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義妹と同じベッドで寝てますが、なにか?

作者: 宵月しらせ
掲載日:2026/04/19

縁時えんじ、あたしちょっと友達と話するから先に部屋行ってて」


 双子の妹、ということになっている女、天使てんしにそう言われ、俺は寝室に入った。

 そこは俺と天使が寝るためだけの部屋。ベッドの他には小さなテーブルがあるくらいのシンプルな部屋。

 だが、我が家で最も豪華な部屋でもある。

 なぜなら、この部屋にあるのはアンティークの天蓋付きベッドだからだ。

 

 天蓋付きベッド……周りに柱が立っていて、その上に天井があるベッドのことだ。

 カーテンで周囲を覆い、中に入ると気分はちょっとした秘密基地。


 そんな天蓋付きベッドで俺たちは寝ている。

 もう高校生なのに、俺たちはこのベットで毎日一緒に寝ているのだ。

 


 

 このベッドを買ったのは小学五年生の時。

 それまでの小さなアパートから広めのマンションに引っ越すことになった。

 それまでは俺と天使、双子でひとつの子供部屋を使っていたが新しい家では一人部屋をもらえる。

 しかも新しいベッドまで買ってもらえると言うんだから、それはもう大喜びだった。


 しかし、いざベッドを選びに家具屋へ行ったら考えが変わった。

 だってこの天蓋付きベッドを見つけてしまったのだから。


 クイーンサイズの大きな布団を囲むのは、アンティーク感のある木の柱。

 ベッドを覆うオリエンタルな模様のカーテンがとにかくオシャレ。

 モロッコあたりの王様が、ラクダに乗せた籠で砂漠を歩くような……そんなロマンを感じさせた。


 そのベッドに一目惚れしたのは俺だけでなく、天使も同じだった。

 これがいい、と俺たち双子はそれをねだった。


「大きすぎてこれを置いたら他の物が部屋に入らないよ」


 親たちからはそう言われて反対されたが、どうしても欲しくて粘った。そしてなんとか買ってもらえた。

 そのせいで二人で共用の寝室、共用の遊び部屋になってしまったが、そんなの小さな問題だ……と当時は思っていた。

 だって天使とは生まれる前からの付き合いだ。これからも一緒で困ることなんてない――。


 今思えば、思春期前の発想だなぁ……と苦笑いしてしまう。

 たとえ双子とはいえ、一応は異性だ。そいつと毎日一緒に寝るってのはそこそこ大変だぞ。と当時の俺に言ってやりたい。




 それから五年。

 俺たちは高校生になったが、まだそのベッドで毎日一緒に寝ている。

 いくら双子だからって、こんなに仲が良いなんてこと普通はないだろう。

 もしかしたら、同じベッドで寝続けているから、ずっと仲が良いのかもしれない。

 だから、当時の自分に「大変だぞ」と言ってやりたいが、それでも「やめておけ」と言うつもりはない。「大変だけど、それ以上の見返りはあるからがんばれよ」と、まぁそんな感じかな。

 



 さて、名乗るのが遅れた。

 俺の名は縁時(えんじ)

 双子の片割れが天使なので、親たちは天使とエンジェルで揃えたかったのだろう。何も捻らずストレートに【エンジェル】と名付けられなくて良かったな――とよく言われる。


 まぁそんなのは要らぬ心配なんだけどな。

 だって、俺と天使は()()()()()()()()()。よって名前が似ているのはたまたまだ。


 ってことで、これまで双子と言ってきたが、あれはウソだ。

 俺と天使は義兄妹。

 双子というのは、親たちが、俺たちに対してついているウソだ。

 なぜ親たちがウソをついたのかは知らない。

 再婚同士でお互いの子供が小さかったのと、誕生日が同じだからそういう方針で育てただけかもしれない。


 俺がこのことを知ってしまったのは、ただの偶然によるもの。

 一年前に父方の祖父母の家の蔵を見ていたら、俺が赤ん坊の頃の写真を見つけた。生まれて初めて撮られた写真のようだった。

 うちには俺たちが赤ん坊の頃の写真は一枚もなかったから、初めて見る幼い自分の姿には感動した。

 

