70 刃についた血を舌で舐め取り
涼音が黒炎の霊刃を振り抜くと、刃先はユラの左腕を深く裂き、その鮮血が夜の闇を鮮烈に染めた。
ユラの口元が一瞬だけ歪み、血が滴り落ちる。
だが、涼音が息を整える間もなく、黒炎の霊刃が低くうなるような音を発し、その刃が赤黒く輝いた。
刃に染み込む血がまるで生き物のように吸い上げられ、まるで刃が血を啜っているかのようだった。
その瞬間、神威の声が霊刃から響く。
「この血は力の記憶。良いぞ…敵の力もまた、我らの糧となる」
涼音は刃についた血がゆっくりと揺れ動き、自分の方へ誘われるように流れ落ちるのを感じた。
目を見開きながら、その血に導かれるまま手を伸ばし、指先で刃をなぞる。
途端に、自らの体内で吸血鬼の力が目覚めたような感覚が彼女を襲った。
彼女は刃についた血を舌で舐め取り、冷たくも甘美な鉄の味が舌先に広がると同時に、全身が震え上がった。
「この感覚…!」涼音は息を呑んだ。
瞳が赤く輝き、彼女の中で眠っていた吸血鬼の本能が覚醒した。
筋肉が膨張するかのように力がみなぎり、心臓の鼓動が速まるのを感じる。
視界はこれまでの数倍も鮮明に広がり、世界がスローモーションのように見える。
ユラの動き、空気の揺れ、闇の中で微かに立ち上る霧すらも明瞭に捉えられるようになった。
ユラの手から雷の矢が次々と放たれる。
矢は150本にも及び、周囲を取り囲むように飛び交った。
それぞれが空気を焼き、激しい音を立てながら涼音を狙う。
しかし、赤い瞳の涼音はそのすべてを正確に見切っていた。
一歩、また一歩と足を踏み出しながら、まるで舞を踊るように軽やかに避けていく。
雷の矢は彼女の髪をかすめ、地面を穿ち、木々を薙ぎ倒していくが、涼音の動きには一切追いつけない。
「この程度では今の私は倒せない」
涼音が静かに言い放つ。
その声は冷たく響きながらも確かな自信に満ちていた。
神威が低く笑う。
「その力で奴を追い詰めよ。我も共にある」
涼音は地を蹴り、まるで風そのものとなったかのような速さでユラに迫る。
霊刃から立ち上る黒炎が彼女の意志と共鳴し、周囲の闇を飲み込むように広がった。
ユラの顔に余裕はなく、指先を震わせながらさらに強大な雷を呼び起こそうとするが、涼音の速度はそれを許さなかった。
涼音が叫びながら黒炎の霊刃を振り上げた。
刃に宿る黒炎が爆発的な輝きを放ち、ユラの防御魔法すら焼き尽くそうと渦巻く。
絶望が浮かぶユラの顔を見据えながら、涼音は最期の一撃に全力を込め、霊刃を振り下ろした。




