02話 水のスキル
落ちている石に水をぶち当てながら、ふわふわと戻ってくる。
『水操作』や『護心竜水』といったスキルを使ってわかったのは。なんか神聖な感じのする水を生み出したり、停滞させて自動で目標にぶつけたり、それと感覚的に自分の能力が守護する事に向いている事がわかった。
動けないヴェルニカの前には小さな泉が出来ていて、『水脈感知』で感じた地中の水を、引っ張り出すイメージをしたら湧き出るようになった。まあ僕専用の飲水みたいなもんだな。
別に飲んだり食べたりする必要がないってヴェルニカには言われたけど、前世の影響なのか飲みたくなるんだもん。
なんかちいさい声でマナの吸収のためなのか?とかいってたけど。
僕は良い感じの岩に登り、頂上に座って胸を張るようにヴェルニカを見上げた。
(どうヴェルニカ! 今日もかなり上達?したよ!)
(うむ、随分と慣れたものだな。このまま努めておれば存在昇華もちかいのではないか?)
(んー?……存在昇華?進化的な?)
(左様!この世すべての者にそなわる能力よ。弛まぬ研鑽はさらなる先を我らに見せるのだ。)
(はえー……いつか僕もヴェルニカみたいになるの?)
(フハハ!もちろんとも!我らが末妹であるからな!さらに言えばお主は聖水をも生み出せるとなれば、真竜になる日も近かろう!)
(というか末妹って・・・僕女の子なん?)
(その輝きは我の姉上や妹と同じ輝きよ。おなごであろうな。)
(むー前世は男の子だったからなー・・・でも転生の影響なのか拒否感はないかな
ていうかドラゴンだし。ようわかんね)
(今はそれでよかろう!フハハハハハ!!)
(ほなええかー)
なんでも、マナを蓄えていればその内進化出来るらしい。他者を殺しても魂の強度が上がって進化に繋がるらしいけど、なるべくなら避けたいなぁ。
(おい、今は我と話しているのだぞ)
(あ、ヴェルニカ。でも自分のスキルについて、よくわからないってのは不便だね)
(スキル獲得時に、"世界の言葉"を聞かなかったのか?転生者は、転生時の願望が強く反映されると聞くぞ?)
僕がまだ人間だった最期の時、バットでぶん殴られて死んだ時ってことだよな……
朦朧としてたのか、あまりよく覚えていなかった。痛かったしもう嫌だと思ったし、何か声が聞こえたような記憶はあるんだけど……
(まあ、聞いていたならそのうち思い出すかもしれんぞ)
(そうだといいな。今はとりあえず、やれるだけやってみるよ)
僕の前世での願い、この『護心竜水』が関係しているはず。どんな願いだったのかかわからないけど……とにかく、スキルを使用…………
ぱちゃん、と僕が座っていた岩が濡れた。
椅子が濡れて、僕の身体からしとしと……と地面へ水が零れ落ちる。
んー、気分が沈むと……水が出る感じなの僕……?
どさどさっ、と真上あたりの空間から大量の水が降ってきて、僕は水に埋まる。
(あっ水の中でも大丈夫なんだ、僕)
(貴様は水竜だからな!至極当然であろう!)
僕の学習スピードはなかなか遅い思うんだけど、ヴェルニカの親バカっぷりがその上を行く速度でエスカレートしている。
なんでも、昔やんちゃしてたら勇者だかなんだか知らんのに封印されてしまったらしい。
長いこと封印されてるらしいので、今まで一人でよっぽど寂しかったんだな……
(フゥーッハッハッハ……!)
(うぐ……ヴェルニカ、いきなり笑わないで!びっくりする!)
(む、すまぬな!我が子育てのような事をするとは、不思議なものでな!!)
何度か『護心竜水』のスキル練習をしているうちに、水を固めて形を作り出す『造形』が行えることに気付いた僕は、ふと物凄いアイディアを閃いた。
水で人間の姿を作るのはどうだろう!? 『造形』を極めればもしかして人間形態になれるんじゃ……!?
まずは試しに人間の手を作ってみよう……と僕は頑張った。僕の水はやたらと綺麗で透き通っているんだけど、集中して固めればしっとりと空間に固定出来る。案外人肌に近いものが作れるかも……と何日も掛けてようやく完成し、出来た! と喜んでから冷静になってみれば、そういえば僕が作ったのは手だけだった。地面から生える人間の水の手。
小さな子供の手なあたりがホラーにしか見えない……こんなグロテスクな光景をじっと見つめるヴェルニカに少しだけ救われた。諦めずに練習を続けよう……!
(人間の姿に拘るのだな。前世が人間だからか?)
(そうかも)
(竜のままはどうだ、我のように堂々たる姿が羨ましくはないか?)
(ヴェルニカは格好良いと思うよ、でも)
(そうかそうか! 格好良いか! ならばお前もこの姿を真似るが良いぞ、お前であれば許してやろう!)
(聞いて。でもやっぱり僕は人間だったからさ)
シュンとしてしまったヴェルニカには申し訳なく思ったけど、僕は人間の姿を目指したい。
しかし、水だけで人間そっくりの人形を作ってみろというのは、考えなくてもわかる無理ゲーだ。水を固めれば人体のようなものは再現出来そうだが、他の部位は? 顔は? 目は? 髪はどうやって作る?
せめて水の色を変えられれば……
魔素を込めたりする加減でどうにかならないかな……
と、試行錯誤を繰り返すうち、僕はこんな"世界の言葉"を聞いた。
《確認しました。エクストラスキル『水操作』『水生成』は、ヴァリアントスキル『水ノ心得』へ進化しました》
なんと、なんかスキルが進化したのだ!
