囁きと対峙
ちょっと完成が遅くなっちゃいました。すいません。
今回はちょとしたこれからの伏線と、激突の回です。
これからドンドンシリアスになっていく予定です。
まぁ、前書きはこの程度で本編どうぞ〜!
?????
黒
周りは黒く染まっている
夜以上に暗い
そこにポツンとトシキが立っていた。
黒いだけで何もない世界
ーこえるー
ー私の声が聞こえる?ー
黒の世界に突如声が響く
「声?」
周りをトシキは見回した
見回すが周りは暗く何も見えない
ー旧世界に滅びが近づいてるー
「滅び…?」
聞こえた声に聞き返した
ーきをつけて 防げるのはあなたたちだけ きをつけてー
「防ぐ?オレたちだけ?」
頭がまわらない
考えようともせず
ただ暗闇の先を見るように立ち尽くしていた
ーきをつけてー
・・・・・
旧世界 トシキの部屋
「はっ…!?」
ガバッとベッドから起き上がった。
「…夢?」
全身に何故か汗をかいていた。
まだそこまで暑くないはずなのに。
「夢…なのか?」
妙な夢を見た。
黒い世界に1人でいて、何処からか聞こえてくる声を聞いた。
それだけなのに、何故か体が汗をかいていた。
「…旧世界に滅び?防げるのはオレ達だけ?」
夢で聞いた事を言葉にだした。
「…何で夢をこんなに鮮明に覚えてるんだ?それに、あなたたち?」
夢はいつも悪い夢でも忘れるはずなのに、鮮明に覚えている。
どんな声をしていたか。
どんな状態だったか。
はっきりと覚えている。
「女の人の声…、暗くて寒いばしょだったけど居心地は悪くなかった。」
あの場で頭が回らなかったのは何でだろう、あの声の主は誰?
「…ってか、あれは夢なのか?」
夢なのに、寒さを感じたのを覚えていた。
「夢じゃなきゃなんなんだ?オレを知ってる誰かのせいなのか?」
夢では“あなたたち”と言っていた。
あの暗闇の場にはトシキ以外誰もいなかった。居ても暗すぎて気づけなかった。
それに、“旧世界”“あなたたち”という声。“あなたたち”はトシキと神楽たちの事か?
だから、自分に発せられた声と判断した。
「なんなんだ一体…」
情報が少なすぎる。
イラつきながら、髪をクシャクシャっとして立ち上がり、部屋から出ていった。
・・・・・・・・・
旧世界 空き地
いつも通り、神楽、霊紗、トシキの3人は空き地に集まっていた。
神楽と霊紗は一緒に魔法の練習をしている。
「トシキー!どうかしたのー?」
神楽がトシキに手を振りながら呼んだ。
「ん?いや、何もないよ。」
そこらに転がっていた岩から降りて神楽たちの方にいった。
「私たち昨日は何の役にたてなかったから、練習を効率よくしようと思ってるんだけど、何かいい案はある?」
昨日はアイギスが現れ、神楽と霊紗は一撃で倒され気を失っていた。目が覚めたときには、戦いは終わっており、トシキがぼろぼろになりながらも2人の目が覚めるのを待っていた。
神楽は帰り道に悔しそうにしていた。霊紗は顔には出さないが内心悔しかったに違いない。
2人は強くなりたくてトシキにいい案を聞こうとした。
「…模擬戦するか。」
トシキは模擬戦を提案した。
「模擬戦?何で??」
神楽がトシキの発言に驚いた。霊紗は黙ってトシキを見つめていた。この案の理由を言うのを待つ。
「…模擬戦で自分達の弱点を見つけて克服する。実戦に慣れるってのもあるけどね。」
霊紗の思った通り、トシキは理由を話した。
「…ホントは基礎からしっかり固めたいんだけど、身近にいい先生がいないから、どうしようもないし。自分の弱点を知ることは戦いで大事なことだとおもう。」
「…そうね。」
霊紗は頷いた。
「2人がいいなら私もいいよ。」
神楽も頷いた。
「じゃあ、どうする?また前みたいに2対1でやる?」
「あぁ、そうする。オレの弱点は目星がついてる。だから、キツイ状況じゃなきゃ意味がない。」
そう言って、霊紗の案に賛成した。
「トシキがいいならいいけど…」
不安そうにしながら神楽は言った。
「パートナーがいるときの戦い方に慣れるのも大事だよ?」
トシキは苦笑した。
「…そうだね、そうする!」
神楽が頷いた。
「じゃあ、前と同じで模擬戦やろう!」
・・・・・・・・・・・・
魔法世界 洞窟入り口付近
アイギスは洞窟の入り口付近にちょこんとある大きな石の上に座っていた。
昨日聞いた言葉に心を揺らしていた。
ミゲルを殺したのは、トシキではなくヴァニタスだったこと。自分も殺されると思い逃走したドルチェ。
今までは人間に何を言われても何ともおもっていなかった。
だが、トシキに言われた事はアイギスに重くのし掛かった。
アイギスは、生まれて200年初めて人の温かさを感じた。
それに悪い気は全く起きなかった。
