38 深く同調 /1467年、神威
共鳴の儀を終え、忍びの石が持ち主の忍者たちと深く同調し、その力が体内に浸透していくような感覚が全身に広がっていった。
石の波長が整い、彼らの肉体と精神が極限まで研ぎ澄まされたその瞬間、忍者たちはこれまでにない力強さを感じていた。
涼音は手首に巻いた忍びの石が脈動し、冷やかな力が全身に染みわたるのを実感しながら、その新たな力を胸に抱き、東北への戦いへと挑んだ。
彼女たちが足を踏み入れた東北の大地は、魔物たちによって荒らされ、かつての豊かな風景は消え失せていた。
周囲には異様な気配が漂い、黒く歪んだ樹木が生い茂り、魔物たちの低い唸り声が風に乗って響いていた。
だが、忍びの石と同調し、自らの戦力が向上していることを確信した忍者たちは、もはや恐れることなく戦場へと身を投じていった。
涼音が静かに手をかざすと、彼女の忍びの石が青白い光を帯びて震え、その冷たい力が彼女の感覚を研ぎ澄ます。
遠くに潜む魔物の気配が手に取るように分かり、周囲の僅かな物音や風の流れさえも、彼女にとっては手がかりとなっていた。
仲間たちも同様に忍びの石の共鳴に支えられ、誰もが冷静な目で周囲を見渡し、次々と魔物に向かって一糸乱れぬ動きを見せた。
陽が前線で火炎の術を放つと、その炎は石から引き出された力でさらに勢いを増し、竜巻のような火の渦となって魔物たちを包み込んだ。
その背後で、涼音は刃を閃かせ、冷たい一閃が魔物たちの防御を突き破り、次々と動きを封じていく。
魔物の群れが反撃しようとする度、翔の影の術が闇を操り、彼らの視界を奪い去った。
彼の忍びの石もまた共鳴の儀で力を増しており、影は鋭い刃のように形を変え、魔物たちを翻弄した。
四国の地でも、忍者たちは同様に戦いを繰り広げていた。
大地を踏み鳴らし進軍する魔物の群れに対し、忍びの石を手にした忍者たちが次々と立ち向かい、忍びの術で彼らを翻弄していく。
四国の大地を侵略していた巨大な魔物に対し、石の力を増幅させた斧が振り下ろされると、地鳴りと共に魔物の防御が崩れ、裂けた隙間からさらなる攻撃が繰り出された。
彼らの一撃一撃が重く、確実に魔物の群れを追い詰めていった。
それぞれの戦場で、忍者たちは石に宿る力に支えられ、これまで以上の連携を見せながら魔物たちを圧倒していった。
石が脈打つたび、彼らの動きはさらに鋭く、強靭なものとなり、敵を恐れることなく進軍を続けた。
涼音は視界の先で崩れ落ちる魔物たちを見つめながら、胸の奥に静かな達成感と高揚感が満ちていくのを感じていた。
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1467年
応仁の乱が始まり、京の都は戦火に包まれていった。
夜ごとに焼ける建物、昼間にも絶えず響く兵士たちの叫び声、そして逃げ惑う庶民の姿――京の街は瞬く間にかつての華やかな姿を失い、荒れ果てた戦場と化していた。
神威はその様子をただ見守り、京の上空に漂っていた。
体を持たない彼は、武士たちが血を流し、炎が家々を飲み込んでいくのをただ静かに見つめるしかなかった。
まるで重く垂れこめる暗雲が京全体を覆い、光が失われるような絶望的な光景が広がっていた。
彼の視界には、逃げ場を求めて寺社に駆け込む人々、家族を守ろうと必死で戦う者たち、そして運命に身を委ねるしかない無力な庶民の姿が映し出されていた。
ある日、神威は街外れの寺院に漂い、廃墟のようになったその場所にただ一人、祈りを捧げ続ける年老いた僧の姿を見つけた。
その僧は、焼け落ちた本堂の前に座り、戦火で荒れ果てた土地を見つめながら、ひたすらに経を唱えていた。
周りのすべてが灰と化し、同じ僧たちも皆逃げ去ったというのに、その老人だけは動くことなく、ひとり天を仰いでいた。
神威は彼に向かって静かに漂い、その場にしばしとどまった。
彼には干渉する術はなかったが、僧の背後に立つことで、祈りを見守ることはできる。
炎が再び京の街を襲い、煙が空を覆い尽くす中、僧は何事も恐れることなく、静かに手を合わせ続けていた。
「この世が戦火に飲まれても、祈りが人の心に宿る限り、我々は生き続ける…」
僧のかすれた声が、燃え盛る京の夜に淡く響いた。
神威はその言葉を、意識の中でかみしめるように聞き入った。
祈りの言葉には何か荘厳な力が宿っているかのようで、神威はその響きに心を奪われた。
まるでこの世の乱れと絶望に立ち向かう唯一の希望が、その祈りの中に凝縮されているかのように感じられたのだ。
その夜、京の空は赤く染まり、炎の煙が都を覆い尽くす。
街は恐怖と怒りの波に飲まれ、地面には人々が積み重ねた祈りも、絶望もすべて飲み込んでいくようだった。
神威はただ漂いながら、京の人々が戦乱の中でそれぞれの拠り所を見つけようとする姿を見つめ続けた。