湖のボス
全体的に白で統一された部屋。家具も全て白で、何処か神秘的な雰囲気を醸し出している。
その部屋の机に両肘をつき、手を組んで目の前に立つ男を見る老人。
見た目、白い髭を生やした老人で何故か貫禄のある雰囲気をしている。鼻に乗せた眼鏡を使わず、上目使いで男を見ている。
「して、あやつらはどうじゃ?」
「はい。仰せの通り戦力強化と、新たな収入源を求めており、今は動きがありません」
見た目30代程の男が報告する。
黒いスーツで身を包み、パッと見ではサラリーマンのようだ。
「ふむ、それは結構。では、彼らはどうかね」
「はい。彼らの消息はつかめてません。急に姿を消しました。おそらくねじれを使って何処かに身を潜めたのではないか、と思われます」
「ほぅ。まぁ妥当じゃな。彼らは問題なさそうじゃ。」
「ええ。このまま大人しくしてればバレないだろうと思われます。」
「となると、問題は‘内’じゃな」
「はい。さっきの報告内容の件と同時に、例の物を探しているようです。人員を更に増やして」
「愚かな…。あんな物を使ってまで消したいか。奴らは。何故、相手を消そうとするのじゃ…。ワシにはわからん…」
はぁ、と大きくため息をつき頭を抱える老人。
「やはり、頼みの綱は彼らですか?」
「…そうじゃな。ワシらで何とかしたいもんじゃが、噂されとる通り、ワシらは力が弱い。やつらには対抗しづらいからのう。彼らに協力を仰ぎたいが、今はまだ無理じゃ」
「…ですね。今はあちら側もピリピリしてて下手に接触できませんし、もうしばらく様子見といきましょうか」
「うむ、そうじゃの」
やれやれ、と椅子にもたれる老人。
男も一礼して部屋を出ていった。
「どうしたものかのぅ…」
髭をさする老人。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
南の大陸のポスタル湖。そこは、普通の湖と違い、滝を挟んだ2つの湖となっていた。元々、1つの湖で滝はなかった。だが、地盤変動により、ちょうど滝の位置で高さがずれ、滝となった。その巨大な滝は、周りも綺麗な自然に包まれている事もあって観光地として有名で、観光客が多く押し寄せる。
そんな湖にサキとサラの2人が到着した。
アカツキの依頼によると、そこに魔物が生息しだしているため、退治してほしいとのことだ。
最近、旧世界にいないはずの魔物が現れるようになっていた。数が例年に比べて異常に多く、対処の手が回らないほどだった。
そのせいで、旧世界にひた隠ししていた魔物の存在が知れてしまった。
だが、ドミニオンは魔物とは言わず、生物の突然変異だと旧世界の人々に知らせていた。
魔法世界側も、魔物の存在を知られるよりは、とそれを黙認。
魔法使い、魔法世界とのつながりはそれにより断つことに成功した。
が、魔物は旧世界の生物と比べて狂暴であり、軍が出ないと対処できないものだった。軍が出現した場所まで着くのに時間がかかる事もあり猫の手も借りたい状態。
そのため、民間人にも被害が出ていた。
それにも関わらず、ドミニオンは旧世界の人のために兵を出さない。
それどころか、姿を消してしまっていた。まるで、旧世界からいなくなったかのように。
おかげで、依頼が増えてお金には困らないんだけどねー…
「一般人、多いね」
サキが、滝を見るために湖の端に設置された高台にいる観光客を数える。
20人近くいる。
「…ここに魔物がいる、なんて知らないからしょうがないわ」
サラは観光客に目もくれず目標の魔物を探す。
岩に擬態してる、という情報があったため、岩を探す。
「岩…って、あれ?」
サキが湖の周りにごろごろと転がっている岩を指差す。
「さぁ?あれかも?」
サラは湖の中にある岩を指差す。
岩は、湖の中と外、両方にゴロゴロところがっていた。
そんな中から、岩に擬態した魔物を探さないといけない。