そのためか、人の暖かさを知りトシキの言葉が頭から離れない。
「…私はどうしたいんだ?」
空に手を伸ばしながら呟いた。
今いる組織には暇潰し程度の考えではいり、任務の邪魔になるのなら人でも魔物でも殺してきた。
「私は今のままでいいのかな…」
今までの行動を省み始めるのに気づいた。
「…考えるのはやめた!私は私らしく答えを出す!!」
考えるのが煩わしくなり、立ち上がり洞窟内へと走っていった。
・・・・・・・・・・・・・・・
旧世界 空き地
トシキと向かい合うように神楽と霊紗が立っていた。
3人とも戦闘体勢で向かい合っている。
「準備は?」
「いいよ。」
「私も大丈夫」
トシキが聞いて、神楽と霊紗が答えた。
「よし、じゃあ」
「始め!!」
一拍置いてトシキが合図を出した。
合図のあとすぐに霊紗とトシキが動いた。
トシキは2人に向かって走り出した。霊紗は一歩前に出て、トシキに魔符を数枚投げつけた。
自分に向かってくる魔符を魔法の矢で撃ち落とし、2人の頭上を飛び越えた。
「上!」
神楽が自分達の頭上にいるトシキに向けて水の魔法を使った。
「アクアスパイラル!!」
水が捻れながらトシキに向かう。
「ライトニングエッジ!!」
アクアスパイラルの周りを伝いながら小さいが無数の雷が神楽に向かった。
ライトニングエッジの反動を上手く使い、アクアスパイラルを避け2人の後ろに位置どった。
「そこ!!」
霊紗が着地したトシキにタイミングを合わせて魔符を放った。
「くっ…」
ギリギリで先に地面に着いた右足で横にかわして、左足で霊紗に向かって跳んだ。
「…っ!?」
霊紗はトシキのフットワークに驚きつつ、自分の周りに魔符を展開させた。魔符の防御陣である。
魔法の矢を手に集中させ、防御陣に向かって殴り付けた。
「キャアァ!」
防御陣が壊され衝撃で霊紗は後ろに吹き飛んだ。
「!」
神楽は何とかトシキと距離を開けようと後ろに跳んだ。
が、トシキのが早く距離を詰めていた。
スピードは3人の中でトシキがずば抜けていた。
そのせいで2人は魔法を唱える時間も距離を取るのにも後手に回っていた。
「ふっ!」
トシキが右手で神楽の杖をはたき落として、スッと右手を引っ込め、右足を神楽の方に踏み込んだ。
「はっ!!」
右肘で神楽の腹を突いた。
その右肘にも魔法の矢が乗っていて、神楽は吹き飛んだ。
吹き飛んだ後に、トシキの足元にトシキを囲むように魔符が地面に刺さった。
「しまった…!」
魔符を見た時には遅く、魔符は発動し光があがっていた。
光があがった瞬間に爆発がトシキを襲った。
「ん。」
霊紗が神楽を起こすのを手伝い、神楽は立ち上がった。
「あれは?」
「捕縛兼ダメージの魔符陣。」
爆発が起こった場所は土煙があがっている。
「…あれ大丈夫なの?」
神楽が不安そうに聞いた。
「ちょっとやり過ぎたかもね…」
霊紗が苦笑した。
土煙が風で薄くなっていく。
「…全然たいしたこと無いみたいね。」
霊紗が半ば呆れながら言った。
「あれでもまだ勝てない人がいるとかヤバくない…?」
神楽は苦笑した。
土煙が無くなりトシキの姿が見えてきて2人は言った。
トシキは爆発した箇所の真ん中(つまり動いていない)で、両腕を顔の前で交差しながら立っていた。
無傷で。
「土煙の中相手に追い討ちをかけないのは良いことだけど、土煙が無くなった後がダメ。」
トシキは2人の間に向けて右手を出した。
「風塵雷!!」
塵状の風を纏った雷が神楽達に向かった。
が、当たる前で上に進路を変え空に向かっていった。
「呪文を唱えるスキを与えたら、自分達がやられるよ。せめて、何か呪文を唱えとかないと。」
「…わかった。」 「うん」
神楽と霊紗が頷いた。
「でも、魔法の使い方は良かったよ。空中であまり動けない相手に向けての魔法。それに、捕縛陣の威力も。」
「あんたの障壁は破れなかったけどね。」
霊紗が皮肉っぽくいった。
「破られかけたから障壁を全力全開にしたんだよ。」
トシキが苦笑した。
「神楽は判断力。見てからじゃ間に合わない時が絶対にこれからくる。でも、それを補うのにトリッキーな魔法の使い方と、召喚魔法がある。今回は使ってなかったけどね。」
まず、さっきの戦闘での神楽の改善点をあげた。
実際、初めの合図の時に2人から出遅れていたし、見てから行動するのが遅い。瞬時の判断力がなければ強い魔物と戦うときに苦戦はないし、やられる可能性がでてくる。
「霊紗の場合、動きは悪くないけど魔符に頼りすぎな面がある。魔符が尽きた時と、至近距離に詰められた時が厳しいと思う。元から中〜遠距離のスタイルだからしょうがないっちゃしょうがないけど。
魔符と魔法両方使えば相手に距離を詰められる事も減って、安全に戦いやすくなると思う。」
