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2.冒険の始まり

 80年生きてきて、冒険の始まりを意識したことがない。それは必ず後で判るものである。その日の朝、私は散歩に出かけた。それが冒険の始まりであるとは思いもしなかった。とは言え、私は財布を持っていた。

「何があるか分からないから財布は持っておくのよ」

 突然の別れになった彼女が残した言葉だ。

 いつの頃からか、公園の周りを散歩するようになっていた。しかし、植物園のような緑の多い公園の周りを散歩するのは楽しかったが、金網に囲まれたグラウンドの周りを散歩しても少しも楽しくない。きれいな玉砂利で舗装されていても、ところどころにベンチが置いてあっても、憩いのコースではなかった。

 公園は近くて、小さいので、1周しても散歩量が少ない。公園が緑にあふれていた時は2周する時もあったが、殺風景になった今はその気になれない。

 その朝は、公園の向こう側へ足を延ばそうと考えた。そこは古びた商店街通りである。昔、栄えた面影があるのだが、今は半分以上が店を辞めている。店であった1階部分を空けたまま住まいになっている。看板や、テント屋根などが残ったままだ。それは住宅街よりみすぼらしい。その商店街を横断して住宅街に入った。そこは突然碁盤上の街路では無くなっている。全ての道路が斜めに交差している。私は迷路に足を踏み入れた。


 私は子供の頃からよく道に迷った。しかし、迷った結果たどり着けない事は無かった。その為か、道に迷った事は覚えていない。何故、道に迷った事が分かるかと言うと、夢にうなされるからだ。子供の時からこの年になるまで道に迷った夢を見る。絶対に目的地に着けない。着くまでにうなされて目を覚ます。

 昔、仕事仲間と初めての町で道に迷った事がある。その時、彼は「そこの角を曲がれば最初の道に戻る」と言った。私には不思議に思えた。未知の世界を予言したのだ。彼の頭には地図が創られていたのだろう。私には絶対に無理な能力だ。私の場合は地図を見た事が有っても、頭に描けない。

 別の不動産仲間の先輩は、1度見た地図は殆ど覚えていた。12歳ほど年上だった。その先輩が徘徊するので、家族が家から出さない様にしていると聞いた。それを聞いて、私はいつ徘徊が始まるのかを恐れていた。


 その日、私は迷路に足を踏み入れた。その自覚は無かった。たかが散歩コースの延長である。ところが、引き返せないのである。どこをどう曲がったか思い出せない。途中人に出会ったが、恥ずかしくて道を訊くこともできない。又,訊いても大雑把な方角しか教えてもらえないだろう。入り組んだ道を教えてもらっても頭に描けない。私は歩き続けて、くたくたになりながら隣のM駅に辿り着いた。私は電車で帰ることにした。

 M駅は急行停車駅だった。私は各停電車と思い込み急行電車に乗ってしまった。しかも方角が逆だった。私は座ると同時に疲れからウトウトし始めた。



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