…うぅ、人がいなきゃもっと楽に見つけれたのに
魔法を使ってさっさと見つけようと思ってたのに、まさかの観光客がたくさんいた。
そのせいで、モチベーションが下がっていた。
「ほら、被害がでる前に位置だけでも探しましょう」
「うん」
2人は木の影等をうまく使って、高い位置の湖に向かう。
グッと脚に魔力を集中し、一気に高い位置へと飛ぶ。
「上にも微妙に人がいるね」
「邪魔ですね。ホントに」
心底邪魔そうな感じで言うサラ。
「よっと」
とりあえず岩の近くに着地する2人。
「…これ、じゃない」
岩に触れてみたサキ。
何の反応もないため、ただの岩だろう。
「…どれが魔物なのかしら」
腕組みをして岩を見回すサラ。
「…、この湖魔物がいる」
湖の中に、海で戦った魔物がいるのに気づく。
それも少なくない。
どうやら人が多いために、様子を見てるんだろう。
「ますますマズイですね。一般人が巻き込まれかねないです」
サラが滝を見下ろしてる観光客達の方を見る。
「…ん?」
サキがいつの間にか俊貴に戻っていた。
ちゃっかり服も着替えている。
「何で戻ってるんですか?」
「別にいいだろ…」
苦笑いする俊貴。
「きゃあああー!」
大きな水音と共に、悲鳴が聞こえてきた。
「な!あんなとこにいたのか!」
悲鳴のした方を見ると、滝の近くの岩から大きなハサミが2本伸びていた。
観光客が近づきすぎたのだろうか。
「子供は私が!」
「わかった、頼む!」
俊貴が縮地法で一気にその魔物へと向かう。
サラは、魔物が急に出てきて驚き、逃げ遅れた子供へと向かう。
「吹っ飛べ!!」
魔物の正面に着地し、腰に構えた拳をぶつける。
俊貴に気づき、大きなハサミで叩こうとした。
俊貴の拳と魔物のハサミがぶつかり、魔物を湖の真ん中の方へと吹き飛ばした。
「さぁ、こっちに行きますよ!」
その間に、恐怖で動けなくなった子供の側にいき立ち上がらせるサラ。
顔は恐怖でガチガチに強ばっている。
「大丈夫。私と一緒に行こ?」
サラが優しく微笑み手をさしのべた。
その手を見てから、サラの顔を見て手を握り返す女の子。
「サラ!!雑魚が出てきた!」
後ろから俊貴の声が聞こえたため振り返ると、サハギンの群れと戦っている俊貴の姿が見えた。
サラの方にもサハギンが向かってきている。
「い…、いやぁ…」
それを見てまたガクガク震えだす女の子。
「大丈夫。あなたは絶対に守ってみせるから」
ニコッと女の子に笑いかけるサラ。
(でも、この子の前で魔法を使うのは…)
杖を取り出して魔法を使う訳にはいかない。かといって、このままでは自分も危ない。
「…!」
サラが回避しかしてない事に気づき、攻撃しない理由にも気づく俊貴。
「オレしか!」
縮地法でサラの方へと一気に移動し、サラを攻撃しようとするサハギンを殴り飛ばす。
「その子の安全を優先する!」
俊貴がサハギンを殴り飛ばしながら、サラに言う。
「わかりました!」
女の子をギュッと抱き締めて、魔物のいない方を確認する。
サハギン達は、俊貴たちを逃がすまいと逃げ道を塞ぎにかかる。
「俊貴!逃げ道が!!」
サラの声を聞き、周りを伺う。
確かに、逃げ道は塞がれている。陸地への逃げ道は。
滝への道は開いていた。
ザバーン、と大きな水音をたてロッククラブが水上に出てきた。
波をたてながら、2人に向かってくる。
…めんどくさいのが来やがった
「ん?でも、もしかしたら…」
サハギンの頭を蹴飛ばす。
今ので10体は倒したかな
「と、俊貴っ!」
「!」
サラの焦った声を聞き、振り返ると知らないうちに滝の方に追い込まれていた。
無駄に統率がとれてるな…
サラに近づこうとするサハギンを集中して撃退する。
サラの援護に回るため、2人が近い距離にいる。
そこへ、ロッククラブが大きなハサミを俊貴たちに振り下ろす。