霊紗は今までほとんど魔符しか使ってなくて、呪文をあまり唱えていなかった。
「…あれだけで改善点と改善方法を思いつくとか、ハンパない思考力してるわね。」
霊紗が感心しながらいった。
「人の改善点は見つけてるけど、あんた自身のは何よ?」
霊紗が逆に聞いた。
「オレは本気で戦わないことだよ。どこか無意識に手を抜いて戦ってピンチになり自滅する。
アイギスと戦ってわかった。
」
「…それで2対1なわけね。」
霊紗が納得して頷いた。
「そういうこと!」
トシキも頷いた。
「え?どういうこと?」
2人が頷いた事に戸惑いながら神楽が聞いた。
「2対1にしたのは、オレの状況をキツくするためだよ。数が多い方が力を出さなきゃやられるからね。常に本気が無理でも本気に近い状態にならなきゃこれから先戦っていけない…」
「あー…なるほどね。」
神楽も納得したように頷いた。
これから先、戦って勝つために力を出し惜しみなんてしてたら負ける。それをアイギスと戦って知った。力の出し惜しみが“無意識”でも。
だから、自分に不利な状況を作り、勝つために力を出す。そうすることで自分の本気の力を知ろうとしたためだった。
「どうするの?もう一回いっとく?」
霊紗がトシキにきいた。
「あぁ、いっとくか!」
トシキは頷いた。
神楽と霊紗も頷いた。
・・・・・・・・・・・・・・・
魔法世界 洞窟内
アイギスはマゼランの部屋の前にいた。隣には背の高いフードを被った仲間が1人いる。
「本気でいくのかい?旧世界へ。」
「うん、私は私なりの答えの出し方がしたいだけ。そのためには旧世界でアイツに会わないといけない!」
そう言って、ドアに手をかけて開けた。
部屋には入ってすぐ奥に、机と椅子がありマゼランが座っている。机の上のロウソクが暗い部屋を照らしている。
部屋には机と椅子、本棚が3つあるだけだった。
「…何のようだ?アイギス」
マゼランが座ったままアイギスに問いかけた。
「旧世界に行きたい。」
多くを語らず簡単に言った。
「…良いだろう、行ってこい。よい結果を期待している。」
それだけいって、手を前に出した。
その瞬間、机とアイギス達の間にねじれが出現した。
「お前も行くのか?クロエ」
アイギスの隣に立っているフードを被った仲間にマゼランがきいた。
「あぁ、アイツと一対一の状況を作るためにね。」
やれやれ、というかんじを手で表現した。
「…そうか、行ってこい。」
マゼランは頷いた。クロエと呼ばれる仲間も頷いた。
「じゃあ、行ってくる!!」
そう言って、アイギスはねじれに入っていった。
「…アイギスが裏切るかもよ?」
「…」
「…黙りかい、まぁいいよ。言っといたからな!!」
そう言って、クロエもねじれに入っていった。
「やはりアイギスは裏切るか。だが、アイギスにはその方がいいかもしれんな。」
マゼランはロウソクを見つめて机に両肘をつき、顔の前で手を組んだ。
・・・・・・・・・・・・・・・
旧世界 空き地
トシキ達は空き地にバラバラに座っていた。
今まで弱点発見と克服のための模擬戦をしていた。トシキが圧倒したり、神楽がウンディーネを召喚してトシキを追い詰めたり、霊紗が神楽を上手く操ってトシキをボコボコにしたり、と勝敗は完全にバラバラだった。
そして、3人の中で一番強いのがトシキ、次に霊紗、最後に神楽という順番になった。
トシキは魔力と速さがずば抜けているのに加え、戦闘スタイルを今の時点で、力重視、速さ重視に切り替えることができる。
相手に合わせて、スタイルを変えれるため、贔屓目に見なくても結果は変わらないだろう。
霊紗は、技術と経験がずば抜けており、その2つが他を補っている。それに、魔符を使うため魔力消費を抑えられる。トシキと霊紗は、判断力・思考力がともに高いため、強敵とでも渡り合える。
神楽は、3人の中で唯一の治癒魔法と召喚魔法を使える。基本魔法もそこそこ使えるため、呪文が詠唱できれば格下相手に負けることはないだろう。
中でも、召喚魔法の存在は大きい。召喚魔法を使える魔法使いが少ないこともあり、精霊や、魔物を召喚することは戦局をひっくり返す可能性を秘めている。
全体的に見ると、近〜中距離がトシキで1人(ウンディーネを含めると2人)、中〜遠距離が霊紗で1人、遠距離が神楽で1人、とバランスは良いが、火力不足と守備力不足が目につく。
「トシキ?」
神楽がさっきからボーッとしているトシキに聞いた。
「ん?」
名前を呼ばれたため神楽をみた。
「どうかした?」
心配そうに近寄ってきた。
「…どうせ、ろくなこと考えてないわよ。」
霊紗も近寄ってきていた。
「ひどい言われようだ…」
ちょっと泣きそうになる。
「で?ここにいつまでいるの?」
