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カイとコンドー、世界の旅(3)

「コンドーさんが言いたいのは……」


つまりこういうことだ。

まずは日本のお金持ちの家にお邪魔してご飯を作る。

そうじゃない時はコンドーさんの知り合いの居酒屋チェーンで商品開発。

チャンスがあれば海外のお金持ちの家にお邪魔して、ご飯作る。

そして、それを他人に教える。


冷蔵庫を開けてメニューを作れる人、テレビでやってたな……そんな感じだ。


「まあ、そんなとこだよ。

 出店準備とかやりたいなら申し出ればいいさ。

 快速でカイ君のキャリアになるし、悪い話じゃないと思うよ」


確かに人手不足の業界だから出戻りは出来るとは思う。

自分の感覚は他人と違うみたいだから、

コンドーさんは僕に声がけしたんだろう。

そこは考えなくていい。


後は母と話をして……僕はふとヒラノさんを思い出した。

『無責任だから、ちゃんとあなたに言えるのよ』


彼は何と言うだろうか?

僕はコンドーさんを語らせてみたいと思った。


「へー、カイ君は作家志望なんだ。

 いいね夢があって。つまり未練があるってこと?」


僕は話が聞きたかったので『いいえ』とは言わなかった。


「ここはハッキリさせようぜ、君の人間性にも関わることだよ。

 未練がある……にYES、NO、どっち?」


少しだけ沈黙して僕は答えた。


「YESですね」


「ならカイ君のために真面目に答えるよ。三つ答えが出てくる。

 未練って言うのは仏教用語で熟練してないってことらしい。

 だったら足りないものって何って普通考えるところだけど違うんだ。

 逆にいらないものを探した方が手っ取り早い」


いらないもの、それは捨てきれない作家になりたいという気持ちかな。

僕はそう考えながらコンドーさんの話を聞いた。


「二つ目は君は社会の歯車になり切れてない。

 だから所々、嚙み合わなくって軋んでいる。

 三つめは要請にこたえてない。

 時代の要請、社会の要請なんでもいいよ。

 求められるものをそのまま純粋に手心なく形にするってことだよ」


「ちょっと、つかみどころがない話ですね」


「じゃあもっと具体的に言うね。

 君、お金持ち……じゃないよね?

 でも小説の中にお金持ちって出てくるじゃん。

 お金持ちの気持ちが分からないのにどうしてそんなキャラ登場させることができるん?」


「YESなら芸の肥やしのためにコンドーさんの話に乗れってことですね」


「話が早くて良いね。見込んだだけのことはあるよ。

 っで、改めてどうなの?」


「発生する費用はすべて会社に請求させてください」


「もちろんだよ、そこら辺は驚きの白さだから」


「やらせてください」


「じゃあ、後で会社の人事から連絡行くようにしとくよ」



コンドーさんと一緒に山を下りながら僕は連絡先の交換をしたり、

自慢話の続きを聞いたりしていた。

今思えばコンドーさんは、このためだけに調べと準備をしていたのだと思った。

ヒラノさんもそうだったけど、この手の人種って抜かりがない。




*  *   *    *   *  *




「母さん、話があるんだけど。

 また福岡を離れるかもしれない」


「そうなのね、気をつけていってらっしゃい。

 私たちの世代はあなた達が生きてる時代を理解できるほど元気じゃないから」


母の言ったこと。十年前の僕だったら非難していたかもしれない。

でも以前より小さくなった母を見て、今更蒸し返しても仕方がないと思った。

いつの頃からか、自分より上の世代がやってきたことに腹が立たなくなっていた。


年を取って鈍感になってしまったのか、

単に怒りや苛立つことに疲れるようになったのか、

それは今になってもわからない。


確かなのはこの期に及んでも新しい何かを求め、

手探りで何かを探しているような人間らしい。


それだけは確かだった。


「じゃあ、準備が整ったら出てくね」



余談になるんだけど、ある意味で父は岡山の叔父よりもクレイジーだった。

どんな話かと言えば泥棒を追い払った話だよ。

ある日、ばったり実家の庭で泥棒と鉢合わせした父は一喝したんだ。


「そこになおれ!」


泥棒っていっても留守を狙うのだけど、その日は運が悪かったんだろうね。

居合抜きをしていた父は模造刀を取り出して上段に構えたらしい。


泥棒さんはそれが真剣かどうかなんてわからない。

まるで時代劇のように塀や垣根を乗り越えて逃げてったらしい。


多分、泥棒仲間の間ではあの家はヤバいって話になってしまったようで

ぱたりと実家付近から気配が消えてしまったみたい。


そんなこんなもあってあまり母を気に掛けることはなかったんだ。


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