170話 無限資源の配給が常食で、強いのがいないと、狩場が溢れたら滅ぶ
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ドンドンドン
「村長、客だ」
「ふん。何処の馬の骨か知らないが入んな」
村長も生きる気力なしと。どうしてしまったのかね? 本気でどうにかなってしまっているんだけど、これはどうしたものか。生きる気力がないってのが一番の問題だよなあ。何が原因なんだろうか。裕福には見えないが、貧困って訳でも無いんだよな。痩せているかって言われると痩せてないし。太っても居ないんだけど。農民なら筋肉質なのかと言われても、違うしな。本当に何なんだ? 違和感が凄いんだよなあ。
「それで? お前らは何をしに来たんだ?」
「信じてくれるのかは解らないが、別の大陸から来たんだ。この陸地とは別の所からな。それで船から降りて一番近くの村に来てみたら、なんか死んだような生きているのか解らないような農民が農作業の様な事をやっているから、何事なのかと思ってな。詳しい事を聞くために村長の所まで連れてきてもらったんだ」
「ほーん。まあ、そういう可能性は考えられたが、船を作ることが結構難しい。それに、そんな事をしなくてもよくなって久しいからな。まあ、儂も人のことは言えないが。今のままを続けていても仕方がないとは思っている。が、どうしようもない所まで来てしまった感があるからな。それで、この国の事を知りたいってか?」
「それもあるな。それ以上に何でこんな状態なんだ? なんか農民を見ていてもちぐはぐだし、生きているって感じがしないんだが。それに子供が居ないよな?」
「ああ、子供な。皆出ていってしまったからな。村での生活がし難くなって、出ていってしまった。一番若い奴で40歳くらいだったと思う。この村はもうお終いさ。農民と言っても、食うに困らないだけの生活をしている者ってだけなんだ。畑も趣味レベルのものでしかない。生活するだけなら困ってないのさ。食べるものはあるし、嗜好品もある。それらが自由に与えられている。そんな中で畑仕事をしているってのは、本当に趣味なのさ」
……農民が畑仕事を趣味にするのか? というか、限界集落まっしぐらじゃないか。どうしてそうなるんだよ? 基本的には農作物が無ければ食っていくのに困るんだけどな。趣味じゃなくて仕事にしないと無理だろう? 何でそうなっているんだろうか。
「不思議か? まあ、そうだろうな。普通は食うに困ることがあって、必死に働かないといけないっていうのが普通だろう。この国は普通じゃないんだ。いや、既にこの陸地全部が普通じゃないのさ」
心当たりが無い訳では無い。農民が働かず、食料を生産せず、生きていく方法はある。それを大規模でやるのは多少無茶をしないといけないが、出来ないことはない。第1大陸でなら出来る可能性がある。やるかやらないかでいうと、絶対にやらない。それこそ、こんな状態になるのが目に見えているからな。モリエラルト大公爵様にも、国王エーミール様にも言ってある。それだけは何をしてでも止めないといけないと。それをしてしまった可能性があるんだよなあ。
「ほう、そこの人間だけが何か解った感じがありそうだな。言ってみな。多分だけど、当たっていると思うぞ」
「そうか? それじゃあ、無限回廊から出てくる無限資源、それで生活をしているから、食料なんかの生産をしなくても生活が成り立ってしまっている。違うか?」
「ほっほっほ。正解だ。無限に出てくる資源を使って生活を成り立たせている。それは全ての町や都市でも同じさ。最低限度の生産活動を除いて、それ以外は無限資源に頼って生活をしている。食料を生産するのは誰だって出来るんだ。別に農民がやらないといけない訳じゃない。袋から取り出せば良いだけ、壷から取り出せば良いだけ、瓶から取り出せば良いだけになっているのさ」
あーあ。やってしまったなあ。これだけは絶対にしてはいけないって事をやってしまったのか。そうなんだよな。無限資源があるんだから、全てのリソースをそれに費やせば、他は何もしなくても生きていける。無限資源はそういう代物なんだよな。まあ、本来の使い方は違うんだろうけども。無限資源はあくまでも神になりたい者たちが持って無限回廊を潜るから必要なものであって、一般生活に出していいものではないんだよな。
無限回廊を攻略するには、1京層の階層を攻略しなければならない。それをするには、500人規模の一族単位で無限回廊に挑戦し、何代も世代を重ねて無限回廊の最下層に辿り着く必要がある。当然、出産も無限回廊の中で行う必要もあるし、子育ても無限回廊で行う必要がある。その時に活躍するのが無限資源だ。ドロップ品で食料品以外が落ちる事の方が多いんだ。無限回廊を延々と潜り続ける事を可能にするために、無限資源があると言ってもいい。
俺たちはそれを兵糧として使ったけど、普通の使い方ではない。やむを得ないからそうしただけであって、本来の使い方ではないと思っている。だって、中の中の食材しか手に入らないんだ。美味しいものを食べようと思うと、ちゃんと生産をしないといけない。魔法を使って、肥料を与えて、しっかりとした生産活動を行わなければ、美味しいものは手に入らない。
だが、無限資源の味しか知らなければ? それ以上に美味しいものがあると知らなければ? 人はそれで満足してしまう。大して美味しくも無いものを美味しいと認識できてしまう。昔の俺の様にな。病院食は、必要最低限の栄養だけで味はいまいちって評価だったからな。
「別に悪いとは思っておらんよ。それで食えるのであれば良いんだ。それでも、食っていけるのであればな。ただ、ここのように農村から人が離れて言っている。既に放棄された村も幾つもある。既に無限資源も余りつつある状況だ。そんな状態で、無限回廊に潜ろうと思う輩が居ると思うか? 狩場で強くなろうと思う輩が居ると思うか? 少なからず居るのは確かだが、生きる気力が無くなるものも多いんだ。そんな事をしなくても、生活が出来てしまうからな」
「言っては悪いが、最悪の選択をしたと思っている。無限資源は確かに楽だ。それに頼りたくなるのも解る。だが、それを主戦力にした時点で、滅びに向かうしかなくなるんだよ。農作物は農家が、海産物は漁師が、畜産品は畜産業者が作らないと生きる意味が無くなるだろう?」
「そうだ。生きる意味が今のこの国、この陸地には無いんだ。どの国を見てもそうだと思うぞ。今や戦争なんぞ起りはしない。しても無駄だからだ。食べる事には誰も困っていない。人口が減り続けても、誰も困らないんだ。遠からず、この陸地は滅びる。無限資源を貪るだけの生き物は、その内狩場から溢れ出てきた魔物によってやられる運命にあるのさ」
「今からでも変えるつもりは無いのか? 言っては悪いが、そんな状況で何ができる? 何をしたいのかが解らない。生きている意味があるのか? ただ、何もしないでも生まれ出てくる食料を貪るだけの生にどれだけの意味があると思っているんだ?」
「意味などないさ。生きる意味は、生まれてこの方考えたことも無い。いや、小さい頃は考えたのかもしれない。しかし大人になれば、それも忘れてしまった。ただ食べ、糞をし、生きながらえるだけの肉袋になったのは、何時の事だったのか。それが普通であり、それが儂の生まれてきた意味であった。それで一生を終えるのさ。そして、その頃には村も無くなっているだろう」
……これは、深刻だ。今までの中でも一番深刻かもしれない。魔法技術も発展したんだろうが、これは衰えてしまっても仕方がないと思えてしまう。無限資源は最後の手段であって、恒久的なものだ。セーフティーネットであって、常食としてはならない。そういう取り決めが無いと生きる意味を、人生の価値を見出だせなくなってしまう。ここは、そういう大陸だ。




