3 コンテナ群
「艇長、コンテナ群の詳細位置の観測結果が出ました」
コンテナ群との邂逅2時間前。西郷が操舵室壁面の共有ディスプレイに観測結果を表示した。深瀬が首を傾げる。
「一部先行しているコンテナが気になるね」
各コンテナを表した点は、ほとんどがコンテナ群の予定位置の円内に収まっていたが、一部の点が円から少しだけ軌道の進行方向に飛び出ていた。
「ギリギリ誤差の範囲ではありますが……」
「このコンテナ群の射出は、予定どおりだったんだよね?」
「は、はい。特に射出時刻や初速、方向等のズレはなかったようです」
深瀬の質問に、西郷がデータを見ながら答えた。深瀬が更に尋ねる。
「コンテナ群の今までの航路上での事故報告はある?」
「いえ、何もありません」
「ふむ……1つ前の位置観測データってあるかな?」
「はい。6時間前のものがあります。精度は落ちますが……横に表示します」
西郷が仮想操作卓で操作すると、共有ディスプレイの右半分に6時間前の観測結果が表示された。
左半分の直近データに比べると、コンテナ位置を表す点が大きく、複数のコンテナが一つの点になっているが、すべてコンテナ群の予定位置の円内に収まっていた。
「コンテナ群の加減速の予定はどうなっているんだったっけ?」
深瀬が円から飛び出た一部の点を見つめながら言った。西郷が仮想操作卓で検索して答える。
「航宙計画書によると、現在、コンテナ群は慣性航行中で、減速は15日以上先の予定です」
「何らかの不具合で速度に変化が生じたのか。それとも……」
深瀬が腕組みをしながら呟いた。少し考えてから西郷に聞く。
「先行コンテナの温度を赤外線で観測してもらってもいい?」
「承知しました。少々お待ちください」
西郷が仮想操作卓で作業を始めた。しばらくしてから深瀬に声を掛ける。
「お待たせしました。他のコンテナと比べて温度が若干高いですが、主推進機を点火した兆候はありません」
「おお、早いね。ありがとう。デブリ回避のためスラスターが短時間動いたのかな……」
「……ごめん。念のためだけど、仮にこの先行コンテナから対艦ミサイルを発射した場合、船団を攻撃可能かって分かるかな?」
深瀬が申し訳なさそうに西郷に聞いた。西郷が笑顔で答える。
「はい、過去の演習データが残っていたと思いますので、やってみます」
西郷が再び仮想操作卓で作業する。しばらくすると、西郷が声を上げた。
「こ、これは……艇長、見てください!」
壁面の共有ディスプレイの最前面に、ミサイルの軌道と船団の軌道が表示された。
徐々に減速しつつも未だ高速で火星に向かう船団に、先行コンテナから急加速したミサイルが、船団の右舷方向から船団の軌道に直交する形で接近する。
ミサイルが徐々に軌道を地球方向に曲げて、船団の目前、正面右側45度前後の角度で邂逅し爆発。危害半径等から算出されたエリア、すなわち危害円に、相対速度を殺し切れない船団が突っ込んだ。
「演習で使用された一般的な艦対艦ミサイルの性能であれば、十分に攻撃可能です」
「ミサイル発射直後に船団が回避行動を取ったとしても、船団はミサイルの危害円から逃げられません」
「しかも……」
西郷はディスプレイを見ながら息を呑んだ。
「先行コンテナが現在位置から慣性航行を続けた場合、最適な発射時刻は、我々とコンテナ群の邂逅直前。今から1時間半後……」
「先行コンテナの現在位置は、我々のコンテナ状況確認を回避しつつ船団に攻撃できるベストポジションです!」
「熊さんの嫌な予感が当たったか……」
深瀬が壁面のディスプレイを見つめながら呟いた。
「隊本部に連絡しますか?」
西郷が不安な顔で深瀬に聞いた。深瀬は頭を横に振る。
「いや、まだ推測でしかない。この時点で報告しても、本部は取り合ってくれないだろう」
深瀬が少し笑った。
「熊さんには申し訳ないが、お言葉に甘えて叩き起こすことにしよう」
「承知しました。起こしてきます!」
西郷は座席から急いで立ち上がると、後ろを向いて背もたれに手を掛け、緩やかな放物線を描きながら後方のハッチへ向かった。
続きは明日投稿予定です。