神楽が聞いた。
「もーちょい。たぶんもーすぐ来る。」
そう言って、空を見上げた。
「もーすぐ来る?誰が?」
トシキの言葉の意味がわからず神楽が聞き返した。
「…!来た!!」
トシキは急に立ち上がりグローブをはめた。
「…ったく、仲間連れてきたわね。今度は」
霊紗が隣に立って知らせた。
「あぁ、仲間の方頼める?」
「…えぇ、頼まれてあげるわ。神楽!私達で1人倒すわよ!!」
そう言った瞬間に、霊紗にフードを被ったクロエが襲いかかった。
「誰をあんた達が倒すって?」
フードが自然にとれてクロエの顔がさらされた。
まだ、あどけない感じが残るが凛々しい顔つきをしており、黒い澄んだ瞳が楽しそうに霊紗を捉えている。
「アンタを倒すのよ、2人で!」
霊紗が球状の光を周りに展開して言った。
「神楽!行くわよ!!」
霊紗が神楽に言った。
「う、うん!」
慌てながら霊紗の近くに行った。
「2人がかりでもあたしには勝てないよ!」
先程、霊紗にかわされ、地面に突き刺さった剣を抜き言い放った。
「そんなこと!」
「やってみなきゃわかんない!!」
霊紗の後をとって神楽が言い放った。
「…ふん、面白いじゃない!!」
クロエが剣を構えて、2人に襲いかかった。
・・・・・・・・・・・・・・・
横目で霊紗達が戦闘を始めるのを見て、トシキは前を向いた。
「やっぱりまた来たか。オレは戦いたくないのは変わってない。」
トシキの目の前にはアイギスが立っていた。すでに、手枷を外している。
「私は答えを出すために戦いに来た。」
「!」
アイギスはそれだけ言った。
トシキはその言葉に驚いたがすぐに平常心を取り戻した。答えを出すために戦う。アイギスはまだ迷っている。どちらが真実なのか。自分はどうしたらいいのか。その迷いの答えを出すためにトシキと戦う事を選んだ。あの場所に居た当事者のトシキと。
「なら、オレも戦う事を選ぶよ。今出せる“全力”で!」
トシキは左目に軽く手を添え、
「Remplacement (換装)Vitesse (スピード)!」
左目が黄色に変わった。
グローブはそのままだが、トシキの周りに風が発生している。前とは違う状態だった。
「…ふーん、まぁいいや。始めようよ!」
アイギスはウズウズしていた。
やはり戦いたくてしょうがない感じだ。前とスタイルは同じだが、雰囲気が違うのに気づいた。興味は引かれたが今は答えのが出したかった。
「ふっ…」
アイギスが突然けしかけ、トシキの後ろをとった。
が、アイギスが地面に足を付ける瞬間にトシキは後ろに蹴りをいれた。
「っつ…!!」
アイギスは奇襲をあっさり見破られ、腹に反撃まで受けた。
後ろによろめいたが、すぐ体勢を立て直し攻めにでた。
「はっ!!」
ストレートにトシキを殴り付けに行った。が、手で流れるように受け流された。そのままの勢いで受け流されたため、前によろけた。
「ふっ…」
そこへトシキが受け流した体勢そのまま、グルンと一回転して、アイギスに背中を向けた瞬間に裏拳を繰り出した。
「うっ…」
よろけた体勢で背中にトシキの裏拳を受け、前に倒れ込んだ。
「な、なんでこんな…」
始めから手枷を外している状態なのに手が出せない。
前はそんなではなかったが、今回は全く手が出せない。そんな状況を信じられず、焦りを感じた。砂をギュッと握った。
「…前と違う状況で焦りを感じてるのか?」
トシキが何となく思った事を聞いた。
「!」
アイギスは図星だった。
「前と違う理由。それは、アイギスが迷ってるからだ。」
「…」
確かにトシキの言う通り、アイギスは答えを出せずにいる。そもそも、答えを出すためにトシキに戦いを挑んだ。
「…迷いは動きを鈍らせる。それをミゲルと戦った時に学んだ。」
迷いを抱えた状態ではロクに力を出せないことを身をもって経験していた。今のアイギスと自分を重ねていたため、前と違う理由がわかった。
「迷い…でも、迷いを無くすために戦いに…」
アイギスはさらに迷い始めたのがわかった。
「…何で迷ってるんだ?」
トシキは下を向いたアイギスをほっとけずに聞いた。
「私は、どうすればいい?今のまま組織に加わっているべきなのか、それとも抜けるべきなのか…」
アイギスはトシキの問いに答えた。トシキなら答えをくれないにしても助言をくれる気がした。
「…さぁね。それはオレにはわからんよ。組織の事なんてロクに知らないからね。長い間いたアイギスのが自分の組織の事をよくわかってるんじゃないのか?」
「それはそうだけど…」
アイギスはトシキの答えに不満を抱いた。予想外の返事で動揺を隠せない。
「…アイギス、オレ達と一緒に魔物とかに困ってる人や、苦しんでる人を助けないか?」
「…へ?」
