拝啓、俺の大好きな人へ___。
10年後も、100年後も変わらない。どれだけ経とうと、それは変わらないものだ。
好きな人が出来た。名前を、あんずという。彼女は、おしとやかで、みんなから好かれる存在だった。そんな彼女と、冴えない俺が10年後に結婚するなんて・・・。誰が予想できるだろうか。たしかに、彼女のことを好いていた男子も少なからずいた。でも、僕たちが結婚報告をしたとき、彼女の友達が皆して、
「おめでとう!!」
と、祝福してくれたのだ。嬉しかった。初めてできた好きな人で、恋人で、婚約者。全てが、彼女のお陰で変われたのだ。
何もかもが真反対だった俺たちは、学生時代は苦労したもんだ。一人っ子の俺と、3人兄妹の末っ子のあんず。多々どこかへ遊びに行くことはあったが、その度に僕は怒られてばっかだった。
「もー!!大和!!遅い!!」
「ご、ごめん」
今思い返せば、お似合いで、お似合いじゃなかったカップルだろう。毎度、あんずには暮れていた。
「でも、そういうところも好きだなぁ」
全てが、真反対である俺たち。でも、変わらないものだってあった。それは、『愛』。どんなことがあっても、俺たちは変わらず恋人を愛していた。それが、結婚までの道を辿ることになったきっかけだろう。
「あ、おかえり。大和」
「ただいまー」
今では、同棲もしていて、僕が仕事から帰れば、あんずが玄関で迎えてくれるのが日常となった。僕たちは、今日で結婚して1年が経つ。もう、6年間も一緒にいるのだ。これだけいたら、倦怠期も真っ只中となって、段々と愛が薄れていくものだろう。でも、俺たちは違う。
「あんず。1年間ありがとう。こんな俺と結婚してくれて。大好きだぞ」
「私だって!!たしかに冴えないかもだけどさ、でも、私にしかわからない大和の良さがあって好きになったんだから!!結婚してくれてありがとう、大和」
俺たちは、仲のいい夫婦だ。この思いは、どれだけ時間が経とうと、変わらない。そのうち、1番が子供になる日が来るかもしれないが、それとこれはまた別だ。僕は、完璧で愛おしい妻を愛すのだ。
そんな日常が、何時間と、何日と続いていく。帰ったらハグを交わして、一緒に食卓を囲み、一緒に寝る。毎日が楽しくて、新鮮で・・・。形にもできて、言葉にも出せる『しあわせ』だった。
しかし、現実は俺を殺そうとしてくる。ある日突然、あんずは病気にかかった。それは、不治の病。研究も進んでいなくて、致死率は100%だそうだ。
「あんず・・・」
日を越すうちに、段々と彼女の表情が重くなっていく。その度に、分かってしまう。
「治ったら、また一緒にどこかへ行こうね」
必死に、あんずは笑顔を振りまいている。しかし、何年共に過ごしてきたと思っているんだ。俺には、分かってしまうのだ。
「あんず・・・」
あんずは、無理をしている。生きることができないって分かっているのに、それでも、俺に心配をかけたくないのか、あんずは笑顔のままで話続ける。
「今日ね、めちゃくちゃ頑張ったんだよ!!」
楽しそうに話すあんずだが、俺は楽しそうにできなかった。だって、だって・・・。世界で一番愛したあんずが、死んでしまうから。もう、後もないと医者にも言われた。それで、どうやって笑顔でいろって言えるのだ。
「ねぇ、大和・・・」
「どうした?」
「あなたは、私のことが好き?」
そんなの、決まってるじゃないか。
「好きだ。大好きだ。だから、だから・・・」
自然と、涙が溢れ出ていた。
「行かないでくれ・・・」
「大和・・・」
病室に、弱々しい二人の声が響く。何度だって、願った。嘘なんじゃないかと。あんずは、実は元気なんじゃないかって。何度だって、そう願った。しかし、日は進み、時は刻んで。
「11時36分、息を引き取りました」
俺が、初めて愛した、世界一の妻、あんずはこの世を去った。彼女の顔を見た刹那、涙を我慢するなんて出来なかった。今までのことが脳内で再生されて、その思い出の一つ一つが俺を泣かせてくる。
「あんず!!あんず・・・!!」
泣いても、泣きすがっても。あんずは目を覚まさなかった。彼女の手に触れれば、それはとても冷たくなっていた。いつも俺が見ていた、あの笑顔はもうそこにはなかった。何度だって、悲しみに暮れた。いつ、どこにいても。彼女の笑顔を思い出したら、自然と涙が込み上げてきたのだ。
「大和くん。無理して仕事に来なくてもいいんだぞ?」
それだったら、彼女が怒ってしまう。仕事は、行かなければいけないのだ。
仕事が終わって、あんずの墓へ寄る。季節が春なもんで、桜の木が、凛々と咲いていた。風が舞った瞬間に、桜の花が飛び散り、あんずの墓の上に乗っかった。
「ははっ。桜ついてんぞ」
指で桜を摘まんで、そっと地面に置いてあげる。そして、あんずの墓を撫でる。
「あんず・・・また会いたいよ」
もう、あの頭を撫でることだって、できない。笑顔を生で見ることも、できない。でも。
「あんず。大好きだぞ」
届かない声だが、声に出して、天国にいるあんずに言う。
俺の愛したあんずは、死んでしまった。でも、それでも・・・。この世に生まれてきた女の子
『白石あんず』
を、俺は愛し続ける。何年経とうと、俺が死んだって、転生したって・・・。僕は、あんずという少女を、変わらず愛し続けるのだ。