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強くてニューゲームってやつ

作者: 雉白書屋

「おい、何をぼーっとしてるんだよ」


「あ、え、はい」


「なんだよ、悪魔くせに覇気がねえなぁ。まあ、驚くのも無理はないか。よし、いいか。もう一度言ってやろう。おれの願いはなぁ――」


 彼はある日、小汚い古本屋でこれまた古びた本を見つけた。思い返せば、買うことはもちろん手に取ったこと自体が不思議だった。しかし、それはもしかすると、引き寄せ合っていたのかもしれない。そして、彼は安アパートの部屋に帰り、本の指示通りに行動した。すると、本物の悪魔が目の前に現れたのだった。

 本には、願いを一つ叶える代わりに、死後に悪魔に魂を差し出さなければならないとあった。

 そこで、彼は前々から密かに考えていたある願いをさっそく悪魔に告げた。それを聞いた悪魔は、予想外の願いに面食らった様子で、彼は得意げな顔をした。


「おれの願いはなぁ、死後、何度でも記憶を持ったまま生まれ変わることだ。俗に言う『強くてニューゲーム』ってやつだな」


 彼は不老不死を願うことも考えたが、現状を鑑みるとそれは良い選択とは思えないと判断した。自分が美男子なら話は別だが、そうではない上に貧乏だ。苦しみは続くだろう。それに、いつか自分が不老不死だという話が広まれば、どこかの研究機関に捕まり、研究対象として拘束される可能性がある。それを考えた彼はゾッとした。

 そこで、『強くてニューゲーム』だ。死後に記憶を引き継いで、またどこかの家の子供に生まれるというのは、ランダム要素があり、なかなかに楽しそうだ。その家が裕福なら最高だ。そうでなくても顔が良ければ良し。そのどちらでもなくても贅沢は言わない。普通の家庭に生まれたら、今度はうまくやれる自信がある。ちゃんと勉強をし、まともな人生を送るのだ。気に入らなかったら、自ら命を絶ち、また生まれ変わればいい。そして、きっとこの願いなら魂を取られないだろう。前世の記憶を持ったまま生まれ変わるには魂は必要不可欠のはずだ。彼はそう考えた。


「……て、おい。何を黙っているんだよ。できるよな? なあ、おれの願い、叶えられるよな?」


「ああ、はい……叶えました。さよなら……」


 悪魔はそう答えると、煙となって消えていった。

 しかし、やる気のないやつだったな。願いは本当に叶えられたのだろうか。まあ、信じるしかない。確かめる方法は一つしかないのだから。でも、すぐに死ぬ必要もないだろう。気長に、いや、今回の人生は死を恐れずに大胆に生きてみようか。

 彼は肩の荷が下りたような気がし、柔らかい笑みを浮かべたのだった。

 

 やがて、彼は死んだ。体が溶けていくのと並行して周囲に暗闇が広がり、深淵に沈んでいく感覚があった。しかし、その中に微かな光を感じ始めた。そして彼は、その光が引っ張るようにして次の生を待つ新たな体へと自分を導いていると確信した。

 次の器に向かっている間に彼は人生を振り返ってみた。ああ、それなりに楽しい人生だった。死を恐れずに生きてみたところ、それが他人には自信満々に映ったのか魅力的に思われ、結婚することができ、子供も授かった。生まれ変わったら息子や孫に会いに行くのもいいかもしれない。いや、いちいち過去を引きずるのもつまらない。前のことは忘れ、一回一回、楽しく全力で生きてみよう。悪魔にも感謝だ。いつかこの生活にも飽きて、もういいと思ったら魂をくれてやろう。『強くてニューゲーム』ああ、なんて素晴らしいんだ――あ、明るくなった。えっ……



「おい、何をぼーっとしてるんだよ」

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