アイギスはすっとんきょうな声をあげた。
・・・・・・・・・・・・・・・
トシキがアイギスに交渉を始めた頃、霊紗達はクロエに苦戦していた。
「何だい!二人がかりでその程度かい?」
クロエが剣を振り回して2人を攻撃している。
「始めの勢いはどこいったんだい?あたしを倒すんじゃないのかい?」
そういって、神楽の方に足を踏み込んだ。
「はぁあ!」
剣を思いきり振り上げた。
「わっ!?」
神楽はクロエが剣を振って生み出した風で後ろによろけた。
「はん、まったく大したことないね!あんたは。」
そういって、剣の柄で神楽の腹を突いた。
「あぐっ!」
神楽は勢いを殺しきれずに後ろに吹き飛んだ。
「神楽!…くっ」
今の状況を見て霊紗は焦った。
神楽は今ので気を失った。
これで、数で有利はなくなった。2人でも苦戦しているから状況は特に変わってはいないが。
「はい、1人脱落。後1人、あんただけ。どうする?」
クロエがニッと笑った。
「どうするも、私は戦うわよ。」
霊紗は魔符と魔法の球を中に浮かせた。
「戦士と魔法使い。どっちが有利かわかるでしょ?」
クロエは剣を構えた。
「…わかるわよ、そんなこと。」
言わずもがな、呪文を唱える時間を与えなければ魔法使いは普通の人。だから、呪文を唱えさせなければ倒すのはわけない。戦士のが有利なのは明らかだ。
「来なよ。」
剣をクイクイっと動かした。
「言われずともいくわ!」
魔符と魔法の球を一斉にクロエに向けて飛ばした。
「そんなもんどってこと…!!」
剣を振り回して、魔符を叩き落としていたが、魔法の球が1つも撃ちおとせていないのに気づいた。撃ちおとすどころか、魔法の球はクロエに叩き落とされる直前で真上に上昇していっていた。
(…もう気付かれた!!)
霊紗はクロエが魔符だけを叩き落としているのを見てそう思った。
「気付かれてるんならいい、いけえぇー!」
右手を上から振り下ろした。
「はん、気づかれてるのわかっててやるのかい。いいね、気に入ったよ!」
そう言って、球が浮いている上を見た。球はクロエに向かって一斉に急降下した。
「はあぁぁあ!」
クロエは剣を振り回し、球を次々と撃ち落としていった。
「かかったわね!」
霊紗がそういった。
「何を言って…!?」
霊紗の言葉を聞いてクロエが霊紗を見た。霊紗は指を下に向けていた。そこには、自分の足下に円を描いて魔符が地面に突き刺さっていた。
「しまっ…!」
魔符が光り始め、クロエを光の柱が包んだ。
「捕縛陣。バレずにやるにはこれぐらいしないとね。」
霊紗は自分の周りに魔法の球を次々と出現させた。
トシキに模擬戦で注意された事を意識して、対策をした。
「まだまだぁ!!」
案の定、土煙の中からクロエが剣を構えて突進してきた。
霊紗はそれを見越していたため、魔法の球をクロエに向けて飛ばした。
「くっ!うっとうしいな!!」
剣で突進の邪魔になる球だけを撃ち落として霊紗に向かっていった。
「…そこまで足止めにならないじゃない。」
球を撃ち落としながら突っ込んでくるクロエを見て思った。
球を簡単に払いながら向かってくる。
「はあぁ!」
一気に間合いを詰め霊紗を斬りつけた。
「…っつ!」
間合いを急に詰められ、ギリギリで避けた。
「まだだよ!」
クロエが霊紗に連撃をするため剣を振り上げた。
「しまっ!?」
霊紗は一撃目をギリギリで避けたため、余裕がなかった。
空気を斬る音とともに、剣が霊紗に振り下ろされた。
振り下ろされようとしていた。
「…へぇ」
霊紗を斬るつもりで振り下ろした剣を途中で止めたモノに感心をした。
「危なかった!何とか間に合ったよ〜…」
神楽が霊紗の隣に走ってきた。
「神楽…あんた遅い。」
それだけ言って、霊紗はクロエを向いた。また、霊紗を囲むように魔法の球が浮き始めた。
「ごめん〜、さっき目が覚めた。」
神楽が頭をかきながら謝った。
「あんたが召喚士だったのか。あっさり吹き飛んだもんだから、こっちがそうかと思ったわ。」
霊紗を指差し、笑うように言った。
クロエを止めたのはウンディーネだった。右腕を剣状にしてクロエの剣を受けていた。
「これであたしと対等になったと思ってる?」
クロエが神楽と霊紗の表情を見て言った。
「え?」
神楽はすっとんきょうな声をあげた。
「甘いね。」
フッと笑ってウンディーネを押し、間合いを開けた。
間合いを開けたと同時にウンディーネを無視して、後ろの2人に向かった。
「アクアスパイラル!」
神楽がクロエに向けて魔法を使った。
「!」
クロエはその場で体勢を低くしてアクアスパイラルの軌道からずれた。
「まだ!」
今度は霊紗が魔符と魔法の球を斜めからクロエに向けて飛ばした。
「ちぃ!」
