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死神の生にさよならを

「陛下…!セッキ様が…!」

陛下と呼ばれた男性は、水面に映る光景に顔を顰め、命令を下す。

「即刻、セッキ殿を“この世界”へお連れしろ」

忙しなく何かの準備を進める横で蒼い炎を湛えた執事が立っている。

「セッキ様……」

蒼から灰色に変わった炎がふるりと心配そうに揺らめいた。


白い髪が揺れる。

赤い目が瞬く。

『死神』

『死神は学校来るなよ』

夜風が頬に触れる度、夜の闇のように仄暗い記憶が蘇る。

髪を乱暴に掴まれ、疎らに髪を切り落とされたこと。

死神と書かれた紙を背中に貼られ、陰で笑われていたこと。

全て捨てることにした。

死神と揶揄された私が自ら死を選ぼうと学校の屋上にやって来たのだ。

フェンスをよじ登り、屋上の縁を足で踏みつける

一歩踏み出せば楽になれる。

不思議と怖くはない。

この足を前に出せばきっと変われるのだと確信しているのだ。

死神と罵られ虐められた日々。

義理の両親でさえ自分を愛することはついぞ無かった。

そんな日常からやっとおさらばできると空を踏み抜いた。

衝撃が無いと思ったその時、眩い光に包まれる。

「セッキ様……」

私の名前を呼ぶ声が聞こえた気がした。



目を覚ますと目の前には澄んだ青空。

清々しい風が頬を撫でていく。

揺らぐ草花が頬に触れ、少しくすぐったい。

「……あれ……私」

少し冷静になり記憶を辿る。

しかし、はっきり思い出す前に何かが視界に現れた。

「セッキ様!お目覚めですか」

犬だ。

黒い体毛に黒目がちな瞳。

眉のような目の上の白い毛が可愛らしい。

そんな犬が話しかけてきた。

「犬…!?」

思わず起き上がり、犬に頭突きをしてしまう。

「キャンッ」

「いたっ!…ごめんなさい!」

額を押さえ、反射的に謝ると犬はぶつかった鼻を擦りながら、

「いえ、大丈夫です!セッキ様はお怪我はありませんか」

と声を出した。

やはり喋っている。

喋っている上に、二足で立っている。

流暢に言葉を操る犬が私の心配をしている。

「大丈夫……です」

理解が追いつかないまま返事を返すと、安堵したかのように耳がぴこんと揺れた。

「良かったです!あ、申し遅れました。私国王に仕えている使用人見習いのコルトと申します!」

とコルトと名乗った犬はその小さな体で丁寧にお辞儀をして私に向き直った。

「あ、え、と、私は、萩野雪鬼と申します」

コルトに合わせ、頭を下げるとコルトは慌てて両手を振る。

「そんなそんな!貴方様が頭を下げられるほどの者ではございません!」

何故こんなにも謙っているのだろうか。

夢を疑って腕を抓ってみるが鈍い痛みが返ってくるだけだ。

その痛みでぼんやりとした記憶が形づいていく。

白い髪に赤い目で死神と呼ばれいじめられてきたこと。

全てに嫌気がさし、自ら死を選んだこと。

「私……死んでない……?」

自身の手のひらと制服を見つめながら、言葉を零す。

「セッキ様!まだ混乱していらっしゃるでしょうから、私に着いて来てください!道すがらお話致します!」

とコルトは笑顔で可愛らしい手を私に差し出す。

色々と混乱は尽きないが、明らかに異常な事態に一人残されてはたまらないと、可愛らしい笑顔のコルトの手を取った。


コルトの手を取ったあと、少し離れた森からぞろぞろとコルトよりも大きな兵士らしき犬たちが現れた。

犬の獣人──彼らはこの国では一般的な兵士らしい。

ドーベルマンのような凛々しい顔をした犬の兵士に

「セッキ様、お初にお目にかかります。私は国王直属騎士団リティリア軍騎士団長、ロクスと申します。ここから先、王国まで護衛致します。」

と敬礼され、萎縮してしまう。

私が威圧されないように離れて待機していたらしい。

「こちらへ」

促されるまま視線を移すと、これまたおとぎ話に出てきそうな馬のようなドラゴンのような生き物が引く馬車がそこにはあった。

どうやらこの馬車で移動するらしい。

優しい瞳をした馬は乗れと言うように一つ嘶いた。


馬車に揺られる中、コルトがちょこんと前の席に座っている。

騎士団が出てきた時は流石に少し怖いと感じてしまった為、可愛らしいコルトがいるのは安心する。

