ep2.ようこそヒト族兵士育成校、戦闘科へ。
「学校内にしては禍々しい扉だな....」
扉の取っ手に手をかけて、メリーのあの笑顔を思い出す。
(絶対大丈夫....絶対大丈夫だから....)
メリーは炎系の能力を恵んでもらった。聖母イソーマに。中学の歴史の教科書に載っていたが、ヒト族の体は貧弱なため、昔地球という星に定住していた時は異星人にされるがままだったそうだ。しかもその時ヒト族の科学技術は現代の半分も満たなかった。それを見ていた聖母イソーマはこれを哀れみ、ヒト族という種族とある契約を交わした。契約内容は、膨大なる''宇宙の知識''と戦士への''恵み''であった。本来、''神''と呼ばれる上級の種族との契約には大きなリスクがある。しかし聖母は人間に何も求めなかった。それが聖母と呼ばれる所以....
(聖母様なんだから....きっと....きっと大丈夫だよ)
本来私に不安がる理由なんてない。でも、でも、メリーの笑顔を見ていると思ってしまう。考えてしまう。
(もし、あまり役にたたない恵みを与えられたら....)
戦闘兵はその名の通り、種族のために命を懸けて戦う職業。私は、家族を養うため、生活させるために
戦う。死ぬわけにはいかない。
「不安か。リン・ハリス。」
「いえ....別に不安はありません。」
「本当にか?顔に出ているぞ、全て。」
私は意識的に表情を強張らせた。
「リン、お前は何のために戦う」
「家族のためです。」
「なら大丈夫だ。」
ゴルバ先生に背中を押され、私は扉を開いた。
その瞬間、ムワッとした空気が私の顔目掛けぶつかった。
ゴルバ先生は怯むことなく歩いていく。その背中の後ろにポジションを確保し、私も歩き始めた。
扉を開くと長い廊下が続いており、灯りは数本の柱についているロウソクだけだ。
しばらく歩くと、少し開けた場所にでた。
「わあっ」
思わず声が漏れる。床には大きな赤い円陣があり、二人の教員?だろうか、男性が二人両端でなにやら祈っている。
「さあ、真ん中へ。」
言われたまま真ん中に移動する。
「!?」
なんだ?体の動かし方、銃の扱い方などの情報がどんどん頭に入ってくるっ....
頭が痛い....っぐ..あ........
目を開くと、私は真っ白い空間をただただ漂っていた。
(なんだろう、ここは。私は何をしていたんだろう。でもなぜか気分が凄くいい....)
しばらくして、急に下に体が降下し始めた。
(わあああ!!)
ドサッ....
着地したその場所は、綺麗な花畑だった。
なんだか霧が凄く濃い....辺りの状況が掴めない....
(おーい、誰かいますかー?)
誰からの返答もない。動いても危ないかもだし、しばらくはじっとしとくか。
そのうちに霧が薄くなってきた。目を凝らして見てみると、そこには一つの像があった。
近づいてみよう。何故かそう思った。像に手を伸ばせば触れれるところまで来たとき、激しい痛みが頭の中で暴れ始めた。
(うわああああっ!!)
像の前で悶えていると、キーンと耳鳴りがした。だんだんと耳鳴りが確かな物と成ってゆく。それに加え、耳鳴りが誰かの声に変化していった。
(何をそんなに怯えているのです。)
そんな声を確かに聞いた。その瞬間、今までの苦しみがなんだったのかと思うほど一瞬で無くなった。
思わず立ち上がるとそこにはやはりさっきの像があった。
(貴方一人の命に数多の命が掛かっています。その命尽きるまで、他人に尽くしなさい。)
その声を聞いた後、何故か私は像に手を伸ばしていた。
像の手と私の手が触れ合った瞬間、意識がなくなった。
目が覚めると、先程の円陣の上にいた。
「契約は終わったよ。リン・ハリス。恵みの確認をするから、こっちに来なさい。」
ゴルバ先生に連れられるようにして、別室へと移動した。
そこは至って普通の教室で、空き部屋といったところだろうか。
「さあ、何かやってみなさい」
「何かって、何をすれば..」
「何も考える必要はない。何かを動かすイメージだ。体が覚えているだろ?」
「体が....」
その言葉を聞いたとたん、先程の記憶が全て溢れ出してきた。像のこと、情報のこと。
その瞬間だった。
シュ!!
無意識に手を伸ばし''ビーム''を放っていた。
「当たりくじを引いたね、リン・ハリス。」
「ようこそヒト族兵士育成校、戦闘科へ。」
突然涙が溢れ出した。今の出来事は数十分とは思えない程のものがあった。
私は今まででも、これからも、こんなに充実した時間を過ごしたことがない。