56 涼音と神威
涼音は、静かに佇む山道を一人歩いていた。冷たい月の光が木々の間からこぼれ落ち、彼女の影を細長く引きずっている。彼女の脇には、幾多の戦いで刻まれた傷跡を持つ黒炎の霊刃が収められていた。涼音はその刃に手を触れ、まるで相棒に語りかけるように低く言葉を発した。
「神威、聞こえる?」
すぐに霊刃から神威の声が涼音の思考の中に響いた。
「聞こえておるぞ。いよいよ、博多ダンジョンを攻略する時が来たようだな」
涼音はゆっくりと頷き、夜空に目を向けた。「北海道はもう、魔物の領地になってしまった…でも九州にはまだ希望が残っている。6割が魔物に支配されているけど、残りの地には人々が今も暮らしているのだから」
彼女の視線は強い意志を宿し、過去の戦いや、失った仲間たちのことが頭をよぎった。神威はその意志を感じ取り、彼女の決意を支えるように静かに語り始めた。
「人間というものは、どれほど過酷な状況にあろうとも希望を手放さぬものよな。かつて、この刀に触れた者たちもまた、皆が命を懸けて土地を守ろうと戦っておった。涼音、おぬしもその意思を継ぐ覚悟ができておるようだな」
涼音は静かに息を吐き、その冷たい刃に触れながら応えた。「覚悟はとっくにできているわ。九州、博多を取り戻せば、道が拓ける。少なくとも、これ以上日本が魔物の手に堕ちるのは防げる。人々も、私たちが助けに行くのを信じて待っている…それに応えなきゃならないの」
彼女の声は強さを帯びていたが、その奥にはどこか静かな悲しみも混ざっていた。神威はその感情を敏感に察し、どこか遠い記憶を呼び起こすかのように、まるで昔話を語るように続けた。
「信じるということは、時に何よりも強き支えとなるもの。その期待を胸に戦う覚悟があるというわけだな」
涼音は無言で頷き、冷静な眼差しを前方へと向けた。「博多ダンジョンを攻略することが使命よ。北海道を取り返せる日も必ず来る…何も諦めるつもりはない」
その言葉に、神威は彼女の決意を深く受け止め、まるで同じ思いを分かち合うかのように霊刃が微かに輝きを放った。




