5.夢遊病者
私はのそのそと起き上がった。体が金縛りになっているように重たく、自由に動かない。私はその場で佇んだまま周囲を観察した。広い車道と広い遊歩道が場違いに続いている。車も人も通っていない。私が寝ている間も通っていなかったのだろうか?道の両側には何かがある。ビルでもない。店でもない。住宅でもない。倉庫なのだろうか?分かるのは人がいない事と農地や空き地ではない事くらいである。
そして、等間隔に街路樹が有り、街灯がある。太陽の恩恵は徐々に無くなったが、街灯の灯りが闇夜の進行を留めていた。はるか前方に住宅群の灯が見える。しかし歩いて行くには遠い距離だ。そもそも、私はどちらからどちらに向かって歩いて来たのだろう。どこを向いても駅もショッピング・モールも見えない。住宅のある所に駅はないであろう。つまり、住宅の灯りに向かう意味はないのだ。
そして、肝心なことに気が付いた。暗くはなっているが、この景色は夢の中の景色と同じだったのだ。夢の中では明るかった景色が、目が覚めると暗くなっただけである。
私は疲れていた。何故こんなに疲れているのか分からなかった。動く気にもなれなかった。それよりも、どちらに向かって歩けば良いのかが分からなかった。
「誰か通らないかな。会えたら訊くのに・・・ここはどこ?私はどこに行こうとしているの?」
否、もっと大事な質問がある。
「ここは夢の中ですか?」
誰も通りそうにない。私は考えた。私は疲れている。ここは雪山ではない。私は雪山に登ったことはない。しかし、ここは雪山より安全そうである。いい案が浮かんだ。それは、果報は寝て待て!だ。もう1度寝ることにした。空を見上げた。星空が見える。天候は私に味方してくれている。それほど悪い事は起きていない。それに、又、夢を見れば無事脱出できるかも知れない。
私は、歩行者の邪魔にならない様に、自転車に轢かれない様に、しかし、見つけ易いように気を配りながら、再度道端に寝そべった。




