第1話 鍛冶の子、志す
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「これからどうする・・・?」
自室のベッドに寝かされた一人の少年が、震えた声で独りごちた。
少年の名はソイル。ソイル=テルセリーコ=バロン=トマーディ。トマーディ男爵家の五人目の子供。
今日執り行われた教会の神託の儀にて、神からスキルを賜ったばかり。
しかし、その受け取ったスキルと想定外の事態のせいで、彼は悩んでいた。
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「──貴方が神より賜りしスキルは・・・・・・は?」
ソイルが目を閉じて言葉を待つ中、神官の間の抜けた声が響いた。
「あの、神父、さま?」
「あ・・・いえ、大丈夫です。あ、貴方が神より賜りしスキルは・・・」
訝しむソイルに向き直り、かくして神父は賜った神託を告げる。
「・・・・・・【鍛冶】・・・です」
礼拝堂内は騒然となった。【鍛冶】というスキルを、場内に居た者の誰もが聞いたことが無かったためである。
ここはエストレ大陸。
大陸の半数以上は手つかずの大地であり、偉大なる祖先が大陸に移住し開拓していったお陰で、ようやく暮らしていける様になった。しかし、まだまだ魔物は生きている。皇国の警備隊の報告によると、魔物は増えているとの情報もある。
だからこそ、この大陸で生きていくためには、力が必要なのだ。戦いに向いた人材が、スキルが。
トマーディ家の三男であるソイルにも、戦闘向きのスキルが授けられるものだと期待されていた・・・が、神から賜ったのは【鍛冶】なる未知のスキル。
武器や防具、果ては鍋などの生活用品といった金属製品を造り出す鍛冶師という職業は存在する。しかし、エストレ大陸内の歴史上、【鍛冶】というスキルを持った者は今までに存在しない。鍛冶とは、あくまで技能の一つとして捉えられているのだ。
時間が経つにつれ、騒めきの中にソイルへの侮辱にも捉えられる声も混じり始める。
「えっ・・・? なん・・・で・・・?」
驚きを隠せないソイル。
この状況を、父なら何とかしてくれる。助けて欲しい。
そう期待したソイルの耳に、父の小さな声が入ってきた。苦しく、うめくような声。
「どうしてこんな・・・神よ・・・」
彼の父シノニムの、珍しく落胆した声に驚いて振り返り、父の姿を探すソイル。
すぐさま見つけた父は頽れていて、表情の程は確かめられない。しかし、全身を震わせていることだけは分かった。きっと、自分に落胆しているのだろう。ソイルはそう思った。
「ちち・・・うえ・・・」
思わず声を張り上げ、泣き出しそうになるソイル。だが、感情の発露は叶わなかった。
彼を、激しい頭痛が襲う。
(あた・・・まが・・・い・・・だい!)
頭痛をこらえるべく、ソイルは両腕で頭を強く抱える。しかし、その行為を嘲笑うかの様に頭痛はさらに酷くなり、彼の頭の中に何かが流れ込んでいた。
(だれ・・・この人・・・? 剣が・・・胸に刺さってる・・・? うぁあぁあぁっ・・・!?)
血を流して倒れている、見知らぬ男。男の左胸からは細長い剣のような物が伸びている。ソイルは何故か、見知らぬはずの男を知っていた。
(この人は・・・うっ・・・)
男について思慮を巡らせようとしたところで、ソイルの意識は闇に沈んだ。
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「どうする・・・?」
頭痛の残渣をこらえつつ、ソイルは考えをまとめ始める。
僕はソイル。ソイル=テルセリーコ=バロン=トマーディ。トマーディ男爵家の三男。
今日は、教会で神様からスキルを賜る大事な日。受け取ったスキル名は【鍛冶】。
周り騒然。父ちゃん愕然。僕は頭痛でばたんきゅー。
目が覚めると、何故か知らないはずの男の記憶が頭にある。
(こんな感じ・・・だけど、ホントなんだろうな、これ・・・?)
