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21 交渉

 火星の独立宣言が行われた翌日午前中。事務総局・火星臨時政府の外務局北米課首席事務官の篠原は、北米課長等とともに、ほぼ徹夜明けでアメリカ政府との交渉の席についた。


 オンライン会議の画面に映るアメリカ政府の交渉担当官も、目にクマが出来ていた。状況は同じようだ。


「まず、そもそも事務総局はオフィル市から今回の交渉に関する一切の権限の委任を受けているのか、その点を確認したい」


 アメリカ側からの確認で交渉が始まった。


 アメリカは、事務総局・火星臨時政府の交渉権限自体を認めず、アメリカ領オフィル市との交渉要求から始まるのではないか、と身構えていた篠原達としては、やや拍子抜けしたスタートだった。


 事務総局の交渉権限を確認後、アメリカ側から、今回の火星の独立宣言は、領土保全の原則に反するのではないかとの疑念が呈せられた。


 これに対しては、コソボ独立宣言や月政府独立時の議論を根拠に、今回の火星の独立宣言は国際法に反しない旨を説明したところ、アメリカ側はすんなり矛を収めた。


「さて、仮に火星の独立が国際法上許容されるとして、我が国が火星に有する鉱山や、事務総局に委託して実施しているメインベルトの小惑星の採掘の扱いはどうなりますかな。事務総局のホームページには何やら興味深い記述がありましたが」


 よし、土俵に上がってきた! 篠原はアメリカ側の発言を聞いて、心の中でガッツポーズをした。


 事務総局のホームページでは、常任理事国の火星の権益について交渉の余地があることを(ほの)めかす記述を載せていた。


 この点を最初から譲歩するのは、あまりにも弱腰ではないかという議論が事務総局内でもあったが、可能な限り武力衝突を回避するため、事務総長が決断したのだ。


「その点については、貴国の長年にわたる火星への貢献を考慮し、火星の鉱山については鉱業権の設定、鉱産税等の徴収により、小惑星採掘については引き続き火星臨時政府が受任して実施するなど、貴国の鉱山権益の実質的な継続を可能な限り許容する方向で議論できればと考えております」


 事務総局の北米課長が笑顔で答えた。



† † †



「何とかアメリカとの武力衝突は避けられそうですね。良かったです」


 夕方、長時間にわたる交渉が一段落し、篠原は笑顔で北米課長に言った。疲れ顔の北米課長が(うなず)く。


 アメリカは、火星の鉱山に関する鉱業権設定等について、前向きな姿勢を示したのだ。


 今後の具体的な中身については、事務総局の経済局や財務局が中心となって詰めることになるが、これがまとまれば、アメリカはオフィル市をはじめとした火星諸都市の独立を認める方向で動くのではないかと思われた。


 自席に戻った篠原は、各課の交渉状況を確認した。


 欧州連邦は、アメリカと同様、鉱業権等がある程度維持されれば、火星の独立を認める方向のようだ。


 また、日本は、今後の核融合関連機器や水素車両の日本から火星への輸出について今よりも有利な条件が認められれるのであれば、独立を容認する方向のようだった。


 日本は別として、米欧とも、例のミサイル攻撃に関する報告書の影響もあり、両国の世論が火星独立阻止に向かわなかったこと、両国の火星権益がある程度維持される余地が出てきたことから、態度を軟化させたようだった。


 しかし……


「中国とインドは強硬な姿勢を崩さず、武力行使も辞さない態度、か……」


 篠原は、暗い顔で机上端末に表示されたメモを閉じた。

続きは明日投稿予定です。

2/8誤字を修正しました。

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