斜めに撃ち込まれたため避けきれず、剣で撃ち落としていった。
「アクアブラスト」
神楽がそこへ、アクアスパイラルよりも高威力の呪文を使った。
「なっ!!」
球の中を水柱が向かってくる。
風を斬る音とともにかなりの速度で向かってくる。
クロエは避けれないと判断し、水柱の軌道に会わせて剣を構えた。
「ぐうぅぅ…」
ドゴッ、という音と共にクロエが吹き飛んだ。
剣で直撃を防いではいたが、圧縮された水柱の勢いが強く、飛ばされ、地面に背中を打ち付けた。
「まだですよ?」
ウンディーネが、指を上に向けてクィッと動かした。
すると、クロエが水によって思いきり宙に浮いた。
「!?」
「少し痛いですが我慢してください。」
ウンディーネはそれだけ言って、水の剣で素早く連撃を、宙に浮いたクロエに叩き込んだ。
「うあぁぁぁあ…!」
物理障壁を張ってはいるが、体にダメージを少しずつ受けていく。ウンディーネの水の剣は、切れ味はあまりよくなく、斬るというより叩く感じになる。
「落ちなさい!」
思いきり剣を振りかぶり、クロエに叩きつけた。
「がはっ!」
クロエは思いきり腹に剣を叩きつけられ、地面に落下していった。
「今度は私ね。」
霊紗が魔符を手にとり、落下してくるクロエの真下に立った。
「!」
横目でクロエは霊紗を確認した。
「避けれると思わないことね。」
霊紗が魔符と球を展開した。
「いけえぇー!」
一斉にクロエに真下全方向から発射した。
空を飛べない限り回避不能、強力な魔法障壁を展開しない限り防御不能。
「…やるねぇ」
クロエは苦笑した。
魔符と球がクロエに当たり、クロエを中心に爆発が起こった。
魔符は、爆符という当たると爆発する魔符で次々と誘爆し、関係ない所でちらほら爆発が起きた。
爆発とは別に魔法の球がクロエを的確に狙っていたため、ダメージは確実に負っている。
ドスン、と音を立て地面に何か激突する音がして、土煙が舞った。
「やったの?」
神楽が霊紗に寄ってきて聞いた。
「…さぁ?わかんない。まだ魔力は感じるけどね。」
霊紗は土煙をじっと見た。
ウンディーネも神楽と霊紗の一歩前で待機した。
「土煙が開けてきました。」
ウンディーネが剣を構えて言った。
土煙が段々風で薄くなっていく。
「…」
土煙が開けた。
そこには完全に気を失っているクロエが倒れていた。
「ふぅ…」
霊紗が魔符をしまってため息をついた。
「やった?」
神楽が目の前の状況を確かめたくて聞いた。
「私たちの勝ちね。」「そうですね。」
霊紗とウンディーネが肯定した。
「やった!」
神楽が喜んで跳び跳ねた。
「…」
霊紗はその様子を見て微笑んだ。
・・・・・・・・・・・・・・・
アイギスとトシキはお互い睨みあったまま微動だにしていなかった。
「私を仲間に…?」
トシキの言葉をアイギスが聞き返した。
「あぁ、仲間にならないか?人を殺すために戦って欲しくない。」
「…」
アイギスが俯いた。アイギスは迷っていた。確かに、トシキの仲間になれば殺したくない命を殺さずに済む。
が、今まで居た自分の場所を捨てる事に少し抵抗を感じていた。
仮にも、長年共にした仲間を裏切ることになる。仲間を裏切ることを一番嫌っていたアイギスに重くのし掛かった。
裏切る、ということがアイギスを縛りつけ、悩ませていた。
「仲間にはならないか?やっぱり…」
トシキは少し落ち込みながらアイギスに聞いた。
アイギスは顔をあげない。
「…私は仲間を裏切ることが大嫌いなんだ。だから、仲間を裏切るヤツは嫌いだし、自分で裏切るつもりもない。」
顔をあげないでサラッと理由を言った。
「…」
トシキは何となく理由を理解した。手枷を嵌めないといけないほどの力と魔力。そして、姿。
まさに、人に嫌われるには充分すぎる内容である。
「アイギス…」
「あ、うるさい!私は別にそんなこと…」
「ウソつけ、その手枷だって最近よりちょっと前につけたんだろ?」
アイギスが少しずつ動揺し始めた。
それをトシキは見逃さなかった。
「オレは、いや、オレ達はアイギスが何だろうと関係ない。アイギスはアイギスだ。裏切るつもりはないよ。」
トシキが笑った。
それを見てアイギスは暖かい気持ちになった。自分にあんな顔をしてくれたのは今までにそんなにいなかった。組織のなかでもドルチェ以外誰も笑ってくれなかった。
「くっ…」
アイギスはギュッと手を握りしめた。
「私は魔族と人間のハーフなんだ。」
「…魔族?」
急にアイギスが言った言葉に驚きつつ聞いた。
「魔族。こっちにはいないけど、魔法世界の何処かと繋がってる、魔界に住む者たち。」
「へぇー…」
頷きながら話を聞いた。