 でも……俺を抱いているのは、母さんではない女性だった。それに、天使が映っている写真はなかった。

 このことを祖母に訊いたら、顔を青くして口をぱくぱくと動かして……何か言わなければいけないが、何も思いつかないという感じだった。


「この写真を見たことは絶対に誰にも言わないでね」


 祖母は落ち着いた後、真実を教えてくれた。

 うちは俺と天使が一才半の時に両親が再婚してできた家族であり、俺は父さんの、天使は母さんの連れ子だということ。


「…………」


 さらに、親たちはお互いに前の配偶者の痕跡を極力に消したことも聞いた。

 再婚以前の写真は火事で燃えたことにした。でも、たった一枚だけ消し忘れがあり、それがこの一枚。

 孫の人生初の写真を捨てたくなくて、ここに隠していたという。




 天使と母さんと血の繋がりがないことはショックだった。

 でも、そのことについて問い詰めることはできない。

 親たちは血の繋がりを疑うことがないくらい、俺と天使を平等に愛してくれているのだから。


 知ってしまったが、知らふりを続けようと決めた。

 親たちが自ら語り出すその時までは。

 そうして俺は今日も何も知らないふりをして、本当に何も知らない天使の隣で寝ている。




「え、彼氏さんがそんなこと言ってたの? あはは、あんたの彼氏っていつも面白いね〜」


 隣の部屋から天使が友達と通話する声が聞こえてくる。

 隣というのは兄妹の遊び部屋になっている方の部屋。

 一方俺は、寝室のベッドで本を読んでいる。


「そろそろ寝ようかな……うん、また明日学校で」


 明日も学校で会うのになぜこんな時間まで話してなくちゃいけないんだ?

 といつも思うのだが、親友との通話は天使の夜のルーティンだ。

 その友達にとって彼氏とではなく天使と通話するのが良いことなのか……と思わないでもないが、それだけ仲の良い友達なのだろう。

 彼氏ができたら友達バイバイな女子も世の中には少なくないと聞く。ならば彼氏と話す時間を削ってまで毎晩三十分も話してくれるその友達は、きっと本当に親友なのだろう。


「よっしゃ、寝るか!」


 とても寝るとは思えないテンションで天使が寝室に入って来た。

 ベッドのカーテンを開け、いつものように俺の左側に横になる。

 このベッドで寝るようになってから、常にこの位置関係だ。逆にするとたぶん寝られない。


「縁時は何してたの?」


 ぼふんと布団にダイブし、体を寄せてきた天使が訊いてくる。


「読書」

「何の本?」

「友達から借りたラノベ」


 と表紙を見せる。

 二人のヒロインが笑顔で睨み合っている絵が描かれている。

 顔は離れているが、胸は押しくらまんじゅうするかのように密着している。

 つまりどっちもめっちゃ爆乳だ。


「おっ、エッチなヤツだ。もしかしてお邪魔でした? 私はもう少し後で来ます?」

「いらん気を回すな。表紙はこんなんだが、本編ではそんなお色気描写ないぞ」

「なるほど表紙詐欺……内容は?」

「二人のヒロインが主人公を落とすために体を張ってがんばる青春バトル」

「う〜ん、なんかエロそう。挿絵見せて…………おおう、やっぱ結構エッチじゃん、なんかお風呂のページの開き方に癖あるし…………ふむ。少し席を外すか」

「借り物って言ったろ! それは友達がつけた癖だ! っていうかそのことには気付かないふりしてたのに。読みにくくなるだろ」

「ごめ〜ん」

 

 悪びれる様子もなく口先だけの謝罪をする天使。

 こいつはいつもこんなんだ。


「まぁでも少しくらいエッチなのを見てもいいとは思うけどね。あれでしょ、縁時くらいの男子って、普通はベッドの下にエロ本隠してるんでしょ? でも縁時はそういうのないじゃん」

