第74話「選ばせる秩序」
グランデル港。
新しい掲示板が設置された。
大きな地図。
その上に、色分けされた航路。
青。
緑。
そして――赤。
商人たちが集まる。
「これは何だ?」
役人が説明する。
「世界基準航路評価です」
ざわめき。
エリスが前に出る。
「青は安全航路」
「緑は中立」
「赤は危険航路」
誰もが分かる。
黒海は、赤だった。
ガルドが低く言う。
「露骨だな」
レオンは静かに答える。
「見えるようにしただけだ」
その下に数字が並ぶ。
保険料。
到達率。
過去の被害。
すべて公開。
カイナが笑う。
「これで船長は迷わない」
レオンは頷く。
「迷わせない」
商人が呟く。
「赤は……無理だな」
別の者も頷く。
「保険料が跳ね上がってる」
「利益が出ない」
選択が変わる。
命令ではない。
だが確実に。
その頃。
黒海。
ラグナーの元に報告が届く。
「航路評価が公開されました」
紙が渡される。
ラグナーはそれを見る。
赤く塗られた黒海。
数字。
損失率。
「……なるほど」
部下が苛立つ。
「ふざけた真似を」
ラグナーは笑う。
「いや、上手い」
港を見る。
いつもなら来るはずの船。
来ない。
静かな海。
「船が減るな」
低い声。
「だがゼロにはならない」
部下が言う。
「命知らずはいます」
ラグナーは頷く。
「そこだ」
目が光る。
「残った奴らを狙う」
その頃。
グランデル。
レオンは次の手を打つ。
「優遇航路制度を導入する」
エリスが書き留める。
「基準航路利用者には税減免」
「補助金も出す」
ガルドが笑う。
「完全に囲い込みだな」
カイナが言う。
「黒海に行く理由がなくなる」
レオンは静かに言う。
「それが狙いだ」
信用は押し付けない。
だが環境を作る。
その結果――
自然に選ばれる。
数日後。
統計が出る。
黒海航路利用率、急減。
基準航路利用率、急増。
エリスが震える声で言う。
「……動いています」
レオンは海を見る。
「まだだ」
黒海は沈んでいない。
だが確実に削られている。
一方。
ラグナーは静かに酒を飲む。
港は以前より静かだ。
だが彼の目は冷えていない。
「信用は人を集める」
小さく呟く。
「なら」
杯を置く。
「恐怖は人を縛る」
立ち上がる。
「逃げられない場所を作る」
部下が息を呑む。
「何をする気ですか」
ラグナーは笑う。
「簡単だ」
その言葉は軽い。
だが重い。
「航路を潰す」
沈黙。
黒海は、ただ待たない。
次は攻める。
世界基準航路へ。
信用の道そのものを。
戦争は次の段階へ入る。
選ばれる秩序と、
逃げ場を奪う秩序。
その衝突が、始まる。
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