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彼の進む道  作者: けやき
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水の精霊

英語だったり仏語だったりぐしゃぐしゃです。

後、もっとこうした方がいい、とかアドバイスやダメ出しが頂けたら改善できるよう努めますのでお願いします。

ハイライト王国謁見室


「どういう事だ!見回りの兵士は何をしていたのだ!!」


ハイライト王国の王、ハイライト・ルーク国王が、報告に来た兵士に怒鳴った。


「それが…、不審な人物は目撃していない様でして…」


兵士は聞いた事をそのまま答えた。


「そんなはずなかろう!目撃していないのならば、脱獄等されぬわ!必ず何者かが通ったはずだ!!門番の兵士を連れて参れ!」


椅子をドンと叩いて兵士に命令した。


「はっ!」


兵士は一礼して後ろを向いて走り出した。


「一体どうなっておるのだ…。」


拳を握りながら、国王は唸った。

今朝、囚人達に食事を運ぶ兵士達が最重要囚人を容れる牢屋に行った所、今最重要の囚人、ドルチェと名乗る女が牢屋から消えていた。その場には、牢屋の鉄格子を一部溶かした様な後が残っているのみだった。

その牢屋に行くには、常に門番が交代制で立っている門を潜らねばいけない。交代制でも、その場から兵士が居なくなることはなく、自分の番が回ってきた兵士が門まで行ってから交代するため、人は必ずいる。

