表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄されたので辺境で本気を出したら、王国の制度を全部書き換えてしまいました ―戦わずに国家を動かす追放領主の改革録―  作者: 水無月カレン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/39

第4話「正しい改革は、必ず誰かの不利益になる」

変化は、歓迎だけを伴うものではなかった。


グランデル領の空気が動き始めてから、五日目。

最初に表れたのは、数字ではなく――不満だった。


「領主様、少しよろしいでしょうか」


執務室に現れたのは、町の商人組合を束ねる男だった。

年嵩で、腹も出ている。

この領地では、古株にあたる人物だ。


「どうぞ」


レオン=アルヴェインは、帳簿から視線を上げただけで席を勧めた。


商人は、遠慮なく言った。


「最近の施策について、いくつか……困っておりましてな」


「具体的には?」


「兵が畑に出ているでしょう?」

「それで人手が足りない。運送の護衛が減った」

「おかげで、我々の商いが滞っている」


レオンは、即座に答えなかった。

視線は、商人の背後――彼の持つ取引網と倉庫の位置関係を“見て”いた。


(この男の商圏は、旧街道沿い)

(今、整備しているのは新道だ)

(つまり……)


「護衛が減ったのは事実です」


静かに認める。


商人は、勝ち誇ったように頷いた。


「でしょう?」

「このままでは、我々も黙ってはいられませんぞ」


「ですが」


レオンは、淡々と続ける。


「あなた方の倉庫には、まだ余剰在庫があります」

「三週間は、動かなくても困らない」


商人の顔色が変わった。


「なぜ、それを……」


「帳簿に、出ています」


事実だ。

彼らは、危機を装っているだけだった。


「護衛が減ったことで、利益率が下がる」

「それが、不満の正体ですね」


商人は、言葉を失った。


「現状では、全体の安定を優先します」

「新道が完成すれば、あなた方の利益も回復する」


一拍。


「それまで、我慢してください」


商人は、唇を噛みしめた。


「……若いな」


捨て台詞を残して、部屋を出ていく。


ガルドが、腕を組んだ。


「敵を作ったな」


「はい」


レオンは、否定しない。


「ですが、作らなければ進めません」


正しい改革は、必ず誰かの椅子を揺らす。


その日の夜。


街の一角で、小さな騒ぎが起きた。

酒場での乱闘。

原因は、仕事を失った元用心棒たちだ。


「……来ましたか」


報告を聞き、レオンは立ち上がった。


現場に着くと、荒れた空気が広がっていた。

怒号、割れた杯。

人々の視線が、領主へと向く。


「仕事を奪われたんだ!」

「新しいやり方なんて、知るか!」


男たちの叫びは、切実だった。


(理解はできる)


だが――。


「仕事を奪った覚えはありません」


レオンは、よく通る声で言った。


「役割を、変えただけです」


騒ぎが、少し静まる。


「あなた方には、警備の仕事があります」

「新道の見張り、物資の管理」

「明日からでも、始められる」


男たちは、顔を見合わせた。


「……本当か?」


「ええ」

「ただし、条件があります」


全員が息を呑む。


「規律を守ること」

「剣ではなく、責任で評価します」


しばしの沈黙の後――。


「……分かった」


一人が、そう言った。

やがて、他も頷く。


完全な納得ではない。

だが、爆発は防げた。


その夜、ガルドがぽつりと呟いた。


「楽じゃないな」


「楽な改革は、存在しません」


レオンは、帳簿を開いた。


数字は、正直だった。


短期的には、反発。

一時的な混乱。


だが。


(犯罪件数、減少)

(食糧備蓄、回復)

(流通、徐々に改善)


痛みはある。

だが、方向は間違っていない。


「……この領地は、変わります」


誰に聞かせるでもなく、そう言った。


そしてその頃。


王都では、まだ誰も知らなかった。


辺境で始まった改革が、

いずれ王国そのものを揺らすことを。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