32 世界が見たキマイラ討伐の瞬間
キマイラ討伐の作戦は、ダンジョンの中で激闘が繰り広げられている間も、浮遊する小型ロボットカメラを通じて全て記録され、リアルタイムで配信されていた。
涼音や忍者たちが命をかけて戦うその様子は、国内のメディアにとどまらず、瞬く間に世界中に中継され、絶望の中に一縷の希望をもたらす光となった。
画面越しに伝わる緊迫感、キマイラの巨体が揺れ、咆哮が響き渡るたび、世界中の人々は息を呑み、戦況を見守っていた。涼音たち忍者が一丸となり、石化の魔眼に怯むことなく果敢に攻撃を続ける姿は、まるで彼らの決意そのものが画面を通して伝わるかのようだった。特に、「忍びの石」が脈動し、光り輝く瞬間がカメラに映し出されるたび、人々はその神秘的な光に目を奪われた。それは、闇に立ち向かう忍者たちが持つ特別な力を象徴し、絶望に包まれた現状に一筋の光明を示していた。
やがて、涼音が刀を構え、最後の一撃に全力を注ぐその瞬間──画面越しに見ていた視聴者たちの心が一つになり、彼女の背中に全ての願いが託された。青白く冷たい光が刃から放たれ、キマイラの体に突き刺さるその瞬間、世界中の人々が歓声を上げた。さらに他の忍者たちもそれぞれの「忍びの石」を輝かせ、次々と一撃を加え、ついにキマイラの巨体が崩れ落ちる様子が映し出されると、画面の前で歓声と涙が溢れた。
「やった…!」
「勝ったんだ!」
「日本が…いや、世界が救われるかもしれない!」
SNSやニュースでは、忍者たちの勇姿と共に「キマイラ討伐成功」の見出しが溢れ、人々の間に一瞬にして希望が広がった。絶望的な状況の中で、彼らが命がけで勝ち取った勝利が、ほんのひと時でも人々に未来への希望を灯したのだ。日本中、そして世界中の街がこの瞬間を称賛し、歓喜に沸き返り、未来が開かれるような錯覚に包まれていた。
しかし、その希望が現実のものとして長く続くことはなかった。
その歓喜は、わずか2日後に再び薄暗い影に飲み込まれていくこととなる。
ダンジョンからは次々と新たな魔物が湧き出し、人類にとってさらなる戦いが避けられないものだと気づかされたのだ。希望が刹那で消え去る残酷さを、人々は再び突きつけられることになる。