角島灯台公園(後編)
ただ僕は暗闇の先の海を見ていた。
辺りは少しばかり明るくなってきた。
それはまるで、久しぶりに会った仲の良い友達に肩をたたかれたようだった。
それと同時になぜか担当してくれた雑誌の編集の人を思い出していた。
「そう言えば、あの人の名前まだ教えてもらってなかったな。
やっぱり、いい加減だ。あの人」
いつも『すみません』、『わかりました』、『ごめんなさい』、
この三つぐらいで編集の人とは会話が成立していたような気がする。
振り返ると朝日が昇ってきていた。
どうやら日の出を見るなら島の反対側だったようだ。
そのまま見上げると、灯台は今日の役目を終えようとしていた。
昇る日の光と灯台のレンズの光が混ざり合い、灯台の光は消えていった。
明るくなっても僕は海をずっと見ていた。
ゆっくりできるのはこれを最後に当分はないだろうと思ったからだ。
読書代わりに持ってきた『せとうち日記』をそばに置いた。
日記といっても厚めのリングノートなんだ。
おそらく、何の気なしに日記をつけていったら続いてしまった。
そんなパターンだと思う。
僕は気づかなかったのだけど風でページがめくれていったようだ。
日の出が終わると太陽は本格的に陸地を温めて上昇気流を作り出す。
それが海風になるんだ。
日記に目をやると僕は東京の居酒屋で何度か一緒になったナギさんを思い出した。
なぜかというと僕宛にメッセージが書かれていたからだ。
そうなんだ、この日記はナギさんのだったんだ。
ナギさんはここまで旅行した記録をつけていたんだと思った。
僕宛のメッセージを最後まで読んでも、不思議と悲しくならなかった。
なんだか優しく励まされているようでうれしかった。
『カイさんの性格だから、
せとうちまで、行っちゃったのかな。
どうだった、私の夕日は?
このページを見ちゃったってことは、
もう私はこの世にいないみたいなんだけどね。
忘れてほしくないな、私の夕日を』
約束できないはずなのに、僕は声に出して言ってみた。
「ごめん、ナギ。
読み飛ばしちゃったとこが結構あるんだ。
来年また君の夕日を見に来るよ。
君のために、何度でも」




