88話 モーギュを町中で飼えるように代官を説得中
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「需要は何処にでもあると思いますので、産業としてやりたいのです。沢山の都市町村に売りに行きたいと思っていますので、それについての許可が欲しいのです」
「産業か。それは良いが、ここは鉱山があるのだ。人手は殆どないが、良いのかね? 産業を興すにはそれなりの人と、大量の資金が必要だが。勿論だが、鉱山を掘ることは禁止されている。それは解っているだろう?」
「解っています。それとは別になりますね。端的に言えば、畜産品を扱いたいのです。牛乳や、それからできる乳製品を扱わせていただきたい」
「ふむ。牛乳と乳製品か。となるとモーギュ高地で活動をする事になるのだな?」
「いえ、それもやりますが、主要なことは違います。この町の中で行う事になります。やりたいことは、モーギュを町の中で飼いたいのです」
「……は?」
「ですから、モーギュを町の中で飼いたいのです」
「聞き間違いでは無かったか……。いや、モーギュを町中で飼うだと? それがどういう意味か解っていっているのだろうな? 魔物を町中に入れるという事だぞ? モーギュとて危険な魔物という事には変わりない。それを町中に入れるだと?」
うん。まあそうなるよね。普通はそういう反応をするんだよ。ロスモアでは、なんだか知らない内に許可が降りたんだけど、魔物を町中に入れるというのに難色を示すのは当然だよな。暴れられたら怖いもの。そんな危険なことをやりたいと思うのかって言われると、やりたくないと思うんだよ。為政者としては。普通はそう思うはず。
だが、ちゃんと魔法を使えばその辺は大丈夫なんだよな。テイムしている魔物が人を襲うのは、テイムしている人が命令しないといけないし。勿論だけど、暴走させる事も出来るぞ。バーサクの魔法を使えば。まあ、悪意のある人がしなければ、そんな事にはならないけどな。
「そうです。町の中に入れるのです。魔物を魔法で使役して、大人しくさせる方法で飼う事を予定しております。ロスモアではこれで許可が降りていまして、現在、50体ほどのモーギュを飼っている所なのですが、暴れたという実績はありません。それに、戦力も常駐させますので、万が一暴れても大丈夫なようにしておきます」
「魔法で? その様な魔法があるのか? いや、それでも人手が足りんだろう。戦力を常駐させると言ったが、今の冒険者は契約で鉱山の魔物狩りをしているのだ。そんな戦力が何処にある?」
「戦力はスラムに沢山いるじゃないですか。彼らを育てます。15日もあれば、立派な戦力が出来上がりますので。その彼らが魔法を使い、モーギュを世話し、畜産物を生産します」
「流石に15日程度の訓練で魔物を倒せるようになるとは思えんのだが?」
「いえいえ、15日もあれば、十分な強さを身に着けられます。それは俺たち同盟〈光る原石〉が実践してきたことですから。実績も他の町でありますし、そもそもですが、非人間の雇用にもなるんですよ? ヒルストン伯爵家としても嬉しい話では無いですか?」
「……そこを突かれると弱いが。確かに同盟〈光る原石〉は非人間の同盟だという事も聞いている。しかしだ、スラムから非人間が居なくなれば、労働力が足りなくなるのだが?」
「その辺は仕方が無いですね。この産業をやるにしても、やらないにしても、非人間がスラムから消えるのは確定事項なので。その辺りの心配はする必要はありません。既に今日にでも、スラムに住む非人間は居なくなると思うので」
「……鉱山では、少ないが非人間も働いている。それも引き抜くつもりか?」
「いいえ? 既に生活が出来ているのであれば、引き抜くことはしませんよ? 待遇が悪くて、こっちの同盟に入りたいと言ってきた場合は受け入れますけど。そもそも、逃げられるような雇用体系を取っている方が問題じゃないですか?」
『マジックエンブレム』の奴隷は逃げるのが普通だ。雇用の待遇が悪いとどうしても逃げる。人間でも同じことだと思うんだけどな。