そんな場所で、誰にも気付かれずに脱獄をした。

ハイライト王国で、初めての事態で城内はかなりの騒ぎになっていた。


あれこれ考えていた国王の前に2人の兵士が来て、片膝をついた。


「昨晩の番をしていたのは私ですが、誠に不審な人物はおりませんでした。」


そう言って、俯いた。


「不審な人物が居らんのに脱獄などされぬわ!」


「し、しかし…!」


「えぇい!では、内部の者に内通者がいたとでも言うのか!貴様は!」


そう言って、ふと国王は気付いた。


「…、もしや昨晩門を兵士が入っては居らぬか?」



「は、はい。三名兵士が入っていきました。囚人に飯を運ぶと言って、飯を運ぶ兵士を通しました。」


「…!やられた…。その三名の兵士は偽物じゃ!その時間の前にすでに飯は運んである!!」


そう。門番が交代する前にすでに夕飯は運び終えていた。

だから、二度夕飯が運ばれることはない。


「そのものたちの顔は覚えておるのか!」


「い、いえ、たいまつの明かりの届かない位置にいたため、顔は見えませんでした。体格しかわかりません。」


「えぇい!なら、体格はどうだったのだ!」


「1人は、ガッチリした体格の男で、もう1人は、普通の体格をした男でした。3人目が、背が低く髪が長めで、男か女かわかりませんでした。」


申し訳なさそうに兵士が報告した。


「…、何もないよりはマシだ。下がってよいぞ。」


声を落ち着かせて言った。

兵士が一礼して去っていった。


「…、何か良からぬ事がおきるやもしれんな。」


そう言って、国王は会議室へと歩いて行った。



・・・・・・・・・・・・

「ぬん…!」


いつもの空き地に2人の男女が立っていた。


「ぬぬぬ…!」


トシキは力みながら唸っている。


「…ねぇ、もぅいいよ。」


神楽が呆れていった。

今、トシキはミゲルと戦った一昨日に、突然形が大剣に変わったテリルを大剣にしようとしていた。が、まったく変化しない。

その状態がかれこれ15分続いて、神楽が痺れをきらしていった。


「大剣に変わったのはテリルの映像で見たからわかったって!」


「…わかった。」


ちょっと落ち込みながらトシキが頷いた。


「それにしても、大剣はともかく、オッドアイ(片目の色が違う)には驚いたかなぁ。」


テリルの映像で、大剣を振り回す、片目の色が赤いトシキを見ながら不思議そうに言った。


「それ、映像みるまで気づかないってか、気付けないよ。」


ミゲルが、目の事を何か言ってたなぁと思いながら言った。


「何だろうね?急に目の色が変わるなんて…。魔法教本にも書いてないのに。」


頭をかしげながら神楽が言った。


「うぅーん…、よくわからんけど、武器の使い方と力が体に流れ込んでくる感触があったよ。」


一昨日の事を思い出しながら言った。よくわからないが、力が溢れてきて、大剣での立ち回り方等が頭に流れ込んできた。


それに、グローブに表れた盾をバックに剣と杖が交差した紋章の様なもの。


「この紋章も初めて見たし…。」


神楽が不思議そうに見た。


「…情報が少ないな。前に言ってた図書館に行ける?」


前から聞いて気になっていた。


「うぅーん…、今日はムリかなぁ…。ゲートが開かないから。」


携帯で日にちを確認して言った。


「今日はムリ?…もしかして、ゲートって開く日が決まってるの?」


トシキが自分なりに思ったことを聞いた。


「うん。昔はいつでもゲートを使えたんだけど、ゲートを破壊したテロリストが現れて、世界中のゲートを破壊しちゃってから、ゲートを開く日が決まっちゃったんだ。」


簡単に神楽が説明した。

「…それはしょってるだろ。壊されただけで日にちを決める程厳重にする意味がわからない。」


トシキが言った。


「ばれたか。じゃあ、説明するよ?」


トシキはコクンと頷いた。



100年ほど前の旧世界。

今よりも魔法使いが旧世界で生活していた。


そんな中で、ゲートは旧世界と魔法世界を繋ぐ重要な役割を今と変わらず行っていた。

違うのは今と違い、日にちが決められておらず、1日に何度もゲートは開かれた。


そのため、旧世界、魔法世界どちらともに同じ様な物が溢れ、それぞれの文化が統一されていき、古い文化が廃れていった。


廃れていった文化を守ろうと、ゲートを制限するべきだと訴える者もいたが、便利になる文化には抗えず、訴えもなくなっていった。


そんな中、ゲートを使って魔法世界と旧世界を遮断しようとする連中が現れた。彼らは、次々にゲートを破壊していき、旧世界と遮断された。


だが、彼らはそれだけで終らず、魔法世界を掌握しようとした。 彼らは、主に古文化を守ろうとした魔法使いが中心だったが、その中には旧世界の人間や兵器が混ざっており、次第に旧世界の人間が指揮を執りだしたため、魔法世界も自分達のものにしようと考えた。


旧世界の兵器は、魔法使いをいとも簡単に殺せてしまうため、魔法世界は苦戦を強いられた。

それに対抗しようと、魔法世界の第3国、ハイライト王国、トルガイア王国、シェルアクア王国の連合軍が結成された。


そして、連合軍とテロリスト達の大規模な戦争となり、戦火は魔法世界全土に渡った。


その結果、連合軍が辛くも勝利したが、多くの人々が死に悲劇と化した。

戦争後、しばらくは魔法世界の人々は旧世界の人々を恨み、ゲートは復旧させないと主張した。

が、魔法世界に残っていた旧世界の人間によって説得され、今の様にゲートを開く日にちを決め、警備も厳重にした。


そして、何年か過ぎて旧世界と魔法世界の溝は次第に埋まっていった。



「中には、まだ恨んでる人もいるかもしれないけどね…。」


長い説明を終えて、一息ついた。トシキは黙ったままだった。

しばらく沈黙が続いたが、トシキが口を開いた。


「神楽はオレ達を恨んでるのか…?」


魔法世界から来た神楽に聞いた。


「…うぅん。恨んでないよ。私のお父さんは旧世界の人だから。それに、旧世界の人全員が悪い人って訳じゃないもん。」


そう言って、トシキにウィンクした。それにドキッとしながらも神楽の言葉が嬉しかった。


「…そっか。」


ただ、素直に喜びを表さなかった。


「テロリストかぁ…。まだ、生きてるヤツとかいたらめんどそうだな…!」


そう言って、ふと気づいた。


「もしかすると、ミゲル達はテロリストの残党なんじゃないのか?」


「え?」


予想外の言葉に神楽は驚いた。



「あ、でも魔法世界を支配しようとしたのに旧世界を攻める意味がわからないから違うか…。」


「どういう事?」


神楽が1人で納得したトシキに聞いた。


「ん?あぁ、もしかしたらミゲル達は常に使えないゲートの変わりに、ねじれを使って何か企んでるんじゃないか、と思ったんだけど、テロリストの残党が旧世界を攻める意味がわからないなぁと思っただけだよ。」


「え?何で?」


「テロリストの残党なら、旧世界の人間も混じってるだろうから、旧世界の人間が旧世界を攻める意味がない気がするんだよ。それとも、旧世界を自分が支配してやろうと考えてるのか…?」


