなかったぜ。」
俺もまさか現実にトホホという言葉を使う奴が居るとは思わなかったよ。
「という事は、悠雅も見たんだよね?変わった夢。」
不意に国木田が聞いてくる。
ん、ああ、見た。内容は覚えてないが、妙に現実感のある夢だったような気がする。
国木田は顎に手をあて、記憶を探る様に言った。
「ふうん。僕もほとんど覚えてないけど、そんな感じの夢だったよ。」
そうか。というかお前らはこのおかしな偶然に何の疑問も抱かないのか。
「別に抱かねえけど。」
アホ面で答えるアホの谷口。お前は本当にアホだ。
「僕も特に。普通はそんな事気にしないって。たまには、信じられない様な偶然もあるもんだよ。」
ふむ、国木田の言葉には妙に説得力がある。谷口にはミトコンドリアの質量程も感じられないがな。
まあ、そんなこんなで各自の買い物を済ました俺たちは、休日の早朝という事が原因と思われるガラ空きの広い駐車場の一部を占領し、談笑していた。
「なあ、お前ら気付いたか?」
と、谷口。
谷口、聞くのは構わんが、何に気付いたのかをちゃんと言ってくれ。
俺の発言に頷いて肯定の意を表す国木田。
そして、谷口は俺たちの反応に軽く溜め息をつきながら言う。
「あの、バイトのレジやってた娘だよ。メチャクチャかわいかっただろ?」
どうでもいいが鼻の下のびてるぞ。
でも、まあ確かに、面は良かったかな。
ちっちっち、と人指し指を振るアホ。
何がちっちっち・・・だ、アホか。
あ、こいつアホだったな。
「顔も最高だが、それだけじゃねぇんだよ。」
はあ・・・じゃあ一体何なんだ?
お前の言いたい事は大体分かるが、一応聞いてやる。
「お前らも聞いただろ?あの舌足らずのスウィートボイスを!」
素直に噛んだと言え。
「さらに肉まんのつもりであんまん持ってきたり、お釣りを渡す時に手を滑らせて落としたりな!」
ニンマリ笑うな気色悪い。するとお前はアレか、彼女がおっちょこちょいの天然娘だと、そう言いたいのか。
「Exactlly!!良く分かってるじゃねぇか、悠雅!」
叫ぶな、そして唾を飛ばすな。きたねぇだろうが。
あと、英語を使う意味が分からん。
「もう、サイコーだろ!?むっちゃ萌える。むっちゃ萌える。」
萌えんな。
俺は、何も言わず黙って話を聞いていた国木田を不自然に思い、見てみた。
何ニヤニヤしてんだ?国木田。
「いや、ちょっとね。」
笑いを堪えているようだ。
「谷口、もしかして、あの娘に惚れたの?」
ストレートだな、国木田。
「当たり前だろ!?あれで惚れない奴は、ホモだ!」
もう、ウザイ位テンション高ぇな。
「ふーん。まあ、頑張って。僕はそろそろ帰るよ。」
あ、じゃあ俺も。
国木田とは家の方向が同じだからな。
「そうか、じゃあな。俺はあの娘を落としてみせるからな。」
そうですか。
「なんか彼女のことで分かったら教えてくれよな!」
お断りしますよ。じゃ。
俺は何か言ってる谷口をシカトして、国木田と家に向かって歩きだした。
で、そろそろ教えてくれてもいいよな。
谷口から十分離れた事を確認した俺は、歩きながら尋ねた。
「何を?」
しらばっくれんなよ。お前がさっきからずっとニヤニヤしてる理由だ。
国木田は、視線を前に向けたまま、ふふっと笑い、
「実はね、さっきの谷口が惚れたあの娘、僕らと同じ美並高校の生徒だよ。」
・・・・・・。
これは流石に驚いたね。
奇跡の様な偶然だな。
・・・マジか。
「マジ。確か、名前は藤咲さんだったかな。」
成程、そういう事だったのか。谷口はそれを知らないようだったしな。
うん、と頷く国木田。
ところで、何でお前はその藤咲さんとやらの事を知ってるんだ?
「藤咲さんは僕と同じ風紀委員だからね。」
今だにニヤついている我がクラスの風紀委員。
オーケー、合点がいった。まあ、美並高は一学年に20クラスあるから、知らない奴がいてもおかしくないか。いや、むしろ知らない奴の方が多いな。
「そういうこと。」
と、まあこんな話をしているうちに国木田の家の前まで来た。
すると国木田は、
「悠雅、一つお願いがあるんだけど。」
とか言い出しやがった。
フッ、わかってるよ。谷口には言うなってことだろ?
「あ、よく分かったね。ふふっ、それじゃ、よろしく頼むね。」
了解、頼まれてやるよ。
俺がそう言うと、国木田は最後に軽い会釈をした。
「じゃ、月曜に学校で。」
片手を挙げるだけで返事をし、俺は帰路に着いた。
帰ってもう一度寝よう…。