09話 小人の国
◇
コグルドを改めて村長に任命し、上手く村を治めるようにと丸投げすることにした。
いや丸投げというのは言葉が悪いな。俺が取り仕切るのではなく、コボルトや狼達だけでも上手く自立してやっていけるよう、細かい口を出さないという方針なのだ。
警備班や食糧調達班はそれなりに機能しているが、建築関係になると、コボルト達では技術が足りないようだった。衣服、道具類の製作に関しても同様だ。
頑張って掘っ立て小屋。得意なのは穴掘り。
ルカが自分の出番を期待したのかソワソワとしていたが、だからそれじゃダメなんだっての。誰もルカを真似出来ないのだから、村としての進歩が見込めないのは困る。
現在自分達だけではどうにもならないなら、外部からの供給方法を探さなければ……ということで、コボルト達から得た情報により、大河沿いにあるという小人の国へ取引に行くことにした。
なんとそこは小人達の王国で、知力王の治める武装国家として有名らしい。この世界でもやはり小人と言えばモノ作りが達者であるらしく、ワクワクが止まらない。取引を成功させ、最低でも物資調達……欲を言えば、技術指導者を連れて来られたら最高なんだがな。
人間になれるルカを連れて行くかどうか悩んだ末、今回は留守番してもらうことにした。
あの整った容姿では確実になにか面倒事が起きるのは確実だ。
交渉相手は小人だし、以前コボルト達でも取引が出来ていたと言っていたから、人間の姿である必要は薄いと思ってのことだ。
「小人の国へは俺が直接行ってくる。ルカは村に残っていてくれ」
「ん・・・わかった」
ルカだって小人に会ってみたいだろうに、悪いことしたかなと思わなくもない。だがまずは安全性を確かめてからだ。小人の国とはいえ、人間も多く集まるという大国。俺のようなスライムでも自由に街中を歩けるのか、魔物に対する差別や偏見はないか。
先に俺が行ってみてそこらへんを判断しないことにはルカを連れて行くわけにはいかない。別に過保護じゃないよ? 兄として気を配るべき当然のことだ。
「コグルド。俺のいない間、ルカのことを頼んだぞ」
「はっ! お任せ下さい、この命に代えましてもルカ様をお守り致します!」
出発の用意をしてくれているコグルドに言付けると、ムッキムキの筋肉を誇張しながら返事が来た。
いやそこまでは……というか正直、ルカの方が強いだろう。あの自由自在の水相手では、並の魔物がルカに立ち向かえるわけがない。
「まあその、ルカはまだ子供だからな。一人で張り切り過ぎてしまうところがあるんだ。無理をされたくはないし、それとなくルカを気遣って休ませてやってくれ」
「そうですな……我らが不甲斐ないばかりに、お優しいルカ様の御手を煩わせてしまい、情けない限りです。ルカ様に頼るばかりにならぬよう、我ら一同、精一杯励ませて頂きますぞ!」
「ああ、くれぐれも頼む」
だから、別に俺は過保護じゃないって。
◇
レイが小人の国へ行くことになった。
僕も行きたかったけど、物珍しさに捕まったりすると、危ないし……でも色んな種族に会えるらしいけど……うーん、まあ留守番役も必要かな。一応レイと二人で村の守護者ってことになってるのに、両方ともいなくなるのは無責任な感じがする。
「小人の国へは俺が直接行ってくる。ルカは村に残っていてくれ」
「わかった」
「危ないことはするなよ? もし敵が襲ってきたらこの前俺がやったようにして……話し合いも無理でいきなり攻撃してくるようならこっちも問答無用でいいからな、手加減無しで」
「大丈夫、大丈夫だから」
心配性すぎる。レイってこんな心配性じゃなかったような……?
