表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄されたので辺境で本気を出したら、王国の制度を全部書き換えてしまいました ―戦わずに国家を動かす追放領主の改革録―  作者: 水無月カレン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/40

第3話「最初に切ったのは、税でも兵でもなかった」

帳簿は、思ったよりも整っていた。


それが、レオン=アルヴェインの最初の感想だった。


「……意外ですね」


代官の執務室。

積み上げられた帳簿を一冊ずつ確認しながら、レオンはそう呟いた。


「帳簿そのものは、嘘をついていない」


数字は正直だ。

誤魔化す意図がある帳簿は、必ず歪む。

だが、ここにある数字は――素直すぎるほど素直だった。


「褒められているのか、分からんな……」


代官が苦笑する。


「褒めています。ただし」


レオンは、ページをめくる手を止めた。


「使われていません」


代官が、きょとんとする。


「数字は、記録されています。でも――判断に使われていない」

「だから、この領地は“何も決めていない”のと同じ状態です」


沈黙。


ガルドが、腕を組んだまま低く言った。


「つまり?」


「問題が起きたら、その場しのぎで対処する」

「先を読まない。準備しない。責任の所在も曖昧」


レオンは淡々と告げる。


「それが、今のグランデル領です」


代官は、反論しなかった。

できなかった、と言う方が正しい。


「……では、何から手を付けるおつもりで?」


問いは、半ば祈りだった。


税か。

治安か。

食糧か。


どれもが致命的で、どれもが後回しにされてきた。


レオンは、静かに言った。


「まず――人を動かします」


「人?」


代官が、目を瞬く。


「税でも、兵でもない?」

「この状況で?」


「はい」


レオンは、帳簿を閉じた。


「働いていない人間が、多すぎます」

「正確には、“働けるのに、役割を与えられていない”」


代官は、思わず声を荒げた。


「しかし! 仕事など……」

「農地は荒れ、商いは滞り、兵も余裕がない!」


「だからです」


レオンは、初めて代官をまっすぐ見た。


「だから、役割を再配置する」


室内が静まり返る。


「兵を、畑に出します」


「なっ……!」


代官とガルドが、同時に声を上げた。


「兵は、戦うための存在ですぞ!」


ガルドの反論は、真っ当だった。


「戦うためには、食べなければならない」


レオンは即座に返す。


「今の兵は、訓練も不十分で、士気も低い」

「その状態で剣を振るわせるより、土地を耕させた方が――」


言葉を区切る。


「戦力になります」


代官が、信じられないものを見る目をした。


「兵に……農作業を……?」


「はい。交代制で」

「農民には道と水路の整備を」

「盗賊上がりは、警備と見張りに」


淡々と、だが迷いなく。


「全員に“仕事”を与えます」

「賃金は、最低限ですが即金で」


代官は、息を呑んだ。


「そんな金は……」


「あります」


レオンは帳簿を指で叩いた。


「備蓄と名目だけで眠っている銀貨が」

「使わなければ、価値はゼロです」


ガルドが、低く笑った。


「……面白い」


「兵が畑を耕せば、食糧が増える」

「食糧が増えれば、治安が安定する」

「治安が安定すれば、税が取れる」


レオンは続ける。


「これは、博打ではありません」

「順番の問題です」


代官は、しばらく黙っていたが――やがて、深く頭を下げた。


「……やってみましょう」

「失敗すれば、責任は私が取る」


「いいえ」


レオンは、即座に否定した。


「責任は、私が取ります」

「そのために、ここに来たのですから」


その言葉に、代官の目が揺れた。


数日後。


街の空気は、目に見えて変わった。


畑に出る兵。

道を直す農民。

働く理由を与えられた人々。


「……動いてるな」


ガルドが、ぽつりと呟く。


「はい」


レオンは、数字を“見て”いた。


人口の流動。

食糧備蓄の回復速度。

犯罪件数の低下。


(……もう、回り始めている)


小さな変化。

だが、確実な変化。


グランデル領は、静かに息を吹き返し始めていた。


王都の誰も知らない場所で、

「無能」と切り捨てられた男は、

最初の一手を、正しく打った。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、

ブックマーク や 評価 をお願いします。


応援が励みになります!


これからもどうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