死にたい奴に恋をしろ
僕の人生は、満足できるものじゃない。顔だってキモいし、オタクだし、臭いし。皆から、煙たがられる存在だ。毎日、酷い言葉を浴びる生活。それでも、ぼくは生き続ける。そんな人生、何が楽しい?って思うだろう。だったら、この僕が教えてやるよ。
”生きることが、素晴らしいということを”
僕は高校2年生。皆から嫌われている、キモオタだ。朝、教室を開ければ、
「はははっ!!お前にお似合いじゃねぇか!!その姿」
どうやら、ドアの上の隙間に水の入ったバケツを仕込んでいたらしい。そのせいで、僕は朝から濡れてしまった。
「おはよう。みんな」
「きめぇな。オタクが喋んなよ」
毎日、僕はそうやって言われる。挨拶をしても、誰だって返してくれない。それが、僕という人間だった。これだけ悪質かつわかりやすいいじめを受けていても、教師も口出しをしない。小さい頃は、命を捨てようとも思った。しかし、僕は生き続ける選択をした。きっと、生きていればいいことがあると思ったから。でも、いいことなんて何も起こらなかった。
「今日も、誰も話してくれなかったな」
毎日、分かっていることだが、誰も僕に話しかけてくるなんてことはない。そりゃそうか。だって、僕は嫌われものだから。僕と関わると、皆不幸になるから。
「不幸になる存在、か」
疫病神、というやつだ。そんな神、必要あるか?僕が生きていたって、何も貢献できやしない。僕が生きていたって、誰も幸せにできない。だったら、だったら・・・。気づけば、僕は川が見える橋に立っていた。
「だったら、もう」
命を捨てたって、良くないか?疫病神は、いるだけ不幸だ。そんな不幸の象徴、この世界にはいらない。
「これで、社会に貢献できるなら」
僕は、荷物を地面に置いて、そして・・・。
「まって」
突然、そんな言葉が聞こえた。
「え?」
誰かに話しかけられたのは、いつぶりだろうか。もう、数年はそんなことなかっただろう。
「君は今、何をしようとしてたの?」
「君には関係のない話だよ」
「関係ある。だって、私はあなたを呼び止めたから」
「え?」
言われて、気づく。僕が今会話しているのは、女子だ。人生で初めて話す、女子。
「で、何をしようとしてたの?」
「なんだっていいだろ!!社会に俺は不必要なんだ」
「・・・そう」
思った反応とはちがく、その少女は否定をしなかった。
「死にたいの?」
「あぁ、死にたい。死にたいよ。だって、僕は疫病神だから」
「疫病神なの。そう。じゃあ、最後にいいことを教えてあげる」
「え?」
「あなたは、疫病神なんでしょ?疫病神って、不必要だよね。要らない存在。でもね、疫病神でも”神”っていう”名誉”があるんだよ」
ただ罵っているように聞こえたが、僕はそうじゃなかった。
「あ、あぁ・・・」
自然と、涙が溢れる。
「ぽっと出の女に、そんなこと言われる筋合いはねぇよ」
「死んで、どうするの?」
「え?」
「死んだあとは、どこにいくの?天国?地獄?それとも、霊界?」
わかるわけないだろ。死んだことがないんだから。
「なんで、あなたは泣いてるの?どうして、一度死ぬことをやめたの?」
うるさい。
「本当に不必要なの?」
うるさい。
「なんで泣くことができるの?」
「うるさいんだよ!!おれが死んだって、どうだっていいんだ!!おれが死ぬことで、社会の役に立てるんだ。その方が名誉なことじゃねぇか!!疫病神?ふざけたこと抜かしてんじゃねぇよ!!」
そんな、怒声が響く。なんだよ。ただ話しかけてきただけの分際で。
「そう。それじゃあ、変わろうと思わないの?」
「は?」
「見返してやろうって」
「・・・は?」
「それじゃあ、こんな話知ってる?とある科学者がね、実験を行ったの。毎日誉め言葉を浴びせて、水やりをした植物と、罵声を浴びせて水やりをした植物。結果は、誉め言葉を浴びせた植物は、普通よりも早く花を開花させたの。でも、罵声を浴びせた植物はどうなったと思う?」
「しらねぇよ」
「芽吹かずに、そのまま枯れてしまったの」
「だからなんだって言うんだ」
「つまりね。あなたは、今その罵声を浴びせられた植物なの。でも、『死ぬ』前に、誉め言葉を貰えたら。植物は、また頑張って生きようとするんだよ?もう、言いたいことわかるよね?」
つまり、つまり。そういうことか?
「でも、お前も裏切るんだろ?」
「ううん。裏切らない。あなたは、『華のある人間だよ』」
「っ・・・」
「変わってみよう。いじめてきたやつを、見返してやろう。私と、一緒に頑張ろう?」
でも、でも。疫病神は、厄を注ぐ悪神だ。そんな僕が、生きている意味は。
「幸せは、形じゃないんだよ」
「・・・は?」
「幸せは、形じゃない。定義も、なにもない。でも、『幸せ』というのは、『あなたが望む未来』なんだよ」
おれが、望む未来。
「私は、あなたのことが好き」
「あぁ、あぁ・・・」
初めて、人にそう言ってもらえた。涙が、止まらない。
「泣いたっていい。くじけたって。それでも、何度も、また何度も。あなたは立ち上がるの。その未来には、必ず幸せが待っているんだよ」
僕を、救ってくれた少女。彼女が、僕のことを『好き』と言ってくれた。人の温かさを、教えてくれた。人生は、捨てたものじゃない。あぁ。全て、少女の言う通りだ。
『僕は、華のある人間だ』
全て、全て。見返してやろう。
1年後、僕の評価は、完全に変わっていた。
「今日もかっこいい!!」
あのときとは違って、そんな言葉が聞こえてくる。あぁ。あの少女のお陰だ。人は、植物と同じだ。死ぬまで、いくらでも変わることはできる。踏まれても、また立ち上がる。努力して、立ち上がった先に、植物はきれいな花を咲かせる。だから、僕は言いたい。経験者として、世の中の少年少女に語る。
『死にたい奴に、恋をしろ』