トラブルなんて起こらないだろうから、手伝いでもしながらのんびり過ごそう。
「お気を付けて、行ってらっしゃいませー!」
「お早いお戻りをー!」
小人の国へ行くメンバーはレイと、コグルと他に数人のハイコボルト。そしてギンガを始めとしたテンペストウルフ達が、皆を乗せて走る役目だ。
皆の出発を見送って、居残り組は村の立て直し作業に戻る。
レイが技術者を連れてこれるかはわからない。コボルト村の家は元々粗末な作りで、進化で皆が一斉に成長したこともあり、本当に家が足りない。多くのコボルトは外で寝る事態になっていて、ペアの狼と一緒に寝るから温かいし進化して体力ついたって言われても、それはちょっと……僕とレイが優先的に建物を宛がわれているので更に辛い。
「家はまだ建てられなくても、寝る場所くらいはあった方がいいんじゃない? 簡易的なテントなら、こういう……支柱をクロスさせて……上にこう、梁を渡して……こんな感じにしてさ」
言いながら水を出し、イメージを固めて変質させながらその場に骨組みを作り上げた。
僕ってすごく便利な気がする。この程度の構造なら、あっという間に水で成形してみせることが出来るんだから。リアル3Dプリンターと呼んでくれてもよいぞ。
「なるほど、この骨組みの上から干し藁を掛け、中を寝床とすれば良いのですな」
「これなら作業は早く進められるんじゃないかな? 骨組みだけでも僕が適当にどんどん……」
「いいえ、これ以上ルカ様を煩わせるわけには参りません! 後は我らが引き受けますので、どうかルカ様はお休み下さいませ!」
「あ……ああ、うん」
これ以上って言うか、僕まだほとんど何もしてない……
ってそうだった、仕事を奪っちゃダメなんだっけな。レイに言われたことを思い出す。なのでコグルドの言う通りテント設営は任せて、僕は他で手伝いをすることにした。
「あの……」
「狩りの最中にルカ様に危険があってはいけません。どうぞ村でお寛ぎください」
「僕も……」
「まあ、ルカ様にお手伝い頂くなど恐れ多いことです。あ、木の実をお一つ如何ですか?」
おかしいな。どこへ行っても仕事が貰えないぞ?
テント作りもダメ、狩猟参加もダメ、果物採集もダメ? 何ならいいんだ?
無理を言って困らせるわけにもいかないし……孤独感すごい。いや別にハブられているわけじゃなく、声を掛ければ嬉しそうにしてくれるし、作業の進捗報告もきちんとしてくれる。
皆は本当に、僕に仕事をさせるなんてとんでもない! という考えらしい。
仕方がないので、僕は村や近場の見回りをしながら過ごしている。
ペアを持っていない狼達に頼んで、日替わりで背中に乗せてもらう。同じ狼にばかり頼むと他の狼がしょんぼりするので……皆しっぽフリフリでOKしてくれるのが可愛い。
村の外ではスキル練習もした。『護心竜水』で大縄跳びを作り、狼達に跳ばせるという芸を仕込むことに成功して満足だ。遊んでいただけとは言っちゃいけない。
レイ達が旅立って一週間ほど経った。
今日は『マナ操作』をレベルアップさせるべく、建屋の中で瞑想中。体の中のぽかぽかを色んな場所は行ったり来たりしてみる。気持ち早く移動できてると思うけど、未だ目に見える成果はない……大体の練習が終わった辺りで、外から声が掛かった。
「ルカ様。少々よろしいですか?」
「コグルド? どうしたの?」
「他集落のコボルトの族長達が、面会を求めてきております」
現れたコグルドの話を聞くと、あっ他にも村あったんだと思った。
森の各地からコボルト村の長達が来て、レイの部下にして欲しいと言って来た。
「レイ様がご不在の今、ルカ様にお伺いを立てねばなりませんからな」
「え、僕に? 村長はコグルドだよね?」
「我らの主は、レイ様とルカ様でございます」
またそれだ……そこ気になってたんだよな。
この際だから、はっきりさせてしまおう。
「コグルド、確かに僕も村の守護者なんだろうけど、皆の主はレイだけで充分だよ。そこまで僕を持ち上げなくていい。僕をレイと同一視してると、後で問題になると思うよ」
集団のトップが複数いると混乱するし、実際の話、レイだけでいいんだよ。
僕まで主だって持て囃されていると、いずれそれを良く思わない住人だって出てくるだろう。妹ってだけでデカイ顔しやがって、って煙たがられることになったら僕は泣く自信あるわ……
