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小豆島にて(後編)

タナカさんの店で僕らはひとしきりご馳走になり、

彼の奥様の仕事が終わるのを待っていた。


「お待たせしました。それじゃ行きましょうか?」


「無理言って申し訳ございません。カイと隣にいるのがヒラノさんです」


「ヒラノです。お先に出来上がっております」


「私が運転するので大丈夫ですよ、夕日を見終わったらホテルまで送ります」


「申し訳ないです。よろしくお願いします」



エンジェルロードと呼ばれているその場所は夕日と干潮が重なることで、

道のような砂浜があらわれるという。


僕たちは車を降りて、僕は裸足になった。

砂がかかとぐらいまで僕を包み、心地よかった。

タナカさんの奥様は疲れていたのか、あまりしゃべらなかった。

ヒラノさんもさっきまで饒舌だったのに黙っていた。

もちろん僕もだ。


『せとうち日記』はヒラノさんにバッグごとあずけてしまって宿にある。

この景色をどんな風に描写したのだろう。

僕はおそらく女性と思われるその人のことを想像していた。

もしその人が男だったとして、女性的な感情をどのように持つことができたのだろう。

五十歳を迎えるといろんな垣根を越えることができると誰かが言ってたっけ。


そうならば、こうなのか?

怒り、焦り、諦め、拘り、痛み、そんな気持ちも許せるんだろうか。

もし許せたとして、その先にある世界はどんな形をしてるのだろう。

僕はまだその先を見ていない、エッジの向こう側がまるで見えていない。



「私ね、四国を一周したらインストラクターになろうと思って」


「ヒラノさんらしくていいんじゃないですか」


まだ酔っていたのかヒラノさんは、僕に近寄り話しかけて来た。


「こう見えてタイトル持ってんのよ」


「凄いじゃないですか」


「対戦相手もやられるの承知の上で来るでしょ?

 でも私の方が強いじゃん、なぜか顔殴るのがきつくなってきて。

 そしたら私の方がもろに受けちゃったのよね」


「相手のパンチですか?」


「蹴りね」


「あちゃー」


「あの時の私は、あの時完全に死んだ。

 死んだから生き返ることがない。

 もう、前の自分じゃないという実感があるのよ。

 カイさん、これってどういうこと?」


「学説はいろいろありますけど一言でいうと」


「一言ってどんな?」


「飽きた。

 無意識にというか心がその先の末路を読んでた。

 三日坊主なのは生存本能です。

 同じことやってたら必ず相手に学習されて狩られる。

 だから変化を出さないといけないけれど、相手も無策じゃないから出せない。

 そうなると、どん詰まりになる……その場合も狩られる。

 動かなきゃいけないけれど、何かに囚われて縛られてるから動けない。

 そういう話なんじゃないですか?」


「飽きね」


「飽きは太古の私たちが、生きるためのテクニックとして獲得したもの。

 今はそれが邪魔すること、多いですけどね。

 その気持ちに流されるのも、抗うのも正解だと思います」


「カイさん、ようやく作家っぽいね」


「ヒラノさん、その日本語……崩壊してます」


ヒラノさんとの会話が終わるのと同時に日は沈み終わって辺りは暗くなった。



宿に僕らを送ってもらっている道中、タナカさんの奥様は移住までのいきさつを話してくれた。


「私、カメラマンもしてるから出張費用が結構なお値段なんですよ。

 小豆島は作風を考えて前々から目をつけていたんです。近くに大きなホテルもありますしね。

 ある日、旦那が脱サラしたいっていうから香川県の起業支援を受けて一緒にお店を開いたんです」


しっかり者の奥さんがいるから、タナカさんは夢を追いかけることが出来たんだなと少し思った。


「送っていただいて助かります」

「ありがとうございました」


「また、小豆島来てくださいね。

 次はどこに行くんですか?」


「フェリーで高松です」


車を見送った僕たちは宿に入った。


ヒラノさんはそのまま寝てしまったようだった。

僕はソファに横になり、日記の中にある小豆島を探してみた。

日記の中の小豆島はこのような描写があった。



時を止めても私が在り続けるのなら

この夕日を永遠にしてみたい。

そんなことを私は望まない。


絵も写真も私の気持ちには届かない。

だから私は書くことをやめない。


あなたの永遠は私の永遠じゃない。

それでも同じにするのなら、いっそのこと文字にしよう。


私が旅をしながら日記をつづる理由はそこにあったんだ。


あなたにこれがわかってもらえると、

私は、少しうれしい。


あなたがこれを引き継いでくれると、

私は、ただうれしい。


あなたが誰かにたくしてくれるなら、

私は、涙するはずだ。


なぜなら、これこそが私の証なのだから。


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