36 妖魔王リヴォールの配下:吸血鬼リオウ、出現する
45年前。
夜の闇が深まる中、静寂を破るように一つの影が山奥に佇んでいた。
リオウ──彼は、異世界ルナリアから地球へと突然迷い込んだ吸血鬼。
妖魔王リヴォールの配下として従っていた。
しかし気づけば、見知らぬ土地に降り立っていた。
その気配に気づいたのは、瑠衣という名のくノ一だった。
瑠衣は冷徹な目で彼を見据え、油断なく身構えていた。彼女の瞳には鋭い光が宿り、リオウの装いと異様な雰囲気を一瞬で察知していた。
「異国の者、それとも新たなスパイか…」心の中でそう呟きながら、彼女はリオウに向けて躊躇なく攻撃を仕掛けた。
彼女の動きは素早く、風を切るようにリオウへと駆け寄り、鋭い刃が彼の体へと迫る。
しかし、彼女の刃はリオウの皮膚に触れた瞬間、霧のように散ってしまうかのように効果を失い、彼の体にダメージを与えることはなかった。リオウは微笑を浮かべながら、冷静にその場に立ち続けていた。
胸元のダイヤモンドが怪しく光る。
「待て…」
彼はその場で目を閉じ、静かに念話で語りかけた。
「誤解だ、私は迷い込んだだけだ。まずは帰還方法を探したい、よってこの世界について知りたい。教えてくれないか?」
その思念が瑠衣に伝わると、彼女は驚き、攻撃の手を止めた。
言葉を発さずして頭の中に響くこの声、まるで魂が直接触れ合っているかのような響きがあった。彼女は一瞬の戸惑いを隠せなかったが、やがてその鋭い眼差しが和らいでいった。目の前の男がただならぬ存在であることを感じ取りつつ、彼女はゆっくりと刃を下ろした。
「…迷い込んだと言ったわね。あなたは、一体何者なの?」
瑠衣は相手をまだ疑いの目で見つめていたが、リオウはそれに動じず、ただ穏やかな眼差しを返していた。その瞳には、異世界からやってきた孤独な存在の深い悲しみと、どこか憂いが漂っていた。言葉少なに自分の事情を語るリオウに、瑠衣は次第に興味を抱き、彼の話に耳を傾けていった。
幾夜も重ねて会話を交わす中で、二人の間には言葉を超えた理解が芽生え始めていた。リオウは異世界での孤独な生活を語り、瑠衣は忍びとしての厳しい運命について語った。それぞれが異なる世界で生きてきたはずなのに、二人の間には不思議な共感が生まれ、次第にお互いの存在が心の支えとなっていった。
リオウが瑠衣の手を取り、静かに見つめ合ったある夜、彼は初めて人間としての温もりを感じた。異世界の吸血鬼である彼にとって、それは想像もしなかった感覚だった。そして、瑠衣もまた、この異様な存在に惹かれ始めている自分に気づき、胸の奥で鼓動が高鳴るのを感じていた。
ふたりはやがて深い愛情で結ばれ、忍者と吸血鬼という異なる運命を持つ者同士でありながら、共に歩む決意を固めた。そしてその愛は涼音の母、美紀という新たな命を授かることに繋がった。