「とんでもない! ご心配には及びませんぞ」
「え?」
「レイ様に名を頂いたことで、ルカ様がレイ様と同格の御方であることは殊更はっきりと認識出来ております。しかも名付け主たるレイ様より、ルカ様も同等の主として敬うお許しを頂いているのですから、我らはルカ様にも変わらぬ忠誠を捧げる所存でございますぞ!」
「そう…………なんだ?」
そうか、"同格兄妹"っていうのがここで効いてくるのか。
しかもレイに先手を打たれていた。っていうかこれ、こいつ俺の妹だからよろしくなーとわざわざ兄貴に触れ回られてしまった状況では? 僕が本当に反抗期なら危ないところだった。
「あの、でも僕、調子乗るかもしれないし……村にとって良くないかなって……」
「ご冗談を! ルカ様が非常に奥ゆかしい御方であることは、我ら充分に理解しております。ルカ様に限って、そのようなことは起こりますまい」
ダメだこの人達、僕に盲目的なヤツだ。
えーと、レイに代わって、コボルトの村長達に会ってくれっていう話だったよな……うん、まあ、話を聞くくらいなら僕でも出来るか。仕事が無いままでいるのも嫌だし、やってみよう。
「初めまして、僕はルカ=エメラルドです。村の主であるレイ=エメラルドが不在のため、妹の僕がお話を伺います」
別の建物では各コボルト村からやってきた村長達と、そのお付きが待っていた。
僕はそのまま出向き、マナを多めに滲ませながら挨拶をする。
「お、お初にお目に掛かります、偉大なる御方! コグルド殿の治める集落の守護者となられた貴方様方の武勇の数々、聞き及んでおります。この度はどうか、我々を貴方様方の配下に加えて頂きたく、こうして参りました!」
「…………」
目の前に並ぶ四人?四匹?の族長……
多少違いはあるけど、見た目全然違いがわかんないんだよなー・・・
「あ、あの、ルカ様……我らが何か……お気に障ることでも…………」
無言でじっくりとコボルト達の顔を見つめすぎて、気付けば向こうの顔色が悪くなっていた。
まずいまずい。レイがいないんだから、僕がしっかりしてないと。
失礼、と誤魔化して先を促す。
村長達の話は、僕が知っているものと変わりなかった。
ヴェルニカが消えたため、大森林の各地で覇権争いが起き始めたこと。弱小種族であるコボルト達では抵抗も出来ず、蹂躙される道しか残されていないこと。そこへ最近コグルド達の村が強大な守護者の庇護を得て台頭してきたという噂を聞き付け、ぜひその配下に加わりたいということ。
「お話はわかりました」
この族長達も、きっと欠かせない人材となる。
集団の強さを前世から知っているからだ。だからって僕が勝手に決めていい話ではないけど。
「見ての通り、兄のレイはスライムですが、それでもこの村の一員となり僕達に従うことは可能か、お聞きしたい」
更にマナを多く放出させて威圧感を上乗せすると、僕のマナに震え上がり、平身低頭になるコボルト達。
「も、もちろんでございます強き者よ! 我らを下僕とお認め下さった暁には、絶対の忠誠を……!」
「その言葉、お忘れのないように願います。貴方達を受け入れるかどうかの最終的な判断はレイが下しますが、それまではどうぞこの村でお待ちください」
マナを引っ込め威圧を解くと、村長達は脱力し、ホッとした雰囲気になった。進化前のコボルトを脅しすぎかもしれないが、裏切ったら許さないよ? と言っておくことは建前上でも必要だろう。
レイが帰って来るまでお客さん達を手厚くもてなすようにと、コグルドに頼んでおいた。
僕の方針も決まった。
皆が僕のことも主と慕ってくれるならそこはお言葉に甘えるけど、僕は徹底的にレイのサポート役に回ることにして、あまり出しゃばらないように気を付けてやっていこう。
名前:レイ=エメラルド
種族:スライム
加護:黒緑竜の加護
称号:転生者
魔法:なし
ヴァリアントスキル:『神創精錬ライフメーク』 『接続者アーカイブ』
エクストラスキル:『マナ感知』『マナ操作』『収納』『解析』『模倣』『水操作』
コモンスキル:『念話』『熱源感知』『毒素生成』『麻痺毒生成』『威圧』『統率』
耐性:炎熱無効、毒無効、痛覚無効、出血無効




