第二話: 猫好きは思ってたのと違った
......明るい。
神の領域ほどではないが、明るさを感じる。
意識がはっきりとするにつれて先ほどまでの出来事が思い出される。
(そうか......俺は死んで、生まれ変わったのか......。)
俺は前世で多くの猫を保護し、最後には車に轢かれ命を落とす運命だった黒猫を救って命を落とした。
そのことでガトディオスと名乗った別世界の猫神に気に入られ、彼の世界で猫として新たな生を送らせてもらえることとなったのだ。
(......意識がはっきりしているな......。まだ身体はうまく動かせないし、俺は子猫のはずだろう...?本当に猫になれたのだろうか......。)
俺はガトディオスによって猫として新たな生を受けたはずだ。つまり、子猫からの人生になるのだと思っていた。しかし意識が思いの外はっきりとしているので思わずガトディオスを疑ってしまう。
身体同様にうまく動かせない瞼を気合で持ち上げ、自分の身体の確認を試みる。
(うぅ……眩しい……。……これは……手、肉球に……毛!)
窓から差し込む朝日に照らし出された自身の手を見て俺は少し感動する。
だが直後、俺は違和感に気付く。
(肉球に紺色の毛!猫だ!それに、そこから伸びるペールオレンジの細長い腕!これも猫……ねこ?)
(ペールオレンジの毛色の猫?この世界の猫はペールオレンジの毛なのか……?いや……これは_____)
俺は窓に目を移した。そして俺は窓に映った自分自身の姿を見てこの世界に来て初めて声を発した。
「んなぁあああああああああ!!!???なんっっっだこれぇえええええええええ!!!???」
窓ガラスに映し出された俺は、猫ではなかった。
「なんだこれ!?猫じゃない!
人間......でもない!?」
俺は猫ではなかったが、人間でもなかった。
勿論犬や馬といった他の動物だったわけでもない。
そう、簡単に言ってしまえば俺は、猫と人間の中間、いわゆる "猫人族" と呼ばれる種族であった__________。
「ね、ね、ね、猫じゃないじゃん!!!いやたしかに猫ではあるけど!同じ目線で、生きられると思っていたのに、目線の高さも立場も全っっっ然違うじゃないか!!!!!」
まさかの自分の姿に気を取り乱した俺は、前世でも出したことの無いような大声で驚きの声をあげた。
ガトディオスの含みを持った笑みの意味がこのサプライズであることに気付いた次の瞬間、俺の驚きの声に呼応するようにしてもう一つのガトディオスのサプライズが俺を襲った。
「んなああああ!」
「うわっ!なんだ!?」
突然に自身の近くから湧いた大きな声に驚き、声の元へ目をやる。
そこにいたのは先ほど窓ガラスに映った今世の自分と瓜二つの、猫人族の赤子であった。
(俺の声に驚いて泣き始めてしまったのか......。それにしても、俺とそっくりだ。この種族の赤ちゃんは見分けがつかないのか?いや......)
初めこの種族の赤子は見分けが付きづらいだけとも考えたが、言葉には説明できない感覚が俺を別の結論へ導く。
「君が今世での俺の、家族なんだな。」
言い表しようのない感覚が、この猫人族の赤子とのつながりを感じさせる。
その感覚だけが判断材料だが、それは俺たちが家族であることの確証を得るには十分すぎるほど、強く心に刻まれたものであった。
____________________________
俺が今世で意識を持ってから約二週間がたった頃、俺は自身とその家族について大体のことを把握することが出来た。
俺は今世ではリックという名を与えられたようだ。産まれてからは1年と少し経った頃らしく、立って歩いたり簡単な話をする程度なら怪しまれないのでありがたい。
俺の家族は父親のスクリダ、母親のナラ、兄のエック、そして俺の四人だ。
兄はあの晩俺の声で驚かせてしまった赤子だ。どうやら俺たちは双子の兄弟であり、それがあのつながりを感じた所以なのであろう。
父親のスクリダは夕方になると家を出て朝方になると帰ってくることが多く、初めはとんでもない父親なのではと疑った。しかしどうやらスクリダは夜勤に出ているようで、毎日お金の入った革袋を持って帰ってくることに気が付いてから疑ってしまったことを心の中で謝罪した。
母親のナラはどこか抜けているようで、よく俺たちのことを取り違えてはスクリダに修正されている。
俺の家族は総じて普通の家で、優しさや平和といった言葉がよく似合うものだと感じた。
(これもガトディオスのくれた【良縁の加護】のおかげなのかな。)
俺たちが住んでいる街は、イスパ王国のカタニア領にあるルセールという街だ。
ルセールはカタニア領の中では最も大きい街で治安も落ち着いている。猫人族や人間を含め、多くの種族が共生している。
他領では獣人への差別があるというので俺はこの街に産まれて良かったのかもしれない。