第48話「見えない戦場」
夜明け前。
協議会の緊急決議は、わずか三時間で可決された。
“帝国系短期債務の一括買い取り”
危険。
無謀。
だが選択肢はなかった。
東方自治連合の銀行前。
列は伸び続けている。
「もう終わりだ」
誰かが呟く。
その時、伝令が叫ぶ。
「協議会が債務を引き受けた!」
ざわめきが止まる。
「返済猶予三十日」
「即時支払い凍結」
人々が顔を上げる。
「本当か?」
銀行の扉が開く。
代表が、震える声で告げる。
「破綻はしない」
列の動きが止まる。
逃げる足が、止まる。
それだけで、連鎖は鈍る。
グランデル政庁。
エリスが報告する。
「取り付け速度、減少」
「市場の価格変動、収束傾向」
レオンは、深く息を吐く。
「連鎖は止まりました」
「ですが」
エリスの声は硬い。
「保証基金の残高は危険水域」
「あと一撃来れば」
ガルドが低く言う。
「耐えられない」
その頃。
帝国旗艦。
ヴェルドが、報告書を読んでいた。
「債務買い取り?」
副官が頷く。
「即時保証を拡張」
「連鎖を遮断」
ヴェルドは、初めて眉を動かす。
「体力は?」
「著しく削られています」
ヴェルドは静かに窓の外を見る。
黒い海。
「……想定より速い」
帝国は速さで揺らした。
だが協議会も、速さで応じた。
「恐怖は連鎖する」
ヴェルドは呟く。
「だが信用も、連鎖するのか」
市場。
ミラは、価格板を書き直す。
昨日のような混乱はない。
まだ不安は残る。
だが逃げ惑う顔は減った。
「……止まった」
小さく呟く。
完全な勝利ではない。
小麦は安いまま。
塩は高い。
カルディアは戻らない。
だが協議会は、崩れていない。
夜。
レオンは円卓に立つ。
「第一段階は終わりました」
疲労は隠せない。
「帝国は恐怖を使う」
「我々は信用を速くした」
ユリウスが低く言う。
「だが体力は?」
「削られています」
レオンは正直に答える。
「次は持久戦になります」
東方代表が、ゆっくりと頷く。
「だが今回は、崩れなかった」
それが全てだった。
海の向こう。
帝国はまだ立っている。
砲は撃たれていない。
だが戦争は確実にあった。
見えない戦場で。
恐怖と信用がぶつかり合った。
そして今。
両者は初めて、互いを“脅威”と認識した。
レオンは、静かに呟く。
「帝国は強い」
「だが、我々も速くなった」
窓の外。
黒い艦隊は、まだそこにある。
戦争は終わらない。
だが――
協議会は、まだ立っている。
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