予讃線もいいけれど、ここはひとつバイクで行ってみよう
「道後温泉まで沿岸部を途中で流すから三時間ぐらいかな。
どうする? 乗ってく?」
「お願いします。道後の宿も折半でお願いします」
「いいね、その調子!」
バイクに乗って旅をしたことがない。
そもそもバイク自体、お金持ちの乗り物っていうイメージが僕にはあるからね。
だから今回はヒラノさんと一緒に旅を続けることにした。
ごめんね予讃線の人たち、次回は切符を買うよ。
高松市から道後温泉がある愛媛の松山市までは国道196号を使って走ってゆくんだ。
ちょうど予讃線に沿って進む感じだよ。
「県道に入ったら迷った、戻る前にご飯たべよう」
ヒラノさんはそう言って、ロードサイドの食堂に入った。
注文した他のお客さんの器を見たら……
「豚骨ラーメンだ」
「カイさん違うよ、鶏白湯だよ」
「そう言われれば、豚骨じゃない香り」
「女子はここぞって時にコラーゲン補給しないといけないの」
「潮風から守らないといけませんもんね」
「んっ?」
僕は少し、ヒラノさんの地雷を踏んだようだった。
「早めに頼みましょう。
お客さんで混んじゃいそうだから」
「僕は塩そばで」
「私、中華そば」
「ヒラノさん、コラーゲン補充するって言ってたじゃないですか?
濃厚なドロドロのヤツにすればいいのに」
「あのね、加減ってやつ。
知らないの?」
ヒラノさん、晴れ時々曇り……ところによりデリケート。
扱いづらい人だ。
道中、コンビニに寄ったりして休憩をしたんだ。
話題はなぜ香川県なのにうどんじゃないのか?
そんな他愛もない話を僕たちは真面目にやっていた。
「香川なのにあえてラーメンってチャレンジャーですね」
「それこそ、カイさんの名言だよ」
「僕、そんなにエラいこと言ってないですよ」
「カイさんが言うところの、飽きちゃったんでしょうどんにね。
同じ小麦だからいけるんじゃないかって、やったらいけた案件だよきっと」
「いやいや、小麦の種類が違うので簡単じゃないと思いますよ。
うどんとラーメン、使う小麦の種類が違うので扱ってる業者からじゃないとダメですよ」
「何が違うの?」
「グルテン……タンパク質の量です」
「えっ? 小麦粉って炭水化物じゃないの?」
「そうなんですけど、タンパク質の量を用途別に調節して……そういうこと?」
「何その、自分だけわかっちゃいましたリアクション……少しイラっと来るんだけど」
「いや、もち米とか大豆にタンパク質は入ってるから」
「カイさん。豆入れたら、ずんだ麺。東北で食べたことあるよ」
「枝豆と鶏肉って相性悪くない。そういう事なのかな」
「オチがなかった。次行こうか、乗ってカイさん」
「あ、はい」
そんなこんなで、道後温泉につくまで僕は浅知恵におぼれていた。
そして気づいたことがある。
海がまるで見えない。
ツーリングが好きな人じゃないとだめだ。
見落としていた、バイクが好きな人は別に景色はどうだっていいことを。
これなら素直に予讃線使えばよかった。
まあ、温泉に入るつもりだったから今回は構わないんだけどね。
それにしてもヒラノさんは凄いと思った。
小一時間、体幹トレーニングしてるのと同じだからね。
さすがアスリート、体のつくりが根本から違うみたい。
「どうだった、初ツーリング」
「参りました。二度とごめんです」
「若者よ、ちゃんと鍛えないと女子にモテないぞ!」
「さすが体育女子」
「あん?」
ヒラノさんは意外にブラックジョークが通用しない、
フィジカル乙女だった。




