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43 フロアボス・虚空の大蛇 / 神威

忍者たちは薄暗いフロアの中心へと足を進めていた。冷たい風が静かに吹き、石畳の床がひんやりと足元に伝わってくる。フロア全体に漂う不穏な気配は、忍者たちの感覚を鋭く研ぎ澄ませ、無言の緊張が7人を包み込んでいた。


その異様な静けさの中で、彼らは次第に「フロアボス」の存在を意識し始める。どこからともなく放たれる圧倒的な威圧感が、まるで空気そのものを重く染め上げていた。気配は凍てつくほどの冷たさを帯びており、全員の肌が泡立つような感覚に包まれる。


最奥に近づくごとに、空間全体が奇妙に歪み、壁に刻まれた古代の文様がぼんやりと浮かび上がる。彼らはそれが虚空の大蛇──幾多の屍を積み上げてきたフロアボスだと直感する。涼音が一歩前に出ると、心の奥底から響くような不安が脳裏をかすめた。だが、振り返ることなく、涼音は確かな視線で仲間たちを見渡し、無言のうちに意思を確認する。


その先に進む彼らの足音が、石床に淡々と響き渡る中、陽が先頭で鋭く辺りを見回した。彼の呼吸が静かに深まり、手にした特注の刀がわずかに光を反射する。冷静な彼の目には、微細な変化も逃さない慎重さが宿っていた。いつも陽を守るように構える鋼も、何も語らず背筋を伸ばし、彼らの一歩一歩に集中を注いでいる。


やがて、フロアの中心にたどり着くと、空間に微かな振動が走った。それはまるで地の底から響いてくるような重低音で、足元の石畳が小刻みに揺れる。全員が息を飲んだ瞬間、薄闇の中から異形の影がゆっくりと姿を現した。


長大な体躯が重々しく揺れ、滑るように彼らの周囲を取り囲む。その巨大な姿はまさに圧巻で、全身が漆黒の鱗に覆われていた。虚空の大蛇──その名にふさわしい存在が彼らの目の前に現れた。彼の鱗は闇に溶け込むような色をしており、まるで周囲の闇そのものが生命を得て動き出したかのように見える。その体からは異様なオーラが漂い、彼らの息を詰まらせた。


その姿が完全に現れたとき、忍者たちは一斉に武器を構え、戦闘態勢を整えた。虚空の大蛇の頭部が複数現れ、それぞれ異なる色の光を帯びていた。赤黒く燃えるような炎の頭、冷たく青白い光を放つ氷の頭、黄金色に輝きながら稲妻を宿す雷の頭、そして深紫色の毒を放出する毒の頭。それらが彼らを嘲笑うかのように蠢き、忍者たちの動きを見据えている。虚空の大蛇の眼差しが彼ら一人一人を見下ろし、まるでその存在そのものが挑発の意を含んでいるようだった。


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神威は霊刃の奥から、涼音たち忍者の緊張が高まる様子と、目の前に現れた虚空の大蛇の圧倒的な威容を静かに見守っていた。

冷たい石畳の感触、周囲に漂う不穏な空気、その全てが戦いの場として彼らの前に揃えられていることに、神威は深い興味を抱いていた。


「ほう…これほどの威圧感を持つ魔物を前にして、退かぬか」


彼は涼音の視線に確かな意志を感じ取り、さらに仲間たちの一歩も揺るがぬ姿勢に満足げに目を細めた。彼らの成長は、かつての戦場を共に駆け抜けた者たち以上に感じられ、その芯の強さが新たな期待を呼び起こしている。


「この大蛇…ただの蛇ではないな。周囲を呑み込む闇…面白い」


彼は静かに呟き、虚空の大蛇を冷静に観察した。戦いの相手としてこれほどの存在が現れることは稀であり、その圧倒的な姿と力に対峙する涼音たちを見て、彼の内にはある種の高揚が湧き上がっていた。


「涼音よ。どれほどの力を発揮するか見せてもらおうか。虚空の大蛇に呑まれるか、あるいはその力をも越えるか…どちらにせよ、この試練は避けられぬものだ」


神威の言葉には、厳しさと共に期待が宿っていた。

虚空の大蛇が忍者たちに試練を与えるその場において、彼はただの観察者で終わるつもりはなかった。

涼音が刀を握る限り、自らの力を惜しみなく発揮し、彼女を導く準備をしていたのである。




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