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小豆島まで

「じゃあ、小豆島で!」


ヒラノさんはそう言うとフェリーで牛窓まで戻っていった。

多分、ヒラノさんは先に小豆島のホテルに着いていると思う。



叔父さんの友達の船を待っている間、僕は潮風を楽しんでいた。


その昔、叔父さんと二人で小型ボートに乗って海に出た時に、

』を漕がせてもらったことを思い出していた。

まっすぐ漕いでも、どうしても左に向いてしまう。


モーターが動かなくなったり燃料切れになった時は、

人間が頑張るしかないのだろう。

機械に頼らず自力で帰れる――そんな意味不明な自信を、当時は持っていた。

気を良くした僕は海に飛び込んだ。


せとうちの海は澄んでいた。


下を覗くと光のカーテンがゆらゆらとゆれて美しく、

そのカーテンをぬうように魚が泳いでは去っていった。


海中で横を見るとカキの養殖で使う棚から幾本ものロープが垂れ下がっていた。

叔父さんが言うにはその中に入ってしまうとカキの殻の先で体中を切ってしまうらしい。


上を見ると船底が木の葉のように浮かんでいた。

海に抱かれるとは、こういうことなのだろう。


当時、僕が水中にいられた時間は約四分、

普通の人よりも長く息を止めていられたため出来た芸当だった。

多分、次に海へ潜る時はタンクを背負うと思う。


これが僕の、せとうちの海の記憶だ。



一隻のボートが近づいて来た。

僕は手を振って自分の名前を叫んだ。


「カイです!」


船主も手を振って岸に寄せてくれた。


「飛び乗りますから」


そういって僕はひらりと舞った……つもりが着地でずっこけてしまった。


「すみません、今日はありがとうございます」


船主は笑って頷いてくれた。


僕の行き先は小豆島だけど、この船に乗せてもらった目的は他にあるんだ。

それは大型船。大きいものはビル十階ほどの高さになるらしい。

それを間近で見てみたい。


「タンカーが来るまで、鯛釣りするか?」


鯛釣り……これはレベルが高い。

同じ仕掛けで同じたなに入れても食いつかない。

鯛は釣る人を選ぶから、ダメな人は哀しいくらい釣れないんだ。

横を見れば……ほらやっぱり、もう一匹釣り上げてる。

僕は釣れることのない竿から釣り糸をたらしているだけだった。


「来たぞ!」


そう言われて振り向くとゆっくりとタンカーが近づいて来た。

まるで市営団地が海を漂っているようだ。

僕は竿を置いて、ただ見上げていた。




*  *   *    *   *  *




土庄港に着いた時、ヒラノさんからメッセージが来ていた。


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