第45話「信用を速くする」
夜明けと同時に、告知が張り出された。
――協議会即時流動保証機構、本日施行。
市場がざわつく。
「何だそれは」
「昨日まで待てと言っていたのに」
中央銀行支部の前。
昨日と同じように、人々が並ぶ。
だが今日は違う。
扉が開くと同時に、兵ではなく記録官が前に出る。
「協議会決済証は、提示と同時に全額保証」
「即時現金交換可」
一瞬、静まり返る。
「本当か?」
最初の老人が震える手で証書を出す。
確認は簡単。
印章確認のみ。
即座に金貨が渡される。
老人の目が見開く。
「……すぐだ」
ざわめきが広がる。
次の人。
次の人。
待ち時間は、ほぼない。
裏付け確認は、後日処理。
今は、待たせない。
ミラは窓口で必死に動く。
「次の方!」
手が震えるが、止まらない。
「速い……」
昨日とは違う空気。
恐怖はまだある。
だが“待ち”がない。
昼前。
帝国商人の列が、わずかに短くなる。
市場に噂が広がる。
「協議会も即時だ」
「待たなくていいらしい」
完全に安心したわけではない。
だが流れが止まる。
政庁。
エリスが報告する。
「現金流出は続いています」
「ですが」
「取り付け速度が鈍化」
レオンは、深く息を吐く。
「間に合ったか」
「まだ分かりません」
ガルドが言う。
「裏付け不足で破綻するぞ」
「承知しています」
レオンは答える。
「だが崩壊よりはましだ」
午後。
市場の価格板が落ち着き始める。
小麦の値は下がったまま。
だが塩は据え置き。
乱高下が止まる。
ミラは、客の目を見る。
昨日のような怯えが、少し薄い。
「怖いけど……」
客が言う。
「昨日よりましだ」
それが全てだった。
帝国側。
旗艦内。
ヴェルドが報告書を読む。
「即時保証開始」
「裏付けは?」
副官が言う。
「後日確認とのこと」
ヴェルドは、わずかに目を細める。
「無謀ですね」
だが笑みは消えない。
「持つでしょうか」
市場は、まだ揺れている。
だが崩れてはいない。
夕方。
中央銀行前の列は、半分に減った。
昨日の絶望はない。
完全な勝利でもない。
だが。
崩壊は止まった。
夜。
レオンは静かに言う。
「信用は遅い」
「だが速くできる」
エリスが小さく笑う。
「危険です」
「ええ」
「ですが、守れました」
完全ではない。
帝国はまだ強い。
カルディアは戻らない。
だが協議会は、今日も立っている。
恐怖は速い。
だが信用も、速くなった。
戦場は、まだ終わらない。
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