「同じベッドで天使と寝てるんだから隠すも何もないんだよ!」

「あっちの部屋にもないじゃん?」

「そっちも天使と共用だからな!」

「そう言われるとそうだけど……まぁその辺にエロ本ばらまかれると困るから、ないならないでいいんだけど。ちょっと心配になるね」

「心配ってなんだよ」

「ちゃんと男の子の機能付いてる?」


 何度も言うが、こんな会話をしている相手は血の繋がらない義妹だ。

 いや、繋がっていたとしても! 普通は家族でこんな話しないはずだ。

 聞くところでは、ドラマのキスシーンが流れるとお茶の間は緊張するらしい。なら俺たちの会話は、普通に考えれば気まずいってレベルじゃないはずだ。


 でも俺たちは笑いながらこんな話ができる。それだけ仲が良いってことだ。

 だけど、もし義兄妹だと天使が知ってしまったら、このままってわけにはいかないだろう。何かしらの変化は起こるはずだ。一緒に寝られなくなるとか……。


 そんなのはイヤだ。

 俺は今のままでいい。

 天使と一緒に寝ていたい。隣に居てくれるだけで安心できる相棒が離れていくなんて絶対にイヤだ。

 だから、絶対に知られてはいけない。本当は血が繋がっていないと疑われるようなことをしてはいけない。


「ふむ……もしや魅力的すぎる私がいつも一緒にいるせいで、縁時は女の子の魅力がよくわからなくなってしまったかな?」

「よく言うよ」


 と笑って流すが、実際のところ天使はかなりの美少女だ。

 モデルだのアイドルだのいろんな事務所からスカウトされたことがある。

 学校でも当然のようにモテて、いろんな奴から天使を紹介してくれとかなり頻繁に頼まれる。

 同衾してる女を紹介してやるほどの借りはどこにも作っていないので、全部断ることにしているけど。


 そんな天使と、義兄妹だとバレないよう気をつけながら一緒に寝るというのは、想像よりもずっと大変だ。

 こいつ密着してくるの好きだからな。


「ふわぁ〜っ」


 天使が大きくあくびをする。

 目がとろんとしている。


「もう寝るか?」

「もっとお話しする。最近縁時と話す時間減ったから、ここでしないと」


 たしかに高校は別のところに通ってるから、中学までとは違い生活リズムは少しズレた。

 とはいえそれほど大きく減ったというわけではないが。

 まぁ話をするのは歓迎だ。俺も天使と話す時間は好きだから。


「何か話したいことあるのか?」

「うん、あのね今日学校でね」


 天使はいつも寝る前にその日学校であったことを話す。

 そのせいで、一度も会ったことのない天使の高校の友達のことを、俺もすっかり覚えてしまった。

 話をしながらさらに眠そうにし始めたので、俺は天使に枕元に腕を伸ばした。

 天使は話をやめずに、それに頭を乗せる。


 いつからの習慣かわからない。全部忘れてしまうほど前からの習慣。寝る時に腕枕をするのが俺たちのルーティンだ。

 天使曰く、普通の枕では柔らかすぎて寝られないらしい。

 俺は俺で、天使の頭重さがないと落ち着かなくなってしまった。

 

 もういい加減わかってもらえただろうか?

 ここまで気を許している相手が、実は赤の他人でしたなんて、今さら言えないということが。

 この環境は、絶対に守らなければいけない、かけがえのないものだということが。


「それで………………」


 天使が話しながら寝落ちした。スースーと寝息が聞こえてくる。

 俺もそろそろ限界だ。枕元のライトを消す。


 明かりが消えると、カーテンで覆われたベッドはさらに閉ざされた空間になる。

 遮音性が高いカーテンなので、夜中は本当に世界がここだけになったみたいに感じられる。

 朝になるまで誰の邪魔も入らない、俺と天使だけの空間。

 一番安らげる居場所。

 兄妹でないと知られたら、きっとこの空間はなくなってしまう。

 でも兄妹でいる限り、いつかは終わりが来る。

 何年か後、天使の隣には俺ではない誰かが寝ているのかもしれない。

 それを想像してイヤな気分になりかけた時、寝返りを打った天使が俺の胸に抱きついてきた。



★★天使★★


 

 天蓋付きベッドって知ってる?

 ベッドの周りに柱が立っていて、その上に天井があるベッドのこと。

 周囲をカーテンで覆えば、ちょっとしたお姫様気分。

 結構憧れてる人はいるんじゃないかな?


 そんな天蓋付きベッドがうちにはある。

 両親のベッドじゃない。

 私のベッドだ。ううん、私たちのベッド。


 いつも一緒に寝ているのは素敵な彼氏……ってわけじゃなく、双子の弟。

 弟?

 この辺諸説ある。双子の片割れ、縁時は自分が兄だと主張している。

 でも、私は自分が姉だと思ってる。

 両親は「どっちでもいいから好きにしな」って方針なので、真実は闇の中。

 戸籍謄本でも見れば一発でわかるんだろうけど、まぁ見る機会なんて特にないよね。わざわざ調べるほどのことでもないし。


 もう高校生なのに、双子とはいえ異性の()()()()()と一緒に寝ているのは、我ながらどうかと思う。

 思うけど、仕方ないのだ。縁時の腕枕じゃないと落ち着いて眠れないのだから。

 

 いや、いや、まったく寝られないわけじゃないよ?

