12話 紡ぐ人
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俺が巨鬼を『解析』したことで、死骸の内側にミヤさんが閉じ込められている事がわかり、『接続者』で解呪方法を見つけ、『神創精錬』にて巨鬼を素材に作った人形型の依代に呪いを移すことで、ミヤさんは呪いから解放することが出来た。
だが、あれから一週間経ってもミヤさんが目覚めない。
「ルカ」
ミヤさんを寝かせたベッドの傍に、ルカが浮かない顔で座っている。あれからルカはずっと昼も夜も付きっきりで、ミヤさんの介抱を続けていた。
クライ達はあの戦いで火傷やら打撲やらを負ったが、俺の回復薬が効果を発揮した。すぐに目を覚ましたし、怪我も体力もすっかり全快したようだ。三人とも、心配そうに体調を尋ねてくるルカの美少女ぶりにビビって大慌てしていたな。
「まだ気にしてるのか? お前は何も悪くないだろ」
「……」
どうやらルカは、オーガ達の攻撃から三人組を守り切れず怪我をさせてしまったことを、自分の力不足だと、ミヤさんに申し訳ないと思っているようだった。
俺からすればルカは充分に働いた。ルカがいなければ巨鬼やオーガの黒炎攻撃にあそこまで抵抗することは出来ず、今より大惨事になっていたに違いないのだ。
「お前はちゃんとあの三人を守ったよ。よくやってくれたって、ミヤさんも言ってくれるさ」
「……違う、それは……僕がいてもいなくても…………」
余程ショックが大きかったようだ。前世が人間だからだろうか、いや元々の性格によるものか。魔物に生まれ変わった今でも、ルカは戦いには向いていないのかもしれないな。
「…………スライムさん」
か細い声が俺を呼んだ。
良かった、ミヤさん。気が付いたのか。
「君は……ルカさん……?」
「……うん。ルカだよ」
「驚いた……あんまり綺麗だから」
ふふ、と零れる柔らかい笑み。
ちゃんとミヤさんだった。
「二人とも……ありがとう。私はまたこの手で……大切な人を殺してしまうところだった……」
ミヤさんは弱々しい声で、これまでのことを語ってくれた。
辿異種と言われるこの世界の強者の一体に召喚され、巨鬼を憑依させられ、友達を殺めてしまい……勇者と出会って一緒に旅をしたこと。その人もどこかへ行ってしまったこと。それから人々を助けたいと、強くなろうと決意して、無辜の人々へ圧政をする欲深い王を誅していると、いつしか妖術師と呼ばれるようになり、それでも他人の為に何十年も頑張って……冒険者を引退した後は、学校の先生として異世界人の子供達を指導したこと。
長い時を生きるにつれて巨鬼の制御が難しくなり、ミヤさんは最後の旅に出た。自分をこの世界へ召喚した辿異種を探すために。そしてミヤさんは三人組と出会い、俺達と出会ったのだ。
「ねぇスライムさん、本当の名前は何ていうの?」
「俺はレイ……いや、そうだな……俺は亮太。田村良太だよ」
「ルカさん……君は?」
「覚えてないんだ、名前……」
「そう、可哀想に……私は、雅……坂崎雅」
ミヤさん──雅さんは、お願いがあると言った。
俺に、この身を存在ごと消して欲しいと。
「この世界が嫌い……でも憎めない。まるであの魔物のよう……だからこの世界に取り込まれたく、ない……」
「ミヤさん……! 僕は……」
「本当に優しい子……いいんだよ、君は君の人生を、幸せに過ごして……」
言葉を詰まらせながら、ルカがミヤさんの枕元に縋り付く。
心の内を声に乗せられずにいるようなルカに、ミヤさんは全てわかっていると言いたげな笑みを湛え、細い手でルカの頭をそっと撫でた。
「優しい君が傷付きませんように……若くして命を落とした君が、幸せになれますように」
ルカの瞳から零れた涙が、頬を伝う。転生して変化した身体だろうと、そこに宿る感情が本物であるならば、人間だった頃の反応を心が覚えていても不思議はなかった。
そしてミヤさんは俺へと視線を向ける。
「お願い……私を、君が見せてくれた故郷の景色の中で……眠らせてくれないかな……?」