僕の努力が世界に認められた瞬間である。ヴァリアントスキルってこんなに簡単に獲得するものじゃないような気もするが、僕と水のスキルの相性も良かったんだろうな。
新たに得た『水ノ心得』の『変質化』により、水の色や質感の調整が自在となった。僕が思い浮かべた通りの水を、そのままで『造形』出来るようになったのだ。かなり緻密にイメージしながら作業しなければならず集中が必要だが、この場合で言えば人間そっくりの外見を持つ水人形を作り出せるということ。僕は俄然やる気を出して日々の作業に取り組んだ。
ところで、身体を作り手足を作り、頭部の作成に取り掛かった頃、ヴェルニカが何やらあれこれと口を出してくるようになった。やれもう少し頬をふっくらとだとかやれ鼻筋はすらりとだとか、お前は竜なのに何で人間の顔に好みがあるの? って聞きたいくらい細かく。
まあ前世の自分の顔を再現するにも記憶だけでは頼りなく、上手く行かずにどうしようかと困っていたのは事実だ。僕はありがたくヴェルニカの助言を受け入れることにして、途中まで作りかけていた前世の顔をベースに、言われるまま調整を繰り返すのだった。
そして、二ヶ月以上もの作成期間の果てに、ようやく人間形態が完成する。
岩陰に広げた水のクッションの上に、脚を折り畳んでくったり座る水の人形。
(ヴェルニカ! やったぞ、成功した! どうかな、人間に見える?)
少し興奮しながら、ヴェルニカに近付く。
人間形態にどう合体するかは悩みの種だけど、先にお披露目だ。
そういえば、やってみたら布らしきものまで『造形』出来てしまったので、今は適当にローブをダボッと被ったような格好にしている。どの程度の服装ならこの世界に馴染むんだろうな…
(フゥハハ……ハハハハ! 素晴らしい出来栄えではないか! 貴様の魂そっくりではないか!)
(そ、そう? 手伝ってくれてありがとう!ん?魂?)
(礼には及ばぬ、実に見事だ!
ぬ?どうしたのだ?我ら龍種であれば姿変化は基本であろう?
既に貴様の魂から朧気ながら変化時の依代が見えておるのでな!!)
(は・・・?)
《エクストラスキル『身体変化』を習得しました。》
(さ・さ・さ・・・・)
(む?どうしたのだ?)
(先に言えーーーー!!!!!)
(ぬわー!!!すまぬすまぬ!だが、素晴らしく美しいではないか!!)
僕の文句をものともしないで、容姿をベタ褒めだった。ヴェルニカは基本的に激甘なので贔屓目ありかもしれないが、鏡のような水を作り出して見ると、僕から見てもこれは間違いなく人間そのもの。
青みがかった長い白髪、サファイア見たいな瞳の・・・幼児。
ため息をしながら人形をただの水に戻して、『身体変化』をしても、かわりはなかった。ちっこいです。
(よくもまあ、ここまで我好みの見た目を生み出せたものよ)
(うん?)
(お前が成長した暁には、この我が娶ってやろうぞ、クァーハハハ……!)
(あ、いやそれはえんりょしまーす……)
これはきっと、大きくなったらパパと結婚しようねーと子供にデレデレな新米パパのアレだろう。ヴェルニカは本当に親バカが過ぎるなあ……残念な竜だ。というかまだまだ子供だし、なんか気持ち的にも嫌なのでお断りします。
完成した僕の顔は、とてつもない美少女顔となっていた。
ヴェルニカ好みらしいけど、ただし、もう僕の面影を見付けるのも難しいほどに、何でこんな美少女になるんだよって……どうなっとんねや。
でもなんか魂てきにこの容姿らしいので、深く考えずにすくすく育って行こうと思う。
人形を作る合間に『水ノ心得』についても色々と実験したところ、造形物を作品として記憶出来るようなので、水に戻ってまたゼロから作っても造形速度は上がるはず。その練習もしていこう。
(おい)
(何? ヴェルニカ)
(いつまでも名を呼べぬのも味気無い。ここはひとつ、我がお前に名を授けてやろう!)
僕は本当にヴェルニカに気に入られているらしい。
名付けて貰えば、事実上ヴェルニカの子供のようになれるのかもしれないと思ったが、ただ目の前で生まれたってだけの僕が、そんなことしていいんだろうか。
(いらないよ)
(そうだろう、実はずっと考え──ん!? おい待て今、いらぬと言ったのか!?)
(ああ、僕にはいいよ)
(何故だ。名無しの魔物が名付けを拒む理由はなかろう!)
(いやでも)
(人間の名があるのか? しかし、前世の名はこの世では意味を持たんぞ)
(それはそうだろうけど)
(我に名付けられるのが嫌か。我の何が不満だと言うのだ!)
(なんか痴話喧嘩みたいだな……嫌なわけじゃないよ、でもマナがなくなったらヴェルニカは……やっぱりいいや)
(それが何故と聞いている)
(なるべく長く一緒にいたいの!!)
(ぬっ!・・・うぬぅ・・・)
前に聞いたけど、長い封印でよわってるらしい。
百年もしたらマナがなくなって一度死んで、記憶やらなんやらを失うけどまた世界のどこかで真竜として生まれ変わるんだって。
僕も死んだらそうらしいのだけど、転生してから孤独にならずにすんでいるのはヴェルニカのおかげだし、少しでも一緒に居たい気持ちが強く出てしまった。
ステータス
名前:
種族:小水龍
称号:なし
魔法:なし
ヴァリアントスキル:『護心竜水』 『水ノ心得』
エクストラスキル:『身体変化』『マナ感知』『水脈感知』
コモンスキル:『念話』『浮遊』
耐性:炎熱耐性、毒耐性