62 進むべき道と忍者たちの覚悟 / 1491年、神威
魔物の巨体が地面に沈むと、ダンジョン内は一瞬、深い静寂に包まれた。
荒い息を整えながらも、忍者たちは暗闇の先に視線を向けていた。達成感も束の間、涼音の中に再び魔力の気配が浮かび上がる。心の奥で神威が静かに語りかけた。
「涼音、この先にはさらに深い闇が待っている」
涼音は目を閉じ、神威の重厚な声に耳を傾ける。その声には不思議な安心感があった。「わかってる。まだ止まるわけにはいかない」
「そうだ。我が共にいる限り、迷うことなく進める」神威の言葉は、冷たい闇を突き抜けるように響き、彼女の心に強い決意を刻み込んでいった。
吸血鬼の血筋と神威の力がもたらす魔力探知の感覚は、戦いを経て次第に研ぎ澄まされ、涼音には今や、まるで道標のように魔力の流れが見えるように思えた。
「みんな、奥に魔力の濃い部分がある。慎重に行くぞ」
涼音が低く声をかけると、仲間たちが頷き、互いに身構えながら進んでいく。負傷した仲間もいるが、全員が疲労を押し殺し、誰一人として諦める素振りは見せなかった。
この場で歩みを止めることが、どれほど危険かを彼らは痛感していたのだ。忍者たちは無言で息を合わせ、わずかな音も立てずに前進を続けた。
通路の先には、青白く輝く魔法陣が淡く浮かび上がっていた。
涼音は目を細め、その魔力の渦を読み取ろうとする。光の奥に潜む冷たい霧が、時折脈打つようにゆらめいているのが感じ取れた。彼女の中で神威が力強く反応し、再び頭の中にその声が響く。
「涼音、この光は、ただの罠ではない。魔力の本質に触れる覚悟を持て」
神威の言葉に一瞬息をのむが、彼女は冷静さを保ち、仲間たちに指示を送った。「みんな、慎重に進んで。この先、かなり強い魔力が満ちている」
彼女を中心に、忍者たちは一糸乱れぬ連携で魔法陣の隙間をすり抜けるように進んでいく。その道はまるで生き物のように動き、魔法陣の光が彼らの一挙一動を捉えるかのように微かに輝き続けていた。涼音は神威の力でその流れを読み、適切な瞬間に仲間を導いて危険地帯を通り抜けていく。
次第に、涼音には彼女自身の力が高まっているのを感じられるようになってきた。吸血鬼の血に宿る魔力探知の力が一層強まり、仲間たちを守るために必要な力が自分の中で育っているのがわかった。
彼女は神威の力と自分の中に眠る魔力の感覚を結びつけ、奥へと続く道を切り開いていった。
忍者たちは、涼音の確かな指示と強い意志に導かれながら、さらに深い闇へと歩みを進めた。
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1491年。
琵琶湖を利用した水運が発展し、近江商人たちが日本各地と交易を活発に行うようになった。
琵琶湖の湖畔には木造の船が数多く並び、近江商人たちは次々に積荷を積み込んでは、湖上へと漕ぎ出していく。
船には米や酒、魚などの特産品が積まれ、各地から持ち寄られた珍しい品々が新たな商材として取引されていた。
神威は湖上に漂い、広がる琵琶湖の水面と、その上を行き交う商人たちの賑わいに満ちた様子を静かに見守っていた。
商人たちは穏やかな湖上で声を張り上げながら交渉を続けている。
その賑やかな声が水面に響き、次々と出発していく船の背後には、波が美しい模様を描いていた。
湖畔には、家族連れの商人たちもおり、仲間と手を振り合い、笑顔で見送りの言葉を交わしながら、船の安全を祈っている。
一人の老商人が船の上から湖に目を向け、小さく呟いた。
「琵琶湖の恵みがあるからこそ、こうして遠くまで商いができる。ありがたいことだ」
その言葉には、湖が自分たちに与える豊かな恵みに対する深い感謝の気持ちが込められていた。
彼の隣にいた若い商人も頷き、湖に向かって手を合わせ、静かに祈りを捧げた。
神威は、こうして地域間の交流が広がり、交易が盛んになることで、近江の人々に活気と豊かさがもたらされていく様子を感じ取っていた。
彼らは湖の恵みに感謝し、家族や仲間と共に仕事に励みながら、新しい商売の可能性を夢見ていた。
神威はこの光景を心に刻み、人々の希望と活気が溢れる湖上の賑わいに静かに寄り添いながら、琵琶湖の風と共に漂い続けていた。