 修学旅行の時はもちろん別々の部屋だったし。その時はちゃんと寝られましたとも。……寝付くのに一時間以上かかっちゃったけど。


 まぁさすがに恥ずかしいことなのは理解している。

 だから友達にはこのことは全然話していない。友達を家に呼んだ時だって、一室を占領するクイーンサイズのベッドを見せたことはない。

 私と縁時が一緒に寝ているのは、家族以外は誰も知らない話だ。




 双子とはいえ、この年になって同じベッドで寝るなんてイヤじゃないのか? と思う人もいるかもしれない。

 イヤ度0%だって言ったら、そりゃさすがにウソになる。文句くらいいくらでもある。

 腕枕してもらわないと寝付きが悪いのに、私が寝たら腕を引っ込めるんだもん、あいつ。夜中にふと目が覚めた時とか、どうやって寝たらいいの?

 寝てる縁時の腕を勝手にいじって腕枕させようとすると怒るし。


 文句はある。でも、やっぱり楽しいんだよね。

 カーテンを閉めると、ベッドは外から隔離された空間みたいな感じになる。遮音性が高いカーテンなので、外を走る車の音も気にならない。

 ここはいつも変わらず、穏やかで落ち着いてて……学校でイヤなことがあった日も、一緒に寝たら簡単に忘れられる。

 とてもとても大切な、かけがえのない場所なのだ。

 このベッドで縁時と寝ていると、まるでお母さんのお腹の中にいた時のように安心して安らげるのだ。もちろんその時の記憶なんてないけどね。

 



 さて、一日の日課を終えてベッドに入って、寝るまで縁時と何をしているかと言うと……残念でした。別にいやらしいことなんてしてないよ。

 ずっと一緒に育った双子の相方だ。漫画みたいに恋するなんてことはない。

 

 ……ちょうど今日友達から借りた漫画がそういう内容なんだけどさ。

 その漫画は面白いけど……ないわぁ。双子同士のカップルって、要は自分と自分で子作りするみたいなもんでしよ? さすがに気持ち悪い。

 まぁフィクションはフィクション。それを理由に低評価したりしないけどね。


「……おぉ、こういう展開か」


 ベッドでうつ伏せになりながら漫画を読んでいた縁時が、思わずうなった。

 縁時の隣には私がいて、漫画は私たちのちょうど真ん中にある。つまり同じベッドにくっついて寝ながら、一緒に読んでるわけ。仲良しでしょ?


「まさかまさかだよ」


 その漫画は、生き別れになった双子が主役の旅物語だった。

 主人公は児童養護施設で育った女の子。家族の記憶は一切なく、施設の人も彼女の過去について何も知らない。

 彼女の過去に繋がる物はたったひとつ。一枚の写真だけ。同じ年くらいの男の子と一緒に映っている写真だ。


 よく似ているからきっと双子に違いない。

 自分にも血を分けた家族がいるのだ……彼女はそれを心の支えに子ども時代を過ごし、高校生になった頃からバイト代を貯めては、片割れを探すようになる。

 旅先で何の成果も得られなかったり、手掛かりになりそうな物を見つけたり……何年も時間をかけて少しずつ片割れを追いかける物語だ。

 今読んでいるのは大学生編。ここで大きなどんでん返しがあった。続きを早く読みたい気持ちと、前の巻に戻って伏線を読み直したい気持ちが交錯する。


 勝ったのは伏線チェック欲。

 続きは逃げない。でも、今以上の衝撃展開が来ると、伏線を確認する楽しみは薄れちゃうかもしれない。なら、優先するべきはこっち。


「なるほど、ここのシーンがここに繋がるわけか」

「待って、もしかしてこっちもそうじゃない?」


 二人でそれぞれ別の巻を広げ、伏線らしきところを探しては報告する。

 やっぱこれよ。これが醍醐味。

 一緒に漫画を読むのはこのためと言ってもいい。

 ネットで感想を探すよりも、直接語り合う方が百倍楽しいのだ。

 まぁ明日、貸してくれた友達とも語り合うけど。でも、読んだ直後の一番熱い瞬間に語り合いたいのだ。

 それができるのは、縁時と一緒に寝ているからこそ。このベッドを選んで本当に良かった。昔の私を褒めてやりたい。よしよし、なでなで。


「ああ、いいなぁ……この物語大好き」


 読んでいた本を胸に抱え、ごろんと仰向けになる。

 主人公が男女の双子っていうのが、特に親近感が湧く。

 まぁ一度も会ったことがない片割れを何年も探し痕跡を探るうちに、頭の中は彼のことでいっぱいに、いつしか恋愛感情になってしまうところは理解不能だけど。

 それとも、たとえ双子でも面識がなかったらそうなっちゃうのだろうか?


