第2話 鍛冶の子、光魔法を覚える?
前回のあらすじ
ソイル君、前世の記憶を思い出し、【鍛冶】を極めると志す。
「・・・・・・ら・・・・・を・・・んで・・・」
「・・・・ま・・・・・そ・・・・・なこ・・・・」
ソイルの耳に途切れ途切れ、女性らしき声が入ってくる。彼が良く知る女性たちの声。
(この声・・・母上・・・シシリー姉さま・・・?)
彼の意識は急激に覚醒し、目覚める。
「ソイル!!」
「ソイルちゃぁん~~!!」
金髪の女性と明るい茶髪女性の歓喜の声。
ソイルはすぐさま、金髪女性の胸に抱きしめられる。
「ソイル、無事でよかった・・・っ」
金髪女性は、自身の息子の無事を確認し、涙ぐみつつ言う。
この金髪女性はベラドンナ=バロン=トマーディ。トマーディ男爵夫人。
ショートボブのウェービーな金髪、柔和さを表す顔立ち、そこそこ大きい乳房。
部屋着の様な、簡素だが上品そうなドレスを身にまとっている。
今のソイルは八歳でありながら、成人男性の記憶と意識も併せ持っているせいか、自身の状況にただただ赤面し混乱するだけだった。
「は、母上・・・なっ!?」
「ソイルちゃぁ~~ん!!」
どうにか言葉を絞り出そうとするソイルを、もう一人居た少女がベラドンナから引きはがし、自分の胸に抱きしめた。母よりも豊満な胸の中に、ソイルの顔の大半が収まる。
(ちょっと! い、息ができない!?)
必死にもがく彼に構わず、少女は大粒の涙を流して放さない。
「ソイルちゃぁ~~ん、死んじゃだめぇ~~!!」
少女の名は、シシリー=セゴンダイーヒャ=バロン=トマーディ。トマーディ男爵家の次女。
赤み掛かったウェービーな金髪が、およそ胸の高さまで伸びている。
しかしながら、彼女の最も大きな特徴はその乳房。まだ十二歳だというのに、母親よりも大きい。その上、まだ大きくなっているらしいのだから恐ろしい。
「シ、シシリー!? ソイル死んじゃうから放してあげて!」
「あ・・・え!? ご、ごめんねぇ~ソイルちゃぁ~~ん・・・」
シシリーの胸から解放されたソイルは、ゆっくり息を整えた後に言った。
「ごめんなさい、母上、シシリー姉さま。僕がご迷惑をかけたみたいで」
「ううん、いいのよソイル。貴方が無事でよかったわ」
「でもぉ~、五日間もぉ~、寝込んでたんだからぁ~、心配したのよぉ~」
ソイルを気遣うベラドンナとシシリー。しかし、彼はシシリーの言葉に驚愕する。
「いつかかん!? 僕、そんなに寝てたのですか!?」
「そうよぉ~。私、ホントに心配だったんだからぁ~~」
再び泣き出しそうになるシシリーを宥めつつ、ソイルは神託の日から何が起こったのかを二人から訊き出した。
神託を受けた直後、気絶したソイルは、急遽トマーディ邸に搬送されて自室のベッドに寝かされる。彼はそれから三日間、目を覚ますことは無かった。しかし、四日目の早朝、彼が掛布団の上に仰向けで倒れていたのを、看病のため部屋に入った次女が発見し、家族内の心配度が増大。それから二日間は、ソイルの事を病的に好きな二人、ベラドンナかシシリーのいずれかが看病に加わることとなった。
そうして今、彼は神託の日から六日目の朝を、自室のベッドで迎えたのだった。
因みに彼の家族のうち、一番の上の兄と姉だけが、彼を全く見舞っていなかったとの事。両親から一度でも見舞う様に言い聞かされるも、二人はかぶりを振って従うことは無かった。
ソイルにとって、彼ら二人について問題にしていなかった。
(父上が・・・心配してくれている・・・)
父シノニムが気遣ってくれているという事実。それが分かっただけで、ソイルの心は満たされた。
「心配して頂いてありがとうございます、母上、シシリー姉さま。後で他の人にもお礼を言わなくちゃ・・・」
「そうね、ソイル。でも、貴方が元気になることが第一よ」
「それからぁ~、マルツ兄さまとぉ~、ルージュ姉さまはぁ~、無視していいからねぇ~」
辛辣な言葉を吐くシシリーを、母ベラドンナは「こらっ!」と叱る。
それを見て苦笑するソイルの耳に、話し声が聞こえてきた。
「・・・・・・フォイア!」
「・・・うん。その調子です、ルージュ様」
話し声は、すぐ近くの開け放たれた窓から聞こえている様だ。
ソイルは、ゆっくりとベッドから起き上がる。ベラドンナとシシリーから寝ている様に諭されるが、それを手で制して立ち上がり窓の傍へと向かい、窓の外を覗き込む。
すると階下の庭で、魔法の練習をしている姉ルージュの姿があった。他国から来ている家庭教師も一緒だ。
「魔法・・・使ってる・・・」
「ええ。今日はルージュの授業の日よ」
姉ルージュが何やらブツブツ言った後、小さな火の玉が姉の手からゆっくりと飛び、瞬く間に消える。
転生して以来、初めて見た魔法。ソイルの胸は高鳴る。
「母上。ルージュ姉さまの魔法を近くで見たいのですが、いいですか?」
「・・・ソイル、無理しないでいいのよ」
