5 画像データ
「おかしい……」
無人救難艇1号機の射出から20分後。操舵室の座席に寝転んだ深瀬が、仮想操作卓を見つめながら呟いた。
深瀬の右隣の座席に寝転ぶ西郷が尋ねる。
「何かありましたでしょうか?」
「いや……警備隊本部と船団宛てに送った連絡なんだけど、船団からは受信済みの連絡が来たのに、本部から何も来ないんだ」
「おかしいですね。通信障害は発生していないようですが……」
仮想操作卓で検索しながら、西郷が不思議がった。西郷の右隣の座席で寝転んでいる熊野が、訝しがりながら2人に話しかける。
「もしかすると、本部は『聞こえないふり』をしているんじゃないですか?」
「聞こえないふり?」
深瀬が聞き返すと、熊野が笑いながら答える。
「本部にとって、知ってしまうとマズい何かがあるんですぜ、これは」
「何やらきな臭くなってきたね……万が一に備えて、戦闘態勢に入っておこう」
深瀬が西郷と熊野に確認した後、仮想操作卓のボタンを押した。操舵室内にブザーが鳴り響き、ベッドの形にしている3人の座席が透明な分厚いドームで覆われた。
座席のクッションが膨らみ、3人の体を包み込むなどして、衝撃から保護する措置がとられた。
「何度入っても、この棺桶は窮屈で慣れませんな」
熊野の笑い声が座席ドーム内の通話機から聞こえて来た。
† † †
「1号機から最初の画像が届きました。表示します」
西郷が報告すると同時に、3人の目の前の透明なドームに、それぞれ画像が表示された。
巨大な先行コンテナの右舷後方からの画像が表示された。見た限り、コンテナは標準的な形で特段破損等はない。
「……ん? コンテナ右舷中程を拡大してくれ」
何かに気づいた熊野が言った。西郷が急ぎ仮想操作卓で操作する。若干ぼやけた画像が表示される。
「このタイプのコンテナは、こんなところに補助ロケットなんか付いてないよな」
熊野の呟きを聞いた西郷が、同型のコンテナ画像を3人の透明ドームに表示させる。確かに補助ロケットは付いていなかった。
「西郷君! この前の研修資料で出ていた各国宇宙軍の艦対艦ミサイルのカタログってある?」
珍しく大きな声で深瀬が言った。西郷が急いで検索する。
「ありました、出します!」
コンテナ拡大画像の下に、各国宇宙軍の艦対艦ミサイルが表示された。
熊野の目に、火星共同運営条約機構の常任理事国の1つであるインドの宇宙軍の旧型ミサイルが目にとまった。熊野が叫ぶ。
「ビンゴ! この旧型のヤツだ。推進機の特徴が一致している」
深瀬が声を上げる。
「西郷君は、1号機がもう少し解像度の高い証拠画像を撮れ次第、データを本部と船団に送信してくれ。緊急扱いでいい」
「私は2号機を先行コンテナの衝突軌道に変更し、レーザー砲戦の用意をする」
「熊さんはアルシアの最大加速準備を頼む。少しでも先行コンテナとの距離を縮めよう」
「分かりました!」
「了解!」
3人はそれぞれ作業に取りかかった。
作業開始から2分後、西郷が叫ぶ。
「高解像度データ届きました。緊急扱いで本部と船団にデータ送信!」
それを聞いた深瀬が続く。
「西郷君、ありがとう。こちらは2号機の軌道変更完了。レーザー砲の自動射撃パターン入力完了。熊さん、加速開始よろしく」
深瀬の指示を受けた熊野が、野太い大きな声で応じる。
「最大加速開始します。頼むぜ、アルシア嬢!」
操舵室の床の底から、ひときわ大きい唸るような音が聞こえてきた。3人は座席に体を押しつけられた。
続きは明日投稿予定です。
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