「父親が魔族の中の上位にあたる鬼道族で、母親が魔法使い。ハーフだったから人間でも魔族でもない中途半端な存在だった。姿もこんなだし、嫌われるのに時間はかからなかった。」
アイギスは、手を握る力を強めた。
「…」
トシキはなにも言わず話を聞いた。
「だから、両親が死んでから私はいつも1人だった。だれも私に接してくれない。助けてくれない。でも、そんななか私に手を差しのべてくれたのはドルチェだった。」
「ドルチェ…?」
予想外の名前に驚いた。
が、アイギスは気にせず続けた。
「ドルチェは私と一緒に旅をしてくれたし、一緒に暮らしてくれた。」
「だから、組織にも入ったってことか?」
「…そう。ドルチェがいるなら入ってもいいかって思ったから。」
アイギスは組織から逃げ出したドルチェの事を思いだし、悲しい顔になった。
「…」
アイギスの魔族の力を利用したんじゃないか、と言いそうになり、言葉を呑んだ。
今のアイギスにそんな事言えなかった。
「ドルチェが組織に帰ってくるかもと思って、待ってたけど全く戻ってくる気配もない…」
アイギスの表情が段々泣きそうになっていく。
「アイギス…」
「…なら、オレ達の仲間にならなくてもいいから、ドルチェを探す旅にでるってのはダメなのか?」
「え…?」
思わぬ提案に驚いた。
そんな事もお構いなしに、トシキは話始めた。
「要するに、組織から抜けて、戦いを止め、1人旅するってこと。そうすれば、誰も殺さずに済む。いつ見つかるかはわからないけど、見つかればドルチェとまた一緒にいられる。」
「…」
トシキの提案に黙りこくってしまった。
「そうしないといけない訳じゃないよ。1つの道を示しただけ。アイギスの進む道だ。オレがとやかく言うつもりはない。だけど、道を増やしたり、示したりはしてあげれる。だから、自分の道は自分で決めるんだ。」
「オレ達と戦うっていうなら、オレも手は抜かない。自分で選んだ道を進むなら手を抜いちゃ失礼だから。」
トシキはそう言ってグローブをはめ直した。
言葉でそう言っても、やはりアイギスとは戦い辛いのは変わらなかった。
「はん!相手が本来の力を出せてないチャンスに何甘いこと言ってんだ!?馬鹿じゃないのか?」
嘲笑うような声が空から聞こえてきた。
他者を嘲笑い、物としか見ていない声がする。
「この声は…!」
トシキが声のした空のほうを睨み叫んだ。
「ヴァニタスゥー!!」
トシキの怒号が、弱めだが地面を揺らし、空気を振動させた。
それに驚きアイギスは身震いした。今までのトシキと違い、恐怖を感じた。自分はかなり手を抜かれていたのを感じ、悔しいような感じになったが、ホントに自分と戦いたくなかったっていうのを、確信した。
「よぉ。久しぶりだなぁ。相変わらずあまちゃんだな、おい。」
ヴァニタスがトシキの顔を見てニヤッとした。
「…んだとぉ!」
トシキは相変わらず睨み付けたままだった。
「そんな睨むなよ。オレはあそこで倒れてるやつを持ち帰るのと、裏切り者を消しに来たんだよ。お前に用はない。空き地の隅で震えてな!」
そう言って、トシキを睨み付けた。トシキよりも強く、空気と地面を揺らした。
「…!」
それにトシキとアイギスは少し気圧された。
「…さて、まずはアイツだな。」
ヴァニタスが指を倒れているクロエに向けた。
パチン、と指を鳴らすとクロエが黒いモヤモヤした物に取り込まれ消えた。
「!アイツはどうした!!」
それを見てトシキが叫んだ。
「言っただろ?持ち帰るって。組織に送ったんだよ。」
「くっ…。あの黒いのはなんだ?ねじれを使ってるんじゃないのか?」
移動手段にねじれを使っていると予想していたため、ねじれじゃない謎のモヤモヤが現れたのに疑問を持った。
「…教えると思ってんのか?」
また嘲笑うように言った。
「…」
トシキが段々イラついてきているのが手に取るようにわかった。
「次はお前な。」
ヴァニタスがアイギスの方に向き直った。
「な、何で…?」
アイギスは後ろに一歩さがって恐る恐る聞いた。
「裏切り者を消すって言ってんだろ?」
「私まだ裏切って…」
「“まだ”だろ?これから裏切るつもりなんだろ?」
ヴァニタスがいやらしく笑って言った。
「…っ!」
アイギスは言葉を返せなかった。組織は何にしろ抜けるきでいたから。
「図星か。じゃあ、消えな!」
アイギスに掌を向けた。
その直後、掌に黒い球状の塊が顕れ、手の大きさ程になった瞬間にアイギスに向かって飛んでいった。
「あぅ…!」
それを腹に受け吹き飛び、背中を地面で打った。
魔法障壁を展開してなかったらヤバイ一撃だった。
お腹がズキズキする。口は血の味で溢れていた。
「うぅ…」
痛みに耐えつつ何とか体を起こした。
「魔法障壁を張ったか。じゃあ、次は零距離で…」
そう言って、ヴァニタスはアイギスの目の前に現れた。