まあ、奴隷を購入したことが無いので、本当にそうなるのかは解らないんだけど。リアルだと違う可能性もあるからな。その辺は注意したいところなんだよ。
ただ、認めてくれなければ認めてくれないで良いのだ。最悪はモーギュ高地で大々的に狩りをするか、そもそもモーギュ高地でテイムしてその場で牛乳を回収して帰れば良いので、手間だが産業に出来ない訳では無い。手間の分だけ面倒だろうとは思うけどな。
「ふーむ。普通ではそんな許可は出せない。ロスモアの代官は……ガットンか。あ奴め、何を考えて許可を出したのだ?」
さあ? その辺は俺達では解らないんだよな。何で許可を出してくれたのかが解らない。普通はこの代官のように、あ、名前を聞いてないな。
「すみません。自己紹介が遅れました。俺は同盟〈光る原石〉の盟主、エルンストと申します」
「ぬ? ああ、すまない。こちらも自己紹介が遅れたな。儂はルルーグラ=ルメリアだ」
「それで、普通では許可が出せないと言われましたが、普通では無ければ許可が頂けるのですか?」
「揚げ足を取るな。だが、まあそういう事だな。普通ではない事を証明できればそれでいい。良いんだが、普通ではない実績がロスモアで既にあるという事だからな」
そうなんだよなあ。実績はロスモアにあるんだよ。だから、出来ないって証明は難しいんだよな。出来る証明なら出来るんだけど。ロスモアで見てきてくださいと言えば良いだけだからな。それで納得できるのかって所でもあるんだけど。
迷うのは仕方がないと思う。誰だって魔物を飼いませんかと言われて、良いよと即答は出来ないはずなんだよ。ロスモアがおかしかったのだ。普通はこういった話になるし、もっと話を詰めて、こちら側もプレゼンをしないといけないはずなんだよな。
「とりあえずは、そこは置いておきまして、もし飼えるのであれば何が出来るのかを説明したいと思いますが、良いですかね?」
「うーむ。そうだな。決めかねているが、先にそちらの説明を聞いておくか。それで特に有益でも無ければ、許可は出せないという事にしておく方がいいかもしれない」
「そうですね。不利益の方が大きいと思えば切り捨てる事の方がいいかもしれないですが、モーギュを飼う事は有益ですよ。まずもってモーギュの特徴なのですが、子供を産んでいなくても牛乳が出ます。これは普通の動物の牛とは違う点です。ですが、普通の牛乳なので、牛よりも沢山の牛乳が取れます。そして、魔物なので餌も必要なければ、汚物の処理も必要ありません。動物であれば必ず必要になってくる事が必要なくなります。それだけでも、牛よりもモーギュを飼う方が良いという判断です」
「なるほどな。病気の素になる物と、臭いの素になる物が出ないのは大きいだろう。それだけでも、牛よりもモーギュの方が良いだろうというのは解る」
「そうでしょう? そして、牛乳ですが、モーギュ高地で普通に戦ってドロップさせるよりも20倍から30倍は採取出来ます。勿論、肉は無理ですが」
「流石に肉が無理なのは儂でも解る。しかし、牛乳が20倍から30倍か。それだけの需要があるのかどうかだろう。飲むやつは居るが、好き嫌いが分かれるぞ?」
「そうです。なのでそれを加工します。牛乳からはチーズ、バター、ヨーグルト等が作れます。特にチーズやバターは欲しいんじゃないですかね? ここは鉱山町。酒場は沢山あるでしょう? つまみにバターを用いた料理やチーズがあれば、酒が進むと思いませんか?」
「……なるほどな。確かに欲しいだろう。チーズもバターも高級品だ。普通の平民が手を出せる品じゃねえ。だが、酒に合うってのはよく解る」
「でしょう? なのでそれを平民でも手が届く値段で販売します。……ちらっと聞いた話に寄ると、チーズもバターも、第2王子派が作っていて、出回らないという話を聞きましたが?」
そうなんだよな。その辺が利権になっているらしいんだよ。教会は何処かの伝手で貰って来るらしく、入手先は第2王子派閥という訳なんだよな。
しっかりと作り方は秘匿されている。原材料は解っても、作り方が解らないという典型的なパターンだ。まあ、魔法を使えば簡単に作る事が出来るんだけどな。