コルトがコホンと咳払いをして説明を始めた。

「まずここはリティリア王国という国で、セッキ様がいらっしゃった世界とは違う世界なのです」

「違う世界……」

喋る犬がいる時点で不思議だとは感じていたが夢ではなく現実で、私がいた世界とは違う世界ということらしい。

いつの日か盗み読んだ漫画のお話のようだ。

「そしてなぜこの世界にお連れしたかと言いますと。セッキ様の御髪の色、そして瞳の色はこの世界でもとても珍しく……」

髪と目の話が出るとどうしても動悸がしてしまう。

老婆のように白い髪。

血のように赤い瞳。

雪女や死神などと散々言われてきた。

孤児だった私を引き取って育てられた義理の両親も気味が悪いとよく罵っていたものだ。

不可思議なこの世界でも言われるのだろうか。

「神聖な者の証とされております。」

「……神聖?」

予想だにしてなかった言葉に思わず聞き返す。

「はい!貴方様の雪のように美しい白い御髪にルビリアのように光り輝く赤い瞳は古来より女神の証として伝えられているのです!」

コルトは嬉しそうに尻尾を振りながら目を輝かせた。

「女神って……ルビリアってなに?」

「そうですね……。セッキ様の世界で言うルビーのような宝石のことです!」

初めて聞く単語に、ここが異世界なのだと実感させられる。

雪のような髪にルビーのような瞳。

そんなにも褒められるのには慣れていないからか顔が熱くなる。

ふと、コルトの言葉に引っかかりを覚え、質問を飛ばした。

「ルビーを知っているの?」

違う世界の筈なのに私の世界の宝石を知っているのは何故なのだろうか。

「それはですね」

コルトが自慢げに胸を手で叩く。

「我が国の城には水鏡という魔法道具がございまして。それを覗くと別の世界が見えるのです!今のところはセッキ様の世界しか見ることはできませんが……」

魔法道具……本当にそんな言葉が現実にあるなんて。

なんとなく想像は付くがどんなものなのだろうか。

そして、コルトはそこまで自慢げだった様子とは打って変わって申し訳なさそうにこちらを見つめてくる。

「その、誠に勝手ながらセッキ様を鑑定させて頂きまして……」

「鑑定?」

「セッキ様の力、と言いますか。そちらを見させて頂きました」

「力……」

「そうしましたらですね……」

コルトは指を口に当て勿体ぶったかと思うとパッと小さな両手を顔の上にまで上げ、

「女神様の力を持っていることが判明致しました!」

ぱっと明るい笑顔を見せた。

しかし、何が何だか分からない私は押し黙ってしまい、気まずい沈黙が流れる。

女神様の力?

それはすごい力なのだろうか。

名前からしてすごい力な気がするが。

コルトが咳払いをして沈黙を取り払う。

「ええっと、女神様の力と言うのはですね……とにかくすごいんです」

思ったよりもふんわりとした回答が返ってきたので驚いてしまう。

コルトは考えるような姿勢で、うーんと唸った。

「というのも、まだ全ての力が判明している訳では無いのです。傷を癒す力、軍の士気を高める力……まだまだあるようなのですがこれは分かっている中でもごく一部なのです」

あまりにも自分に似つかない壮大な話だ。

死神と呼ばれてきた私とは、まるで正反対の存在。

「人違いなのでは……」

「とんでもないです!その美しい容姿を間違える訳などございません!」

ぶんぶんと両手と顔を振り否定するコルト。

美しい、なんて自分に冠される言葉では無い。

しかしその一方で、私がいた世界でこの見た目を間違えるのは確かに可能性は低いだろう。

「ええとですね。その女神様の力を持つお方がこの国を救うと予言がございまして」

「この国を救う!?私が?」

突飛なことは今に始まった話ではないが、まさか国を救うとは大きく出たものだ。

どこか別の誰かの話をしているかのように現実味がない。

「はい!そしてセッキ様は我が国の王子殿下と結婚して奇跡の子を産んで頂きたいのです!」

「……は?」

衝撃的な言葉のすぐ後に到着致しましたと声を掛けられ呆然としたまま馬車を降りることとなった。

初投稿になります。

どうぞよろしくお願いいたします。

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