山陽電鉄と山陽本線
僕は、せとうちに入ったと思う瞬間がある。
岩肌が露出した山肌が見えた時だ。
車窓からしか見たことがないから、松なのか広葉樹なのかはわからないけど、
僕の中のせとうちは乾燥した土地柄っていう感じなんだよ。
岩にしがみつくように植わっている木をみると妙に懐かしくなる。
「帰ってきた」
そうなんだ、僕はせとうちに戻って来た。
僕は山陽電鉄、山陽本線を乗り継いで、赤穂線に乗り換えた。
山陽電鉄と山陽本線に乗ってる間は、みんなと同じでずっと海を見ていたんだ。
誰も乗っていない僕だけの、昼下がりのJR京葉線でもない。
同じように海を見ながら進んでゆく、湘南新宿ラインでもない。
せとうちの鉄道には都会にはない、ゆっくりとした時間と……もしかしたら
昔の友達がひょっこり現れて、『あれっ? もしかしてカイじゃないの』
なんて声をかけてくれるかもしれない、そんな期待がある。
『お前も都会に疲れたの?』
『ああ、息抜きにね。ちょっとそこまで』
『そこまでって、だいぶ西まで来てるよ俺達』
『いいんじゃない? だって俺達、昔からノーガードでノープラン』
『そだね』
僕は、ここにいるはずのない友達に話しかけて道中を楽しんでいた。
『お前さぁ、二年ぐらいで引っ越しちゃったじゃん。
結構、クラスの中心にいたって感じでカッコよかったよ』
『そうなの? 僕はなんかいじめられてたって聞いたよ』
『いや、それがさぁ。そうなんだけど、相手がいじめてんのに気づいてないじゃん。
お前、昔っから人の悪意に無頓着だよな』
『それに気づけるようになったのは大人になってからかな。
おかげで自分もイヤな人間になれたよ』
『でも戻って来れたってことは、元々はそういう人間じゃなかったって事じゃん』
『そうだね、だと良いんだけど』
『お前、これからどうすんの?』
『いつも通り』
『やっぱり?』
「ノーガードでノープランだよ」
乗り継ぎ先は赤穂線。
それは相生駅から始まる。