「・・・・・・だめですか?」
彼が気丈に振舞っていると捉えたベラドンナが気遣いの言葉を掛けるが、それでもソイルは魔法を見学したかった。
上目遣いで母をじっと見るソイル。おねだり作戦である。
「~~~~!! 分かったわ! 今すぐ行きましょう!」
「はは・・・うえ・・・ぐるじ・・・」
ソイルの愛くるしさに参ったベラドンナが、彼の首にぎゅっと抱きつく。
自分の振る舞いが愛苦しすぎたせいか、息が苦しくなってしまった。
おねだりするのは控えよう。ソイルは反省した。
「シシリー、貴女はどうする?」
「・・・遠慮しておきますぅ~」
苦しむソイルを開放しつつ、シシリーに問うベラドンナ。
しかしシシリーは、自身の胸を両腕で隠すしぐさをした。
「あのせんせぇ~、わたくしの胸ばっかりぃ~、見てるんですぅ~。何だかぁ~、気持ち悪いですぅ~」
「・・・・・・女性教師を雇おうかしら。でも・・・あれほど優秀な教師はそうそう居ないし・・・」
家庭教師のセクハラ疑惑を聞いて憤るも、頭を抱えるベラドンナ。
彼女は一旦、その件について考えるのを止めた。
後日、夫との相談の際に、議題に挙げようと決めたのだ。
「分かったわ。それじゃソイル、一緒に行きましょう」
「はい、母上」
ベラドンナとソイルは彼の自室から出て、外で待たせていた侍女を伴い、階下へと降りてゆくのだった。
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「・・・ソイル様」
ルージュ達のもとへ向かう道すがら、同行している侍女が口を開いた。
「どうしたの、コリン?」
「本当にお体は、大丈夫なのですか?」
「少しふらつくけど、大丈夫だよ」
「あわわわ・・・奥様、大丈夫なのでしょうか?」
「ごめんなさいね、コリン。ソイルがどうしても魔法を見たい、って言うのよ。ソイルの調子が悪くなったら、部屋に連れて帰ってくれるかしら?」
「は、はいっ! がんばりますっ!」
ベラドンナとソイルの後を歩く、メイド服に身を包む侍女がはきはきと答える。
侍女の名は、コリン。ソイルともう一人の家族につけている小間使いである。
凹凸の少ない、痩せ気味の体型。明るい茶色の髪をシニヨンヘアーにまとめている。
トマーディ邸の侍女として勤め始めて二年。貴族の家に居るせいか緊張するきらいがあり、よく滑って転ぶ。滑り止めを施している床の上であっても、転ぶのだ。
しかしながら、仕事ぶりは拙いながらも勤勉なので周囲の評判は良好。特に家庭料理の腕は、邸内の者の殆どが認める程。
「僕が疲れたら、その時はよろしくね、コリン。あと・・・」
「あと・・・何ですか?」
「お願いだから・・・転ばないようにね」
「何をおっしゃいますか! 心配ご無用であぶっ!」
言うが早いか、コリンは足を滑らせ、ド派手に滑って前のめりに転んでみせた。
鼻を強か打ったのだろう、鼻血が少し出ていた。
「あらあらコリン・・・少し、じっとしていて」
「あのあのっ! これくらい、大丈夫ですからっ!」
「ダメよ。じっとしてて頂戴」
ベラドンナはコリンの鼻の前に右手の人差し指をかざし、何やら唱え始めた。
「偉大なる光の神よ、彼の者の傷を癒し給え──【癒しの滴】」
すると、ベラドンナの指先から仄かな光があふれ出し、コリンの鼻へと吸い込まれて消えてゆく。光が消えた後、ベラドンナは自分のハンカチで、コリンの鼻血をふき取った。
「どう、コリン? 鼻血は出てきそう?」
「い・・・いえ・・・出てきませんっ! すみませんっ! 私のせいでっ!」
「いいのよ。なるべくなら・・・これ以上、転んでほしくないのだけれど」
「・・・・・・がんばります」
何度となく見慣れた光景に、ソイルは苦笑する。
コリンは、一日に何度も転ぶ。それだけ転んで命に別状はないのか、と誰もが訝しむのだが、そんな時は決まってかすり傷程度なのだ。
そして転んだ際に傷ができたなら、母ベラドンナか姉シシリーが、彼女の傷を癒す。
ソイルは小さい頃、彼女たちにコリンの傷を何度も癒して疲れないのか、と聞いた事があった。
しかし返事の内容は、二人とも同じものだった。
──魔法の練習になるから問題ない。
二人ともすごいなぁ、と感動した事をソイルは思い出したのだった。
しかし、しみじみとした彼の脳裏に突如、メッセージが映し出された。
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【鍛冶】が【光魔法0】スキルを創造したぞッ!
【光魔法0】スキルを習得するかッ?
YES/NO
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「・・・・・・・・・・・・はい?」
ソイルは、間の抜けた声を上げる事しかできなかった。
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