6 邂逅
「船団の軌道に変化。回避行動に入った模様です」
座席に体が沈み込み、腕を動かすのもやっとという状態で、仮想操作卓のキーボードをお腹の辺りに表示して操作しながら、西郷が報告した。同時に3人の透明ドームに船団の軌道が表示された。
船団は全力で進行方向左側に軌道をずらし始めているようだ。
同時に、船団の一部の輝点が、船団の進行方向右側前方に出てきた。
「船団の高速貨物船が、盾になるように移動しているようです」
「身を挺して旅客船を守るつもりだ……」
熊野が呟いた。
「1号機、先行コンテナを通過。ミサイルに動きありません! 2号機邂逅まであと4分!」
無言で報告を聞いていた深瀬が声を上げた。
「よし! ようやく本部から返信。E8706-10Mコンテナ群及びミサイルの破壊措置命令。加えて火星周辺の警備隊船艇に出動命令が出たそうだ」
「これで我々が懲戒処分になることはなくなりましたな」
熊野が笑った。
† † †
「2号機の先行コンテナ邂逅まであと30秒。アルシアの邂逅まであと13分」
「だいぶ時間を短縮できたようですな。レーザー砲の有効射程まであと少し。頼む、間に合ってくれよ……」
熊野の祈るような呟きを掻き消すように、西郷が叫んだ。
「あ! 先行コンテナに熱反応。相当な高温です!」
「くそ、2号機が衝突する前に発射させやがったか!」
熊野が悔しそうに叫んだ。続けて西郷が声を上げる。
「2号機、先行コンテナに衝突!」
深瀬がすかさず仮想操作卓に音声入力を行う。
「アルシア、パターン2によりレーザー砲射撃開始。以上!」
3人の透明ドームにレーザー砲射撃中の文字が表示された。先行コンテナの大きな破片がアルシアとの衝突軌道に入ったため、レーザー砲が破片を破壊する。
「ミサイルの推定軌道等を算出しました!」
西郷の報告と同時に、3人の透明ドームに推定軌道が表示された。ミサイルの危害円は、船団をしっかりと捉えている。
「アルシア、頼む!」
深瀬が叫んだ。もう一つの大きな破片を破壊したレーザー砲の照準が、ついにミサイルに設定された。
レーザー砲が複数回照射された。その直後、3人の透明ドームの画面に、危害円が表示された。先ほどの推定よりも手前だ。
「ミサイル破壊! 爆散しました!」
西郷の報告を聞いて、直ぐに深瀬が音声入力を行う。
「アルシア、緊急回頭、危害円中心に対して180度! 対爆雷防御開始。以上!」
アルシアが急速に回頭した。3人の体が天井方向に吹き飛ばされそうになるのをクッションが押さえ込む。
西郷は、一瞬クラクラしたが、頭を軽く振って透明ドームの表示を見る。
予測よりも手前でミサイルが爆発したことにより、船団は危害円を避けて無事に通過出来そうだった。
一方、アルシアは危害円の端をかすめることになった。
相対速度はそんなにないが、破片の密度が高い。推進機の全力噴射で破片を吹き飛ばしながら、避けきれない破片をレーザー砲で破壊する。
同時に、推進機や居住エリアを破片から少しでも守るように、ゲル状の緩衝材を注入した防御板が船体外側にせり出した。
その直後、アルシアが激しく揺れた。船内に警報が鳴り響く。
「爆散片が第一格納庫に衝突。第一格納庫減圧。区画閉鎖します!」
熊野が報告しながら仮想操作卓を操作する。透明ドーム左下にアルシアの全体図が表示され、アルシア後部寄りの第一格納庫付近が赤色で塗りつぶされた。その他は問題なさそうだ。
「もうすぐ危害円を抜ける。あと少しだ!」
深瀬が2人を励ました。その直後、先ほどより衝撃は小さいものの大きな音がして、再び警報がなった。
「艇首の通信アンテナ破損。大丈夫、大したことはない」
熊野が報告した。熊野が話し終えると同時に西郷がホッとした声で2人に報告した。
「助かった……危害円を抜けました!」
「よし、それじゃあ取り急ぎ被害状況の確認と帰投軌道の算出を手分けして進めよう!」
額の汗を拭いながら、深瀬が笑顔で2人に声を掛けた。
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