「「しまった!」」
それを避けた2人は、同時に声をあげた。
サハギンに囲まれているため避ける場所は後ろのみ。でも、後ろは滝。
気づいた時には遅く、2人は滝壺へと落ちていく。
しかも、逃がすまいとサハギンが群れをなして2人を追ってきた。
「降りるのに集中しろ!オレがサポートする!!」
俊貴が空中で一回転して体勢を直し、追ってくるサハギンを1体殴り飛ばした。
「わ、わかりましたっ!」
ギュッと女の子を抱き締め、近づく滝壺を睨み付けるサラ。
「おっと!」
サハギンの手に持った槍をかわし、滝壺へと向けて蹴り落とす俊貴。
更に、槍を横に振るサハギンの攻撃を、体を反らして避け、回し蹴りで滝へと吹き飛ばす。
「くっ!」
上を見上げ、ドンドンと追ってくるサハギンに苦い顔をする。
滝壺が近い。
「あ、そうだ。これがあったんだ」
腰からハンドガンを取り出して、追ってくるサハギンに狙いをつける。
そして、銃を放つ。
一番遠いサハギンに弾が直撃した。
その瞬間、強烈な風がそこから吹きサハギンの追ってくるスピードがあがる。
「サラ!一気に陸地へ飛んで!!」
「わ、わかりました!」
滝壺へと着く前に、俊貴とサラは陸地へと方向を変えて飛ぶ。
次の瞬間、強風に押されたサハギン達は滝壺へと叩きつけられた。
「その子を早く安全な場所へ!」
「わかってます!」
上で起きてた騒ぎを聞き付けていたのか、下には観光客はいなくなっていた。
サラはすぐにその子を連れて、湖から離れていく。
「さて、魔物の蟹でもうまいのかな」
背に背負った岩を楯にして、滝壺へと落ちてきたロッククラブ。
体勢を整えて俊貴を見る。
俊貴もハンドガンを腰にしまって構える。
「手加減はもうしない」
縮地法でロッククラブの後ろに回り込み、背中の岩に右の拳をぶつける。
「ギッ」
ふわっと宙に浮き上がるロッククラブ。
「はっ!」
右足を踏み込み、左足で回し蹴り。
それをまた背中に食らい、湖の方へと吹き飛ぶ。
水柱をたてて、湖の中に沈むロッククラブ。
だが、ロッククラブと入れ替わりでサハギンが8体俊貴の周りに姿を現した。
「ちっ!邪魔くさい!!」
1体ずつ入れ替わりで攻撃してくるサハギン。
槍が何度も俊貴を突き殺そうと向かってくる。
「っ」
1発俊貴の頬にかすり、微量の血を流す。
「うざい!」
攻撃してきた1体のサハギンの尾びれを掴み地面に叩きつけた。
そして、すぐに近くのサハギンの腕を掴み、足を軸に振り回して投げ飛ばし、2体のサハギンを巻き込んで地面に倒す。
その倒れたサハギン3体に、魔法‘サンダーブレード’を使い、串ざす。
串ざして消滅していくのを確認して、別のサハギンの方に縮地。
左足を踏み込んで軸とし、サハギンの腹を蹴り飛ばし、右足を地面に着けたのと同時に後ろへとバック転。
その後に、俊貴を挟む形でいたサハギン2体が、目標のいなくなった場所を槍で突き刺す。
その隙を突き、俊貴は右側のサハギンの背中を蹴る。
「ガッ」
蹴られたサハギンは、左側のサハギンが突き出していた槍を腹に受けてピクピクしている。
槍が刺さったサハギンの地面に落ちた槍を拾い、横に薙ぐ。
仲間を槍に突き刺したサハギンの胴体から上を切り落とす。
そして、また縮地でサハギンが直線で並んだ位置に移動。
グッと、槍を持った右腕に魔力を集中する。
俊貴に気づいた1体のサハギンが槍を構える。
「はあぁ!」
魔力を込めた腕で槍を思いきり投げる。
「グッ」
魔力により速度の異常な槍が、サハギンに突き刺さり、それでも勢いがやわらがずにその後ろにいたサハギンにも突き刺さり、岩に突き刺さった。
ビクッビクッと2体とも体を揺らす。
「ふう…」
一息つき、湖を見渡す。
水面は穏やかに揺れていた。
「…どこにいった」
ロッククラブが姿を現さない。
あのサハギンを囮にして逃げた?
だとしたらどこへ?
