小豆島にて(前編)
土庄港に着いた時、ヒラノさんからメッセージが来ていた。
[カイさん、今どこ?]
[今は土庄港です。荷物まで預かっていただいてありがとうございます。]
[今から迎えに行くよ、そこ動くな!]
なんかいやーな感じがする。
すごーく、めんどくさいことに巻き込まれてる気がする。
[あのね。カイさんのこと、店のマスターに紹介したら是非とも会いたいって]
[ちょっと待って下さい。どんな紹介の仕方したんですか?]
[さすらいの料理人]
[なんてことを!]
僕はすぐに身を隠さないといけない。
可能な限り逃げ切るしかないと思っていた。
海岸線を……無理だ、あのバイクの音はヒラノさんだ。
ドドドドッと遠くの方からバイクが近づいて来た。
「ヒラノさん、笑顔が怖い」
「まだ何も言ってないじゃん!
新メニュー考えてるみたいだから、一緒に考えてあげてよ」
「そんな義理ないですよ。
この先もこんな感じでまさか」
「いやっ、多分今回で最後だと思う。
マスター待ってるから乗りなよ、夕方になるまでまだ早いし」
なんだろう、この食旅企画。
まだまだ続きそうな雰囲気。
ひっそりと静かに暮らしたい。
というわけで僕は今ヒラノさんに連れられてしまい。
お洒落なイタリアンのお店にいます。
「カイさん、初めましてマスターのタナカです」
「あの、タナカさん。少々行き違いがあります。
私、調理師免許もってないです」
「いいえ、いいんですよ。アイデア出しにお付き合いいただければ、
ヒラノさんから話は聞きました。
訪れた先々でメニューをパッと考えられて、
しかも地の物を使って凄いですよね」
僕はタナカさんの話を聞きながら、ちらっとヒラノさんを見た。
「ヒラノさん、それビールじゃん、飲んでるじゃん。
運転無理じゃん、もうダメじゃん?!」
「だってマスターが明日までバイクここにおいてもいいよっていうから」
「それ、僕を『いけにえ』にしたってことでしょ!
ちょっと僕にもビール下さい」
「980円です」
「高っ、っていうかなんで!」
* * * * * *
僕はタナカさんから要件を伺っていた。
伺っていたというか結論はこうだ……こうに違いない。
一つ、他店と違いを出したい。
二つ、原価は抑えたい。
三つ、デザートもお願い。
「と言うわけなんですよ、カイさん」
「じゃあまず気軽に頼めるメニューを作りませんか?
そんなに豪華にすると、お客さん頼めないですしね」
「ありがとうございます。
ネーミングはもう決まってまして『小豆島ピザ』です」
「あっ、はい。
一つ、伺ってもよろしいでしょうか?」
「ネギって小豆島としてありですか?」
「あり側のありですね!」
「わかりました」
『小豆島ピザ』というよりネーミング変えたいんだけど、まあいいや。
そのピザはとってもシンプル、というより具なしピザなのだ。
ここのお店は窯があってちゃんと焼きができる。
だからピザ生地だけでも十分美味しいんだよね。
みんなはフランスパンに似たバタールって知ってる……よね。
そのパンの一番おいしい食べ方は一つしかない。
溶かしたバターにつけて食べるだけ。
エビフライにタルタルソース、ハードシェルにサルサソース、バタールにバター。
そんな関係なんだよね。
じゃあピザ生地は?
この場合、インドのナーンが参考になる。
蜂蜜かけたり、チーズのっけたり、もちろんカレーにもあう。
何でもあうならナーンと同じ様にそのままメニューにのせればいいんじゃない?
まずは甘味系。
蜂蜜から始まって、チーズで甘さの輪郭を際立たせる。
子供向けだね、子供ってひたすら甘いの大好きだから。
なんならザラメでもいいぐらい。
ここまで来るとチュロス、それぐらい振り切っても子供は食らいつく。
次は塩味系。
ネギ油で炒ったじゃこをトッピングする。
最後はオリーブオイルのみ。
焼きあがったピザ生地に塩をまぶして、
そこに小豆島のオリーブオイルをかけるだけ。
「ヒラノさん食べてみる?」
僕は焼きあがったピザ生地に塩をまぶしてオリーブオイルをかけた。
「えー、何ものってない
これって裸の王様的なノリ?」
「そうじゃなくって……ヒラノさん飲みすぎて出来上がってるじゃないですか」
「だってこのビール、度数高いんだもん」
「タクシー高いんで歩いて帰りますからね。
話をもとに戻すと、このオリーブオイルってピリッときませんか?」
ヒラノさんはスプーンでオリーブオイルを口に運んだ。
「おおっ、本当だ。なんかピリッとくる。でも唐辛子の辛さじゃない」
「そうなんです、そしてちょっとえぐみありません?」
「言われてみれば、そうかも知れない」
「小豆島のオリーブオイルってそのままでも楽しめるんです」
「カイさんって食通、やっぱりここに来てよかったね」
僕はタナカさんにその趣旨を説明して納得してもらえた。
ネーミングについても。
「なら、オリーブピザですね」
「オリーブの収穫って十一月でしたよね?
朝摘みエクストラとか言い切ってしまえば、
その季節は更にフレッシュ感を打ち出せると思いますよ」
「おー、凄いかも。それいただきます」
* * * * * *
「カイさん、ナイスファイト!じゃあ次行ってみよう!」
ヒラノさん、この企画最後まで知ってますよね。その口ぶり。
「タナカさん、デザートでしたっけ?」
「そうなんです」
「チョコレートアイスクリームって大丈夫ですか?」
「ええ、まあ仕入れできますけど」
「それなら変わったレシピにしましょう。
バニラアイスにオリーブオイルや胡椒使うの覚えてますか?」
「ええ、それやるとパクッてるって言われるのが嫌でやってないです」
「好みが分かれちゃうんですけどチョコアイスに、
唐辛子とかピンクペッパーってどうでしょう」
「試してみます」
僕はようやく解放され、試作品をヒラノさんと食べていた。
「タナカさんは脱サラしてお嫁さんとここに移住したんだって。
夕日はタナカさんが車を出してくれるらしいよ」
「ヒラノさん、ありがとうございます」
「いいってことよ!」
こいつダメだ、役立たずになってる。




