角島灯台公園(中編)
起きた後は、お風呂に入って食事をして。
旅行に来たのにテレビとスマホをいじってから、少し仮眠をとった。
なんだかアラジンと魔法のランプの主人公が王様の部屋に忍び込み、
王様気分を味わってる感じがした。
僕にとって旅は贅沢、多分こんなことは二度やらないだろう。
だってお金もったいないんだもん!
多分だけど既に、何枚ものお札に羽がはえてどこかに行っちゃった。
次回のクレジットカードの明細見るのが怖い。
「居酒屋でバイトしながら、調理師免許をとるか。
一昔前みたいに日本食ブームが海外で盛り上がってるし、
カリフォルニアロールが流行るんだったら、もはや何でもウケるだろ」
世の中そんなに甘くないのに、この期に及んで僕はノープランなんだよ。
母親によく言われたのは、お前は運が良いということ。
学生の友達との旅行で、フロント部分が潰れちゃうほど事故っても、
一番初めに二本の足で車から出てきたのは僕だった。
その後も、事故をかわしたり免れたり、今思えば本当に運が良かったんだと思う。
その代わり、今回みたいな無職転生の一歩手前みたいなイベントが起きたりするんだよね。
そろそろ五時になる。
* * * * * *
そして角島大橋は僕のものになった。
少しばかりの波の音、自転車を漕ぐ音、僕の息づかいだけだった。
上から照らされるオレンジ色の光が道案内をしてくれているようで寂しくはなかった。
自転車だから漕いでも漕いでも進んだ気がしない。
時間が止まったように僕は何も考えず漕ぎ続けたんだ。
数えて十七番目に差し掛かった時、少しだけ空しい気持ちになった。
その後、少しだけ苦しい気持ちになって辛い気持ちになった。
一瞬、楽な気持ちになったけど、また嫌な気持ちになった。
全部、自分なんだ。
全部、僕が受け止めなきゃいけないんだ。
この気持ちを抱えて東京ではもう暮らせないし、
今、ヒラノさんが後ろからバイクで追いかけて来たとしても顔を合わせることはできない。
やっぱり、一人でここまで来てよかった。
こんな自分は誰にも見せられない。
もう、ここで終わってしまえばいいのに、延々と引き延ばされている。
引き延ばしているのは自分なのに、その自分と向き合えない。
だから僕は、つまらない人間なんだ。
自転車のライトが照らしてくれるのは、ほんの少しだけ。
しかも、ぼんやりしてて地面なのかも定かじゃない。
僕はサドルをぐっと握りしめて力尽きるまで自転車を漕ぎ続けたんだ。
もうだめだ、そう思ってからが本番だなんていう人がいる。
そうかもしれないけれど、体が言うことを聞かなくなってしまった。
呼吸が落ち着くまで僕は真っ暗な地面を見つめていた。
見上げると、そこは角島灯台のそばだった。
僕は自転車を置いて海岸まで歩いて行った。