だが、その考えは外れて水中からふいに水のブレスがとんできた。
「うお!?」
それを後ろへと飛んでかわす。
またまた大きな水音をたててロッククラブが陸地に上がってきた。
しかも、サハギンを周りに連れて。
おいおい…
メンドすぎるぞ、この蟹
苦笑いして、構える俊貴。
「俊貴!」
「お、サラか!いいタイミングで来た!!」
「え?」
「サハギンは無視!とにかく、ロッククラブを集中して攻撃する!!」
そういって、俊貴はロッククラブへと突っ込む。
「やれやれ…」
一息つくまもない事にため息をつくが、スカートを少し捲って、太ももに装着したホルダーから細い杖を抜き取る。
「バーンストライク!」
炎の中級魔法を唱え、ロッククラブの頭上から炎の塊を6個降らせる。
図体がでかいために、それを見事全弾受けて怯むロッククラブ。
そこへ、タイミングを合わせて上へと跳んでいた俊貴が回転しながらロッククラブの方へと落ちていく。
「ふん!!」
くるくる回転する体を止め、かかとをロッククラブの目と目の間に思いきり振り下ろす。
重く鈍い音をたててロッククラブが地面に倒れる。
が、脚を器用に使って起き上がり、水ブレスを2人に放った。
「うわ!」
「っ!」
サラはすぐに左へとかわし、俊貴は地面に脚をつけてからすぐに右へとかわした。
そんな2人に思いきりハサミをぶつけにいくロッククラブ。
「…邪魔だあぁ!」
魔法‘サンダーブレード’を唱え、腕に連動させる。
そして、振り下ろされるハサミへとぶつけるように腕を振る。
「!」
腕を振った事で、サンダーブレードがハサミへと放たれて貫通。
強い勢いのままハサミをロッククラブの後ろへと吹き飛ばした。
それによりバランスを崩して、仰向けで倒れる。
すぐに俊貴は地面に足をつけて体勢をたてなおす。
「サラッ!」
「ええ!!」
2人同時に飛び上がる。
呪文を詠唱して。
2人が同じ高さに揃った。
俊貴は左手、サラは右手に持った杖を向ける。
「サイクロン!」
「エクスブロード!」
2人とも各属性の上級魔法。
何故か、俊貴のサイクロンはロッククラブの真上に現れていた。
だが、サラのエクスブロードがそのサイクロンに巻き込まれた。
激しい竜巻によって勢いを増す巨大な炎の球。
そして、竜巻から発車され、更に勢いを強くして炎の球がロッククラブに直撃する。
当たった直後に、熱波がドーム状になりロッククラブを包む。
高熱で焼かれたロッククラブは焼け落ちていき、絶命してその場から灰となって消えていった。
それに巻き込まれたサハギンも何体かいたが、生き残ったサハギン達は慌てて湖へと逃げていった。
やはり、ロッククラブがこの湖のボスとなっていたようだ。
「あー…、やっと終わったー」
その場に座り込む俊貴。
魔力はそこまで消費していないが、数が多かった。
大群を相手に1人で戦って、疲労が全身を襲ってきていた。
「…もし、あの蟹がここのボスじゃなかったらどうするつもりで?」
サラも疲れた様で、隣にしゃがむ。
「んー?まぁそん時はサハギン全部潰してたかな」
あはは、と軽く笑う。
「全く、あなたと言う人は…」
呆れながらも微笑むサラ。
「でも、上手く連携とれたろ?」
「…ええ。私が火の魔法を使うとわかっていたのですか?」
それにも驚いた。
まさか、風の魔法。しかも上級のを唱えておきながら、サラの火の魔法を強化した俊貴。
いくら得意な魔法が火でも、サラは他にも使える属性の魔法はある。
それなのに、風でサポートしてきた俊貴にサラは驚いた。
「トドメに得意な系統の魔法使わないの?」
と、キョトンとする俊貴。
「…は?」
思わず呆気にとられたサラ。
「え?」
俊貴も何故か聞き返す。
「…はぁ」
ため息をつくサラ。
少しでも、あの連携に嬉しさを感じた自分が悲しくなってくる。
(得意な系統を覚えてくれてたって事にしときましょうか…)
言い聞かせるようにそう思うサラ。
「…でも、あの時サラは火を使うって確信してたけどね。」
ニシシ、と笑いかける俊貴。
なんだろう、直感かな。
「…あっそ」
顔を反らすサラ。
顔の赤らみを、胸の高鳴りをバレないように俊貴から顔を背けた。
こんにちわ。
久々の戦闘回。
ちょっと嬉しいです。
最近戦闘がなくて、エロっぽくなってる気がする…
まぁいいか(笑)
サラさんが出てきてからですかね、こうなったのは。
ちらほら散りばめながらも、戦闘頑張ってきたいと思ってます。
では、ここら辺で。
また読んでください。