ソイルは、自身の思考能力が大幅に上昇している事に、驚きつつも自然と受け入れていた。
戦闘系スキルじゃなかった。周りの様子。父から見放された。
普通の8歳程の子供なら、そんな絶望的な状況に放り込まれたら、錯乱して泣き出すのも無理からぬ話である。
だが、ソイルは錯乱していない。驚愕してはいるが、冷静さを保とうとしている。苦労らしい苦労などしていない子供に求めるには難しい芸当を、今のソイルは実践できている。
かくして彼は回答を導き出す。
(まさか、転生? ってやつなの?)
転生。それはおとぎ話でたまに見るシチュエーション。
ソイルが前世の記憶を取り戻したのか、謎の男の人格がソイルの中に入ったのか、それは分からない。だが実際、ソイルと別の男の記憶と人格、この二つが混じり合っている。
不可解としか思えない結論だが、ソイルの体はこの状態を嬉々として受け入れている様だった。ならば、このまま前に進もう。これ以上考え続けても埒が明かない。
(そうなると・・・まずは自分の力を知るところから始めよう)
ソイルは腕を組み、目を閉じる。
部屋の窓から見えるのは、雲一つない藍色の空。数多の星が瞬く夜の空。だが彼は、今が夜であることにすら気づかずに思案を巡らせる。
(スキルが一つしかもらえないって父上は言ってたけど、僕、何個かスキル持ってる気がするんだよ・・・)
自分の力を知りたい。でも、今の自分には知る術が無い。ならば、自分でスキルを手に入れるしかない。
彼は意を決して下腹部──へその下辺り──に両手を添え、全身の魔力を循環させ始める。
頭のてっぺん、首、肩、胸、腹、足の先へ。今度は再び頭のてっぺんへ。時には両手にも巡らせる。全身に馴染ませる様に、ゆっくりと。
(これのおかげで魔力だけは増えてる・・・気がする。多分だけど)
彼が今行なっている魔力の循環、実は転生の前から続けており、今や癖になっていた。
彼がまだ小さかった頃、侍女が読んで聞かせてくれた本の中に、偉大な魔導士の逸話があった。
──体内の魔力を回せば魔法を覚えられる。上達もする。
要約するとこの様な内容であるが、小さなソイルの心は釘付けになった。
それからも、何度も侍女に同じ本を読んでもらって「魔力の回し方」を覚え、自分なりに何度も実践した結果、魔力が動いたのを彼は感じ取った。
結果が出て喜色満面になった彼は、暇を見つけては自分の魔力を回し続けた。魔力を回し過ぎて何度も気絶したこともある。それでも、魔力を回す癖は止まなかった。
その結果、魔法を未だに覚えられていないが、魔力だけは増えている実感があるのだ。
(僕は見たい、自分を。【鑑定】したいんだ──自分を)
ソイルは自分の頭の中心に感じる「小さな引っ掛かり」に、魔力を送り込む。川の流れで石を動かす様に。
引っ掛かりに集中して魔力を送り続けていると、その引っ掛かりをもう少しで動かせそうな気配を感じた。
(取れそう、かな? なら、ここで一気に──)
ソイルは思い切って、小さな引っ掛かりに収縮させた魔力を叩きつけた。すると引っ掛かりは、元の位置から僅かにずらされると同時に音もなく消え去った。
(よし! 取れ・・・た!?)