「ねぇ縁時。もし私たちがバラバラに育ってたとしてさ」

「え⁉」

「もしの話だよ。もしの。この漫画みたいに、物心つく前に家族がバラバラになって、お互いのことを何も知らないとして……赤ちゃんの頃の写真が一枚あるだけだとしたら。縁時は何年もかけて私を探してくれる?」

「……あ、赤ん坊の頃の写真?」


 縁時の様子がおかしい。

 なんか変なこと聞いたかな? さてはこいつ、うちに当時の写真が一枚もないことを気にしてるな?

 仕方ないじゃん。お父さんが言うには、私たちが一歳半の前の家が火事で燃えちゃって、写真とか全部燃えちゃったって言うんだから。おばあちゃんの家にもないっていうし、ならお手上げだよ。

 そりゃ何もないのは寂しいけど、家族みんな無事だったんだからいいじゃんねぇ?


「で、どうするの? 探すの? それとも見つかるわけねぇって、探す前に諦める?」

「探さないって言ったら怒るんだろ?」

「めっちゃ怒る」

「じゃあ探す」


 う~ん……私が求めてた答えじゃないなぁ。今の私が怒るかどうかじゃなくて、私のことを知らなかったらどうするかを知りたかったのに。

 でも、実際のところ、仮に写真があったとして、それだけで相手を探すのはヘルモードだ。

 うちの場合は特に。


 というのも、私たちは双子なのにまったく似ていない。

 双子と教える前に気付かれたことが一度もないくらい似てない。

 私はお母さん似。すっごい似てる。お母さんが十代の頃と瓜二つ。

 縁時はお父さん似。こっちもすっごい似てる。

 四人でいれば家族だってわかってもらえるんだけどね。

 ってわけで、写真を持っていても、もしかしたら双子と気付くことさえ不可能かも。


「まぁ写真がないのはいいんだけどさ。お父さんたちって、私らが赤ちゃんの頃の話もしないよね。なんで?」

「……大変だったんだろ。子育ては一人でさえ大変らしいじゃん。それが一気に二人だぞ。しかもうちはどっちのばあちゃんの家からも遠くて近くに親戚いないし。毎日目が回るほど忙しくて、そこへ火事で家が燃えて。疲労とショックで、写真どころか記憶がなくなってもおかしくない」

「それはあるかも」


 覚えているのに教えてくれないなら、もしかしたら、当時のことは思い出したくもないツラい記憶なのかもしれない。

 それでも新しい家に越した後の写真には、家族みんなで笑顔で過ごしている様子が映っている。

 大変な状況で絶望せずに生活を立て直し、不自由なく私たちを育ててくれた両親には感謝の気持ちしかない。

 だから、両親が教える気になるまでは、当時のことを私から訊くことはないだろう。


「さて、続きを読むのは明日にして、今日はもう寝るか」


 縁時は赤ちゃんの頃の話をしたがらない。この話になると、なるべく早く切り上げたがる。

 こいつなりに思うところがあるのだろう。

 私はその辺に気が付く鋭いお姉ちゃんだから、縁時がいちいち言わなくてもちゃんと理解してそうしてあげるのだ。えらい!


「そうしよっか」


 本音を言えば漫画の続きを読みたい気分ではあるけど、少し読んだところで読み終わる量ではない。なら明日の楽しみに取っておこう。

 本をベッド横のテーブルに置き、カーテンを閉めて電気を消して、寝る体制を整える。

 縁時の腕に頭を乗せたら、朝までぐっすりの準備は万全だ。




 こんなのが私たち双子の日常だ。

 このベッドを手に入れたから五年以上続けて来た二人の夜。

 いつまでも続けられるわけじゃないのはわかっている。

 双子は夫婦じゃない。いつかは別々の道を歩き始める。

 それは意外とすぐそこにあるかもしれない。


 縁時に彼女ができたら……こうして一緒に寝てくれなくなるかもしれない。

 少なくとも私は、彼氏ができたら縁時と一緒に寝なくなると思う。いくら双子とはいえ、異性とこうもベッタリしているのは彼氏に悪い気がする。

 まぁまだこの時間を手放すつもりはないので、当面は彼氏を作るつもりはない。

 縁時も同じ気持ちだといいなぁ……。


 いずれ……。

 いずれ、必ず血の繋がっていない素敵な男性を見つけますので。

 せめて高校を卒業するくらいまでは、血の繋がっている最高の相棒と一緒に寝かせてください。


 そんなことを神様に願いつつ、私は縁時の腕枕の感触の中で眠りついた。

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