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23 帰路 / 涼音と神威

ディルを倒し、涼音は重く息を整えながらその場に立ち尽くしていた。


魔神の黒い霧が消え去り、静寂が訪れると、まるでダンジョンそのものが息を潜めているかのように感じられた。辺りはまだ薄暗く、石造りの壁や床にはかすかに冷たい光が漂っている。

どこか湿気を含んだ空気が、戦いの緊張感を名残のように漂わせ、涼音の肌にじわりと染み込んでくる。



彼女は周囲を見回し、次の一歩を慎重に踏み出した。壁にはいくつものひびが入り、その隙間から漏れる薄青い光がダンジョン内の雰囲気をさらに神秘的に、そして不気味に照らしている。その光は、かつてここを支配していた魔力がまだ完全には消えていない証であり、まるでダンジョン自体が生きているかのように脈打っていた。


一歩一歩、涼音は冷えた石畳を踏みしめながら進んでいく。彼女が歩みを進めるごとに、足元の小石がわずかに転がり、カツンと響くその音だけが、重い沈黙を破る唯一の音だった。少し先の暗闇には、異形の影が時折揺らめき、不意に動き出すような錯覚を起こさせたが、彼女はその緊張感を飲み込み、進むべき道を見据えたまま歩を進めた。


ようやく階段が見えてきた。階段の先には、微かに外の光が差し込み、薄い霧がゆっくりと流れ込んでいるのが見えた。ダンジョンの出口に近づいている証だ。涼音はその光景に一瞬安堵を感じながらも、気を引き締め、静かに階段を上り始めた。


階段を上るごとに、暗闇が少しずつ薄れ、霧の隙間から青白い光が降り注いできた。それは地上に近づくにつれて強くなり、彼女の顔に冷たく柔らかな光を浴びせた。その光が肌を撫でるたび、彼女の中にこびりついた戦闘の疲労が少しずつ癒えていくように感じられた。


ようやく最上階にたどり着くと、彼女の目の前には広がる荒涼とした大地が広がっていた。遠くの岩肌には、まだ黒ずんだ痕跡が残り、ところどころ霧が立ち込めている。しかし、ここにはわずかながら電波が届く地点があるとわかっていた。涼音は少し背伸びをしてスマホを手に取り、電波を探るように掲げた。


画面に表示される微弱な電波のサインを確認し、彼女はすぐに拠点へと連絡を取る。少しざらついたノイズが混じりながらも、かすかに繋がる通信音に、涼音は無事に報告を終えた。拠点側からも彼女の健闘を称える声が返ってきたが、その声が途切れ途切れに届く中、彼女は次の瞬間に通信が切れるのを予感し、急いで最も必要な情報を伝え終えた。


報告を終え、涼音はダンジョンの出口から見える地平線に目をやった。そこには夜の暗闇を割いて昇りゆくわずかな月明かりが、冷たくも美しく大地を照らし出している。彼女はしばしその光景に目を奪われ、深く息を吸い込んだ。戦いが終わった後の静寂と、拠点に戻るまでの道のりを思いながら、彼女はそのまま冷たく美しい夜の光景に立ち尽くした。


涼音はその後、ゆっくりと身を翻し、拠点に戻るための一歩を踏み出した。ダンジョンの外に出た瞬間、冷たい夜風が彼女の頬を撫で、まるで勝利を祝福するかのように彼女の周りを舞った。その風に包まれ、彼女は自らの無事を、そしてその日の戦いの記憶を一瞬振り返った後、再び冷静な表情に戻し、足早に拠点への道を歩み始めた。



-------------


涼音は、神威に問いかけた。

薄暗い壁に揺らぐ影が、彼女の意志を映し出しているようだった。


「ねえ…どうして魔物たちには銃もミサイルも効かないの?人類が持つ最強の武器が、あんなにも無力になるなんて…」

神威はしばし沈黙した後、低く響く声で答え始めた。彼の言葉には、悠久の時を超えた重みが感じられた。


「それは…恐らくだがこの地球の現代の武器に対抗する術を施しているからだろう」

涼音は驚きの表情を浮かべ、神威の言葉に耳を傾けた。

「自衛隊とか海外の軍の武器を封じるためにあらかじめ対策をしているってこと…?」


「おそらくだがな。忍者の武器にはハイテクなものもあるが効く。ただし、それらの武器が機械や火薬によって発射されているのであれば、その効果は薄れてしまう。この時点で物理法則が歪められておる…もっとも…亜神である我といえども、他の世界のことまでは完全に把握することはできぬがな」

神威は、冷静ながらも確固とした口調で語り続けた。


「忘れるな。どれほどの術を施されようと、お前たち人間には他者にはない誇りと意志がある。真に強き者は、どんな壁をも打ち砕く力を持つものだ」


神威の言葉に力を得た涼音は、再び歩みを進めた。

その手に握る霊刃は、まるで彼女の決意を照らし出すかのように、前方に微かな光を放っていた。












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