安堵したソイルの脳裏に、文字や数字の羅列が浮かび上がった。
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NAME:ソイル=テルセリーコ=バロン=トマーディ
LV:1
LP:10/10
MP:930/1173
STR:1
AGL:1
DEX:1
ARP:117
DEF:2
スキル:
【鍛冶】【自己鑑定】【魔力いじり(小)】
称号:
【トマーディ家の三男坊】
**********
「やった! 見れた!」
ソイル、驚愕。
生まれて初めて自力でスキルを覚えられた事、そして自分の力を知ることができた喜びを、胸の前で手を合わせて歓喜する。
弱い倦怠感が全身を包んでいる。が、これはいつもより魔力を使い過ぎたせいだろう。
(そうか、僕が覚えたのは・・・使ったのは【自己鑑定】ってスキルか)
ソイルは、脳裏に浮かんでいるステイタス──この世界では自分の能力やスキルなどの記述をこう呼んでいる──の一覧を眺め、【自己鑑定】に意識を集中させる。すると、脳裏に映る文字列が【自己鑑定】スキルの詳細に切り替わる。
【自己鑑定】
自分のステイタスを確認できる。
まずは自分を知らなきゃねっ!
前世の自分が遊んでいた、ロール・プレイング・ゲームで見た様な説明文が浮かび上がった。
一部の余計な文章は気にしないことにして、ソイルが【自己鑑定】の説明から意識を外すと、ステイタス一覧だけの表示に戻った。
(まるでゲームの世界だなぁ・・・さて次は、と)
次にソイルが見たのは【鍛冶】スキル。すぐさま意識を集中する。
【鍛冶】
生物以外の万物を創造できる(創造レベル:最低)。
鍛えよッ! 誰よりも高くッ! 強くッ!
全ての頂点に、君はなるッッ!!
(・・・・・・なにこれ?)
絶句するソイル。始めはふざけているとしか思えない後半の文章のせいで思考停止していたが、前半の文に意識を向けると、彼の体は次第に震えだす。
(万物って・・・なんでも作れる? 生き物以外ならなんでも!?)
高揚から来る震えを抑えきれず、ベッドの上で仁王立ちになるソイル。
前世での夢だった「カタナ」を作ろうか、いや鎧でも良い、何なら乗り物だって、いやいやあれも作ってみたいし・・・と、彼の妄想は膨らんでゆく。
が、にわかにソイルの妄想と体の震えが止まる。
「・・・極めよう。鍛冶を」
天を仰いでソイルは言う。その声には力が籠っていた。
彼は、自分の前世を少しずつ思い出していた。
ニホンという国に住んでいた平民。大学を卒業後、一般企業に就職するも、ふと通りかかった刀剣の展覧会で刀に魅せられ、勤続三年で退職。その後、高名な刀鍛冶師に弟子入りし十年修行し、フライパンなどの調理器具は打たせてくれたが、刀だけはどれだけ頼んでも打たせてもらえなかった。お前は不器用だから諦めろ、と口癖の様に告げてきた髭面の師匠の顔が思い浮かぶ。
「諦めないよ、僕は」
師匠の言葉を、彼は否定する。
ふと沸いた「前世の男」の記憶は、「現世のソイル」の大半を塗りつぶしてしまったのだろう。しかし、「現世のソイル」は「前世の男」を拒否しなかった。少なくとも、今のソイルにはそう感じられた。
今は、弱い自分を強くする。その中で、前世の夢を叶えてゆく。周りから奇異な目で見られた【鍛冶】スキルを使って。
成り上がってみせる。ソイルは今、決めた。
「・・・鍛冶る者は・・・救われるんだぁ────────!?!!?」
ベッドの上で、ソイルは大声で宣言する。
ソイルは気付いていなかった。
この世界において、スキルを起動させている間は精神力が少しずつ減ってゆく。そして、精神力がゼロになると気絶してしまう。
彼は【自己鑑定】をずっと起動させていた。スキルを解除しない限り、精神力は減ってゆく。だが、現世のゲーム感覚で居たソイルに、その様な常識は欠けていた。
つまり、彼の精神力は今、枯渇したのだ。するとどうなるか。
ソイルの全身を瞬く間に、急激な眩暈と喪失感が襲う。
彼はそのまま意識を失い、次に目を覚ましたのは二日後の朝だった。
最後までお読み頂き、ありがとうございます!
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