22 涼音と神威の共闘
ディルは涼音が構えを取ると、嘲笑とともに大きな黒い腕を振りかぶった。
空気が歪むほどの凄まじい力が込められていることは一目でわかった。涼音は一瞬の隙を見つけ、その腕をかいくぐりながら、刀を素早く滑らせるようにしてディルの脇腹に切り込んだ。
鋭い金属音が響き、ディルの魔力が刀の抵抗となって重く返ってくる。
涼音の一撃は、確かにその肉体を裂いたはずだったが、ディルの体はまるで硬化した岩のように強固で、刃が食い込むことが難しい。薄く切れた傷口から、黒い霧のような魔気が滲み出したが、ディルは苦痛の表情一つ見せないまま、悠然と笑みを浮かべた。
「この程度か…哀れなものだな。お前のその脆弱な肉体がいつまで持つか…試してやるとしよう」
ディルは瞬間的に姿を消し、涼音の背後に現れた。圧倒的な速度に、涼音は反応が遅れ、彼の膝が鋼のように重く彼女の背に食い込んだ。息が詰まり、涼音の視界が一瞬にして揺らぐ。
内臓が揺さぶられる衝撃に、涼音は咄嗟に体勢を崩しながらも、刀を振り払ってディルの足元に一閃を入れる。
しかし、その攻撃も表面を掠るだけに終わる。ディルはその足元に降り注ぐ剣撃を嘲笑いながら受け流し、まるで涼音の攻撃が彼にとって小石の一撃に過ぎないかのようだった。
「やはり、無駄か…」涼音の体内に神威の声が再び響く。「力を授けたところで、これでは追いつかぬかもしれぬ…だが、もしも命を賭す覚悟があるならば、我はその覚悟に応えよう。もっと深く、我の力を引き出してみよ」
その言葉に応え、涼音は意識の奥深くにある冷たい覚悟を引き寄せ、全てを預けるように力を注ぎ込んだ。
忍びの石が光り、刀が静かに震え、神威の冷たい霊気が刀身を通して噴き出す。
まるで周囲の空気さえ凍てつかせるような殺気が漂い、ディルの表情がわずかに引き締まった。
涼音はその言葉には答えず、ただ鋭い目でディルを睨みつけた。
そして瞬時に距離を詰め、一撃目を彼の喉元に狙い、二撃目を脇腹に繋げた。
その刃には神威の霊力が宿り、冷たい青白い炎のような光が揺れている。ディルの体に刃が深く突き刺さり、黒い霧が炎のように揺らめきながら彼の傷口から吹き出した。
「貴様ァア…!」
ディルの叫びが場を震わせると同時に、その巨体がわずかに後退した。
その表情には初めて怒りと苦痛が混じり、彼は涼音に向けて両腕を広げると、渦巻く魔力を集中させた。黒い稲妻が四方に走り、荒れ狂う風が涼音を襲った。彼女はその凄まじい魔力の奔流に巻き込まれ、体が浮き上がりそうになるのを歯を食いしばりながら耐えた。
「…神威、もっと…力を貸して!」
涼音の叫びに応えるかのように、神威の霊気が彼女の腕に冷たく広がり、体内の力をさらに引き出した。その瞬間、彼女の瞳が氷のように冷たい輝きを帯び、ディルの魔力を切り裂くかのように一気に距離を詰める。涼音は全身の力を刀に込め、ディルの心臓部に向けて渾身の一撃を放った。
「貫けぇっ!」刀は一瞬の抵抗もなく、ディルの胸部に突き刺さった。
刃が深々と体内に食い込み、神威の力が直接ディルの魔力の核に染み込んでいくのを感じた。冷たい閃光が走り、涼音の腕を伝って震えが全身に広がる。しかし、涼音の目には勝利の決意が宿り、ディルの叫びも意に介さずさらに刀を押し込んだ。
ディルの顔が苦痛に歪み、彼の体から黒い霧が激しく噴き出す。彼はその手で涼音を振り払おうとするが、涼音は体をひねり、ディルの腕をかわしながら一気に距離を取る。
「…まだ終わらぬぞ」ディルは立ち上がり、胸の傷から滲み出す黒い霧を力ずくで抑え込もうとしていた。
その表情には、これまで見られなかった執念が浮かんでいる。彼は歪んだ笑みを浮かべ、全身に膨大な魔力を漲らせると、まるで自らの存在そのものを燃やし尽くすかのように圧倒的な力を解き放とうとしていた。
「貴様のような小娘が耐えられるか…!」
その言葉とともに、ディルの体から黒い稲妻が四方八方に広がり、床を砕き、空気を揺るがす衝撃波となって涼音に迫る。避ける暇もなく襲いかかるその攻撃に、涼音は咄嗟に神威の霊気で刀を防御に構えたが、その膨大な魔力の圧力は彼女をも後退させるほど強烈だった。
「涼音、我の霊気だけでは奴の全ての力を防ぎきるのは困難だ…だが、我を信じろ」
神威の声が再び冷静に響く。涼音は頷き、全身の力を奮い立たせた。ディルの猛攻を受け止めながら、彼の動きを見極め、隙を狙うべく集中力を高める。視界は歪んで見え、膨大な魔力の奔流が彼女の体力を奪い続けていたが、それでも彼女の瞳には決して消えない光が宿っていた。
涼音は、神威の冷たい霊気をさらに刀に集め、ディルに向かって一直線に走り出した。
激しい風が彼女の体を切り裂くように通り過ぎるが、彼女はその痛みにも耐え、刀を真っ直ぐディルの心臓部に向けて突き刺そうとした。
ディルはその一瞬を見逃さず、体をひねり、拳を彼女に叩きつけた。涼音は衝撃に耐えられず、数メートル飛ばされて地面に倒れ込む。激痛が全身を襲い、口から血が滲む。しかし、彼女は決して諦めなかった。意識が薄れそうになる中で、再び神威の声が響いた。
「涼音、今こそ我の力を極限まで引き出す時…我もまた、お前の覚悟を試す。最後の一撃だ、全てを賭けろ」
涼音はゆっくりと立ち上がり、刀を握り直すと、冷たい決意を込めたまなざしでディルを見据えた。彼女の体内で神威の力が渦を巻くように高まり、その霊気が刀に凝縮されていく。周囲の空気さえ凍てつかせるほどの冷気が漂い、刀身は青白い輝きを増していった。
涼音は全身の力を振り絞り、ディルに向かって最後の突撃を仕掛けた。ディルもまた、全ての魔力を一点に集中し、涼音に対して決定的な一撃を放つべく構えた。
その瞬間、二人の力がぶつかり合い、衝撃波が周囲に炸裂する。
涼音の刀がディルの胸を貫いた瞬間、神威の冷たい霊気が直接ディルの魔力の核に浸透し、凍てつくような光がディルの体全体に広がっていった。
涼音には神威はディルの血を啜ったように見えた。
ディルは絶叫を上げ体が徐々に崩れ始める。
「…敗れるというのか…」
ディルの最後の言葉が虚空に消え、彼の体は黒い霧となって消散していった。




