リナの家
同じこと思ってる人きょしゅ〜
ハルカのスマホへリューバーの置き配完了通知が来た。私は外の情報が知りたくて言った。「取りに行ってくるよ。」
ハルカは言った。
「最近、ストーカー被害増えてるからさ、ドアの穴を見て回りに人いないか確認してね。」
「ええ、そんなに厳重にしているの?わかったよ」
私はハルカ家のドアの丸い覗き穴を見て周囲を確認し、誰もいないので外に出た。ハルカ家はブランドのバックや香水がたくさん置かれていたので、どんな高級マンションかと思ったが、一般的なアパートの4Fだった。築年数は15〜20年といったところ。最近の若者はこういうのが多いのかもしれない。外見は着飾っているが、生活基盤や今後の仕事がしっかりしているとは限らない。
家の玄関先に置かれたリューバーを私が回収し、中に入った。ハルカは言った。
「ありがとー!!たべよたべよ!超おなかすいた、」
「そうやね、私もお腹ペコペコだ〜」
「なんか今日かわいいね笑、いつもリナはそっけないくせに。昔のリナみたい」
「いつももっと暗いの?」
「そう!全然暗いし、誰にも頼らず生きていくっていう覚悟と、冷酷な目をするようになったよ。高校の中盤からずっとそんな感じ。まあどっちのリナも好きだけどね」
私はドキッとしてしまった。中身は女性に免疫のない、しがないおじさんサラリーマンなのに。もじもじしているとハルカは言った。
「え、何その童貞みたいな反応。オモロいんだけど笑笑 てか、このチーズ量やばない?こぼれまくってるけど笑 これは元気出るわぁ〜Foooo!」
ハルカのように若い女性の話題の移り変わりはテンポが早い。童貞みたいと言われて若干焦ったが、今後は私もテンポよく返さなければ。
「いただきます」2人で言って、デカいチーズバーガーに思いっきりがっついた。いつも通り麺を豪快にすすると、全く口に入らなかった。あれ?口ちっさ!!何も入らん!!
「リナ、ひとくち多過ぎでしょwアンタ自分の口の大きさ考えたら?笑 どんだけお腹すいてんだよ笑」
「もう、すんごいお腹空いてて、生き急いじゃった笑」
「ウケる」
2人は黙々とチーズバーガーを食べた。ハルカはポテトにもバーガーにも家にあったタバスコをかけた。それを真似して私もタバスコをかけたら、ドバッと出すぎた。
「リナ、タバスコいけたっけ?辛いの苦手じゃ無かった?」
「辛いもの全然好き」
「ほんと味覚変わったね〜」
前世の宍戸猛の時からお金がなくて、Mから始まるバーガーでも高級品。百貨店に入ってそうなパテの分厚いバーガーなんて久しぶりだった。本当に美味しい。昔はこういうのも好きだった。仮にこれが夢だったとすると、すごく虚しい。せめて夢の中だけは謳歌することとしよう。
一通り食べ終わり、ハルカはメイクを始めながら言った。
「ウチは午後から講義だし、あと1時間したら家出るわ。」
やばい、1人になるのはマズい。どこに向かえばいいかわからない。とても不安だ…
「なに、今度はお母さんの帰りを待つ子どもみたいな顔して笑」
「さっき、記憶が曖昧って言ったけど、ほんとけっこう覚えてなくて、これから自分の家たどり着けるか不安なんだよね…」
「まぁ〜不安定な時期なんだね。ウチなら好きなだけ居ていいよ?鍵だけポストに入れといてくれれば。401号室ね。」
私はスマホで401とメモを取った。
「あ、あと充電器かりていい?スマホ充電切れたら、迷子になっちゃうから…」
「どんなよ、あと、アンタ着てた服で出るつもり?その服で出たら露出多過ぎてナンパされまくるよ」
「えっ、私どんな服着てたっけ、ああ、これか…」
リナが着ていたのは、ミニスカのモコモコの白ワンピースだった。これはさすがに、おじさんが着たらスースーするし落ち着かない。
「なんか様子おかしいし、普通のジーンズとTシャツ貸してあげる。パジャマみたいなもんだけど。」
「ハルカさん、本当にありがとう!」
「ハルカさんだってさw」
こればっかりはハルカに本当に感謝しかない。あと、私はハルカの行動を見て重要なことを思い出した。
「ハルカ様、追加でお願いがあるのですが、、」
「うむ、くるしゅうない。ゆうてみぃ。」
「メイクの仕方を教えてください。お願いします。」
「え〜普段から超上手じゃん!ウチがこの短時間で教えられることなんて下地ぬって、眉毛描いてアイメイク適当にやるだけよ??」
「基本だけでもお願いします!ほんとに!ハルカ大先生!」
「わかったわかった、ウチの終わったらやりながら教えてあげる。今度ジュース奢ってよね」
「うん、何本でも!!」
「じゃあ、先にカラコンつけといて。」
私は、自分のバックの中の化粧ポーチにカラコンが入っていることを願いながら開けると、運良く2個入っていた。そしてそれを苦戦しながらつけた。思いの外、爪はシンプルだった。ネイルされているものの、音楽をやっているからだろうか、手はハルカほどごちゃごちゃしていなかった。
ハルカは自分のメイクを手早く終わらせると、私のメイクに取り掛かった。下地を塗っていき、ファンデやパウダーを叩いて、真っ白なキャンバスを作っていく。次にアイブロウ、ビューラーで上げて、アイライナー、涙袋…いろいろ専門用語(私が男で知らないだけ)が飛び交う。私はアイライナーをまつ毛の下にえぐりこむときに目を開けるので必死だった。そして目の周りにキラキラしたものを付けていき、アイ、ノーズシャドウと進み、人中短縮、チークをつけて、リップを塗ってルージュを重ね塗り。
「ハイ、できた!あとは髪ね!」
「髪もちょっと教えてもらって良い?おねがい!」
「え〜もう仕方ないなぁ、、適当にやるよ!」
ハルカはそう言いつつも、確かな腕だ。さすが美容系の専門学生。少し霧吹きして、手早くカーラーをつけ、ドライヤーブローする。同時にヘアアイロン温める。ブローが終わると、カーラーを外し、カーラーがつけることが難しいサイドをヘアアイロンで巻いていく。最後にヘアオイルを付けて完成。
「今日どっか行くならヘアスプレーで髪固めて行きな〜」
「あ、ありがとう。」
私は魔法を見たようだった。あれだけシャワー後は幼かったリナの顔がバチバチのつよつよの地雷系メイクに仕上がっていた。鏡を覗くと、最初に見た作り物の人形のようだった。