「っ…!?」
急に目の前に現れたヴァニタスに驚き、手で後ろに後ずさった。足が震えて立てず、引きずる様に後ずさった。
「…情けないねぇ。仮にも魔族の者が。」
そう言いながら、手に魔力を集めていた。その証拠に、黒い魔力が手の周りで集まり始めた。
「じゃ、死んどきな?」
黒い魔力が集まった手を思いきりアイギスに振り下ろした。
「うっ…!」
アイギスは障壁と一緒に手で防御の体勢をとった。
「………。え?」
とったはいいが、全く障壁にも反応がなかったことに、恐る恐る目を開いた。
「な、何で…?」
目の前にトシキが背を向けてヴァニタスを睨み付けながら立っていた。
「何でって、オレはお前を死なせるつもりはないからだよ。死なせたくないし、アイツにまた力をやるつもりもない!」
「力をやる…?」
何を言っているのかよくわからなかったが、トシキの言葉を思い出した。
『ミゲルを取り込んだ。』
「…じゃぁ、やっぱりヴァニタスはミゲルを?」
アイギスは震える声で聞いた。
「…あぁあ、バレちゃしょうがねぇ。もう消すしかねぇな。アイギス?」
ヴァニタスがニヤッとしながら言った。
「そ、そんな…じゃぁ、トシキが言ってたのがホントだった…」
アイギスは仲間を信じたかったから、トシキに戦いを挑みにきた。ミゲルと、ドルチェの仇として。だが、ヴァニタスが認めた。ミゲルを殺した事を。それによってアイギスは完全に放心してしまった。
「てめえぇ!!」
トシキの怒号が地面、空気を振動させた。さっきのヴァニタスと同じぐらいに。
そんなことお構いなしにヴァニタスはトシキ達の前から消えた。
「言ったろ?事実を知られた以上消すって。」
ヴァニタスはアイギスの後ろに現れていた。
「あ…」
小さくアイギスが呟いた。
ヴァニタスは力を集中させた右手を思いきり振り上げ、アイギスに向かって振り下ろした。
「言ったろ?守るって。」
トシキが、その場にしゃがみこんで、ヴァニタスを見ていたアイギスの頭の上を抜けて、ヴァニタスの腹に一撃いれた。
「ぐふ…っ!」
ヴァニタスは完全に油断していて、後ろに思いきり吹き飛んだ。
腹に受けた一撃は雷を帯びており、体が麻痺している。障壁を完全に破った一撃でダメージがでかく、口の中に血の味が充満した。
「ちっ…」
予想外のダメージで舌打ちした。
「…」
アイギスは何も言わずトシキの方を向いた。まだ、表情は暗い。仲間を裏切る事を嫌うアイギスにとって、裏切られる事にかなりショックを受けていた。
「な、何で、助けてくれるの?」
アイギスは脱力した体から何とか声を絞り出した。声が震えて、簡単に消えてしまいそうなぐらい弱々しくなっていた。
「さっき言った。味方にするつもりもないけど、死なせるつもりもない。今までが、辛すぎるからこれからアイギスにはドルチェを見つけてから、幸せでいて欲しい。だから、ここで死なせはしない。」
トシキがアイギスの頭に手をのせて微笑んだ。
トシキの手の温かさが気持ちよかった。脱力しきった体に力が入っていく感覚がした。
ドルチェに頭を撫でてもらうよりも温かさを感じ、涙が溢れてきた。
そのため、アイギスが俯いた。泣き顔を見られたくなくて。
「大丈夫、死なせない。守ってみせるから!」
そう言って、頭を撫でてから手を放し、ヴァニタスが痺れて膝まずいているほうに歩き出した。
「あ…」
頭に触れていた温もりが離れていくのが怖くなった。無意識に、手がトシキを放さないように服の裾を掴んだ。
服の下の方に力を受け、トシキが振り返った。
「アイギス…」
アイギスは頭を横に振った。行かないで。と伝えるように。トシキが離れてくのが怖かった。だから服の裾を引っ張る手が震えていた。
そんなアイギスを見て、心情を悟ったトシキが、服の裾を握っていた手を優しく握って微笑んだ。
「大丈夫、戻ってくるから。だから、見てて。」
それだけ言って、アイギスの手を膝の上に戻した。
それからまたアイギスに微笑んで、背を向けた。
自分の仲間を平気で利用し、裏切ったヤツと戦うために。
「Remplacement (換装)」
左目を黄色に変え、速さ重視のスタイルに換装した。
ヴァニタスは痺れがとれ、自分に向かってくるトシキを不敵な笑みで向かえた。
「やるつもりはなかったが、邪魔したお前が悪い。」
「御託はいい。オレはお前がキライだ。」
トシキが短くそれだけ言った。
「…ふん。言ってくれるねぇ」
ヴァニタスがニヤッと笑った。
また更新遅くなるかもしれないんで先謝っときます。すいません。
次回はヴァニタスとトシキの激突が中心になります。
次もぜひ読んでいただけると作者も喜びます。(更新早くなるかも…?)
では、次回もよろしくお願いします!