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6.夢の中

 私は再び眠りに就いた。そして再び夢を見た。同じ景色である。景色は静止していない。自転車から見る景色のように移り変わっていく。私は歩いているのか、走っているのか、自転車に乗っているのか分からなかったが、同じ景色である。進んでも進んでも、目的地に着かない。その内、どこに向かっているのか分からなくなる。

「私はどこに向かおうとしているのか?」

 夢の中で叫ぶ。

「もしもし」

 背後から声をかける者がいる。

 振り向くと、2人の警察官が立っていた。

「道端で人が倒れていると通報が有りました」

 私は完全に目を覚ました。朝のさわやかな風と光が感じられた。そうか、私は夢を見ていたのか。しかし、夢の中の景色と目の前の景色は時間の違いだけの様に思えた。夢を覚えているうちに、夢を観察しよう。

 夢に出てくる景色は目の前の景色と同じように思えた。その夢は私の人生の中で何度も見る夢だった。私は考えた。おそらくこの道は昔来たことが有る。そして、その時、同じように、道に迷ったのだ。それ以来、何度も夢でうなされるのだ。

「寝ていただけですよ」

「いつも道端で寝るのですか?」

「いえ、今日だけです」

「何故、今日だけ寝ていたのですか?」

「歩き疲れたからです」

「何故、歩き疲れたのですか?」

 警察官の尋問は厳しかった。不審な兆候を見つけるために執ようだった。

「道を間違えたようです」

「どこに行く予定だったのですか?」

「寿司屋です。そして、見つからなかったので、K駅に引き返したのです」

「電車に乗って、寿司を食べに来たのですか?」

「そうです。いとこの健ちゃんがやっている店です」

「何という店ですか?」

「覚えていません。確か、駅の近くだったと思います」

「駅の近くに寿司屋はありませんよ」

「30年以上も前に1回来たきりだけなので、良く覚えていません」

「何故、覚えていないのに電車に乗ってまで来たのですか?」

「良く覚えていません」

 警察官は決定的な矛盾を見つけた。この老人はボケている。もしくは何かを隠している。

「これから、どうされますか?」

「家に帰ります」

 その後、警察官は住所氏名を聞き出した。

「駅まで遠いですから、パトカーで送ります。駅まで送れば、1人で帰れますか?」

「はい、帰れます」

 私は怪しまれない様に、きっぱりと答えた。

「何駅までの切符ですか?」

「D駅です。でもicocaです」

 警察官は不審者の扱いを解いた。私は腹が減って倒れそうであった。しかし、ここで食堂に連れて行ってくれとは言えなかったので、駅の売店でパンと牛乳の紙パックを買うことにした。

 私のささやかな大冒険はここで終わった。


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