55 九州や北海道の荒廃 / 1477年、神威
高松ダンジョンの攻略が成功し、忍者たちがダンジョンの奥深くに眠っていた豊かな資源を解放すると、瞬く間にその話題が全国を駆け巡った。特に、膨大な量の高品質な銀が採取されるとのニュースは、テレビやネット、そして週刊誌をにぎわせ、人々は歓喜と期待に沸き立った。銀は美しい輝きで日本中に経済的な恩恵をもたらすとされ、多くの専門家が「日本の資源開発史に新たな一頁を刻む出来事だ」と賞賛を惜しまなかった。大手メディアの報道も一色に染まり、各番組で忍者たちの果敢な挑戦と高松ダンジョンの攻略が特集され、日本中がまるで新たな宝を手に入れたかのような熱狂に包まれた。
しかし、その熱狂の裏側には、静かに不安が広がっていた。銀の輝きが日本にとっての希望となる一方で、ダンジョンによって次々と住民の姿が消え、人影も絶えた九州と北海道の現実を直視せざるを得ない状況が続いていたのだ。北の地、北海道の山奥ではダンジョンから溢れ出す魔物が地元の人々を襲い、住居や畑を荒らし続けていた。南の九州でも同様に、博多の地が襲撃を受け、忍者のいない隙を狙うように魔物たちは次々と拠点を広げていく。生活の基盤を破壊された多くの人々は、急ぎ本州や四国への避難を余儀なくされ、彼らが立ち去った後には無人の家々が静寂に包まれていた。
報道番組では銀の採掘量やその経済効果が取り上げられる一方、SNSや一部の週刊誌では次第に「人々が消えた北と南」として、九州や北海道の荒廃した様子を報じる声が増えていった。地元の漁村で人影がなくなった港の写真、そして無人の道路に佇む避難途中の車が荒々しく捨てられた様子が写された画像が投稿されると、恐怖と悲しみの混じったコメントが溢れ出した。「銀がどれだけ取れようと、命の代償にはならない」「もう日本の半分は魔物の領域になっている」という声が、静かに広がっていった。
街中では、行き交う人々が声を潜めてこの現実について囁き合っていた。銀の輝きに魅了されつつも、目の前の現実に怯え、家族や友人を守れるのかという不安が募っていたのだ。「今度は自分たちの街が襲われるのではないか」という恐怖は、銀の解放を祝う一方で静かに人々の胸に重くのしかかっていた。
それでも、人々はなおも前を向こうとしていた。かつては当たり前に暮らしていた九州や北海道の景色を思い出しつつ、魔物の侵攻を食い止めるべく、忍者たちが再び動き出す日を待ち望んでいた。
銀の輝きの奥にある暗い影を意識しながらも、彼らはその光に希望を見出そうと、かすかな願いを胸に抱き続けていたのだ。
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1477年
10年続いた戦乱がようやく終結を迎えたが、京の街には廃墟と化した建物が無残に残り、かつての賑わいはすっかり失われていた。
人々の間には疲労と悲しみが漂い、道端には焼け落ちた家々が連なり、街中に漂う灰の臭いが戦乱の爪痕を物語っていた。
それでも、長きにわたる苦しみの中で再建の希望が少しずつ芽生え始めていた。
神威は意識体としてこの荒れ果てた京の街に漂い、破壊された街を見つめていた。
街の瓦礫の間からは小さな草花が芽を出し、灰色の大地にわずかに緑が広がり始めていた。
彼はその自然の生命力に心を寄せ、人々がもう一度立ち上がるために力を蓄えつつあるのを感じ取っていた。
ある朝、神威は街外れで、ひとりの年老いた職人が無言で立ち尽くしている姿を見つけた。
彼はかつて京の大工として数々の建物を手掛けてきたが、応仁の乱ですべてを失い、仲間も家族も散り散りになってしまった。
その職人は焼け跡をじっと見つめ、灰の中に手を差し込むと、顔を上げて目を閉じた。
「ここを再び、皆が住まう場所に戻すのが、私の役目かもしれぬ」
静かに自分に語りかけるように呟いたその言葉は、荒れ果てた街の中で響き、彼の決意を物語っていた。
神威はその場に漂いながら、無力ながらも希望を抱き直す人々の意思に心を打たれていた。
それから日が経つと、少しずつ人々が廃墟となった京の街に戻り始めた。
かつての住まいが焼け落ちていても、家族や仲間と手を取り合い、互いに励まし合いながら新しい生活を築こうとした。
神威は、彼らが廃墟の間に新しい家を建て始める様子を見つめながら、人々の再建への意志が時を超えて強くなっていくのを感じ取った。
春が訪れると、荒れ果てた地面に小さな花々が咲き誇り始めた。
人々の手によって瓦礫が片付けられ、かつての京の風景が少しずつ蘇りつつあった。
そこには、新たな街を築こうとする希望と、共に手を取り合って再び未来を築く決意があった。
神威は漂いながら、京の街が再び生き返る瞬間をただ静かに見守っていた。
人々の心に芽生える再建の力、日々の暮らしを取り戻そうとする意志――それは神としての力ではなく、人々自身の力がもたらす奇跡だと神威は感じた。
彼はこの街が再び華やかさを取り戻すことを願い、京の人々の心の中に芽生えた新しい希望に寄り添って漂い続けた。