「……いいよ」
叶えてやりたい。それが彼女の望んだ最期なら。
ミヤさんは涙を流し微笑んだ。
レイ=エメラルドの名において、約束しよう。
心残りである教え子達のことも、そして辿異種グラン・ヴェルヴィスのことも。
ミヤさんの思いを、必ず俺が受け継ぐと約束しよう。
ありがとう、と小さく呟き、ミヤさんは眠りに就いた。
ヴァリアントスキル『神創精錬』と『思念転写』を発動させる。
安らかに眠れ、俺の宿命の人。
永遠に覚めることなく幸せな夢を見られるように────
「そうか、ミヤさん……逝っちまったのか」
「お別れくらい言いたかったな……」
クライ、エルヴィス、サラには申し訳ないことをした。
仲間のこいつらに断りもなく、ミヤさんを送ってしまったからな。思うところもあるだろうに、三人はそれがミヤさんの望みだったのならと言ってくれた。
それから、あの時は誰それの所為で危なかっただの、そこでミヤさんが助けてくれてだの、三人は口喧しくケンカしながら騒ぎ出す。
まったく、ミヤさんが心配するのも頷ける危なっかしさだが…………
「ミヤさん、ありがとうございました!」
ミヤさんを『解析』して手に入れた『擬態』を用いて、ミヤさんによく似た顔立ちの子供姿となった俺に、クライ達が一斉に頭を下げた。急な別れでミヤさんに伝えることが出来なかった感謝と決意が、口々に告げられる。
「俺、あなたに心配されないようなリーダーになります!」
「あなたと冒険出来たこと、生涯の宝にしやす!」
「お姉ちゃんみたいって、思ってました……!」
涙を浮かべて俺に抱き付くエルヴィスの頭を撫でてやる。
四人が一緒に旅をしたのは、ほんの短い間の出来事だったのだろうけれど。
こいつらがミヤさんの最後の仲間で、本当に良かった。
「レイの旦那には世話になっちまったな。ここのことは、悪いようには報告しないぜ」
「旦那も何か困ったことがあったら、頼ってくれていいでやんすよ」
「ああ、そうさせて貰うよ」
町を発つ三人には餞別として、タムタム達の作った防具を贈ってやった。今までの装備はオーガとの戦いでボロボロになってしまったようだしな。
タムタムや小人三兄弟と言えば、クライ達でも知っている有名な鍛冶職人だったらしく、想像以上に大喜びされることとなった。いい土産になったと思う。
静かな風の吹く見晴らしの良い丘に、ミヤさんの墓を建てた。
亡骸はないが、墓標代わりの石積みの前にルカの摘んできた花を添え、手を合わせる。
「ルカ、俺は必ずグラン・ヴェルヴィスとかいう野郎へミヤさんの借りを返す。その時は一緒に来るか?」
「うん。僕も行くよ」
「よく言った。じゃあお前も元気出せ、いつまでもメソメソしてるとミヤさんが悲しむぞ」
不意を打たれたように、青玉の瞳が瞬く。
ここ数日ルカは大人しかった。塞ぎ込んでいたわけではなかったが、ミヤさんの死が堪えたのだろう。せっかく会えた同郷の人でもあるし、ルカはだいぶミヤさんを慕っていたようだし。
「そうだね……うん……ミヤさん、優しいもん」
ああ、優しい人だった。
最期まで教え子達やルカの未来を案じ幸せを願う、高潔な人だった。
俺達はミヤさんを忘れない。悲しむのはここまでにして、その思いを受け継いで生きていこう。
凝り固まった余計な力を解すかのような溜息の後、ルカの口元が緩む。
「レイ、僕もっと頑張るよ」
「おう、頑張れよ!」
何を頑張る気かは知らないが、元気でいてくれるならそれでいい。
お前のことは、きっと俺が守ってやるから。
名前:レイ=エメラルド
種族:スライム
加護:黒緑竜の加護
称号:転生者
魔法:氷雪魔法
ヴァリアントスキル:『神創精錬』 『接続者』『微小万象改変』
エクストラスキル:『マナ感知』『マナ操作』『収納』『解析』『模倣』『水操作』『黒炎妖術』『擬態』『思念転写』
コモンスキル:『念話』『熱源感知』『毒素生成』『麻痺毒生成』『威圧』『統率』
耐性:炎熱完全無効、毒無効、痛覚無効、出血無効