トシキはまた、考え始めた。

そんなトシキを見て、


「わかんないこと考えたって、疲れるだけだよ!」


そう言って、神楽はトシキの手を取って走り出した。


「そ、そだね。ってか、何処行くの!?」


考えるのをやめて、手を引かれながら走った。


「私ん家!魔法学校に色々連絡してみようよ!」


「…そだね。」


フッと笑って頷いた。



・・・・・・・・・・・・・・・


「一昨日はごめんなさい。2人を危ない目に合わせてしまいましたね…。」


神楽の部屋には、トシキと神楽とスーツにローブを羽織った女の人がたっていた。スーツにローブを羽織った女の人は、ホログラムで実際には神楽の部屋には居ない。


「いえ、私達は2人とも無事でしたから大丈夫です!」


笑顔で神楽は答え、トシキは頷いた。


「そうですか…。ありがとう。」


そう言って、女性は微笑んだ。


「あなたとは初めましてね。私は、キャロル。キャロル・ステール。ハイライト魔法学校の学園長の秘書兼連絡員よ。」


そう言って、一礼した。


「あ、オレは、坂井俊貴です。えーと、神楽のパートナーやってます…?」


急に丁寧に自己紹介されたためちょっとパニクりながら自己紹介した。


「ふふっ、知ってますよ。神楽がお世話になってる様で迷惑をお掛けします。」


「い、いえ、オレもまだまだ未熟ですから!」


「ふふっ、そうですか。」


クスクス笑いながらキャロルが言った。


「あぁ、そう言えば重要な要件がありました。」


そう言って、真剣な表情に変わった。


「私達もいくつかあります。」


「そうですか。では、先に私から要件を伝えましょう。」


そう言って、交互に2人を見た。2人とも頷いた。


「昨日、あなた達が捕まえた最重要囚人ドルチェが脱走しました。恐らく仲間が彼女を手助けしたのでしょう。」


その報告に2人ともが驚いた。キャロルはそのまま続けた。


「それで、もしかしたらあなた達に危険が迫るやもしれないので気を付けてください。此方で援軍を送りたいのですが、一昨日の件で人選を慎重に行ってますから時間が掛かっていますので…。」


申し訳なさそうにキャロルが言った。


「大丈夫ですよ!こっちにはトシキがいますから!!援軍なんていらなくなるかも♪」


神楽が笑顔でトシキの腕を引き寄せて言った。


「そうですね。」


またキャロルがクスクス笑いながら言った。

トシキは頭をポリポリかいた。


「人選が済みましたらすぐそちらに向かわせますから、しばらくは2人で厳しいでしょうが対処してください。」


「はい。」


キャロルの言葉に2人が同時に返事した。


「それで、貴方達の報告は何ですか?」


「あぁ、それがですね。」


……


神楽とトシキが、トシキのオッドアイとテリルの事を話した。


「…そうですね、ちょっと調べてみましょう。」


「すいません。ありがとうございます。」


トシキが深々と頭を下げた。


「いえいえ、貴方には感謝してますし、期待もしてますから、貴方達には極力力になるつもりですので。」


そう言って、微笑んだ。


「ありがとうございます。期待に応えられるよう努めます。」


トシキが一礼した。


「それで、次の報告はどんな事ですか?」


トシキが頭を上げてから聞いた。


「次はドルチェとミゲルの事です。」


神楽が2人で考えた事(ほぼトシキが考えたが)の説明を始めた。


………


「…なるほど。なかなか興味深いですね。」


あごに手を当てて考えながらキャロルが言った。


「そうですね、学園長に報告してから、どうするか判断します。」


そう言って、懐から手帳を取り出して今の内容をメモし始めた。


「報告は以上ですか?」


メモしながらキャロルが問いかけた。


「はい、以上です。」


2人が頷いた。


「…、では、別命あるまでいつもと同じように過ごしていてください。」


メモし終わったのか、手帳をパタンと閉じて懐にしまい言った。


「わかりました。」


神楽が頷いて、キャロルの姿が部屋から消えた。通信が切れたのである。


「増援かぁ。これでちょっとは楽になるのかな?」


トシキがその場に腰をおろして言った。


「そうだね、ある程度強い人が来てくれれば楽になるね。」


神楽もその場に座った。


「今度はちゃんとした味方だといいんだけど。」


ちょっと笑いながらトシキが言った。


「大丈夫だよ、人選慎重にするって言ってたし。」


神楽もちょっと笑いながら言った。


「早く報告がこればいいなぁ…。戦闘を少しでも楽にするために使える力はちゃんと使いこなしたいし。」


トシキが左目を変化させようとし始めた。


「そうだね。」


その様子を見ながら神楽が微笑んだ。


「…うぅーん、わかんね!」


試行錯誤の末に結局わからずその場に横になった。


「まぁ、使いこなせるまでは下手に使おうとしない方がいいよ。」


神楽が立ち上がりキッチンに向かいながら言った。


「…そうする。」


窓の方に寝返りをうち空を見上げた。



・・・・・・・・・・・・・・・

魔法世界の何処かの洞窟


「さて、報告を聞こうか。」


黒いテーブルを囲むように座った7人の中の体格の良い男が言った。


「計画の準備は順調だよ。」


計画の準備に回された1人の女が言った。


「ただ、ヴァニタスが勝手に抜け出したけどね。」


女が、ヴァニタスと呼ばれる男を見た。


「俺が行かなかったら戦力が1つ減ってたところだぜ。」


ニヤニヤ笑いながらヴァニタスは言った。


「…報告は聞いている。ミゲルを助けるのに姿は見られていないだろうな?」


「あぁ、ぬかりはないぜ!ヤツは女の方に夢中で全く気づきもしなかった!」


ケケケ、と笑いながら言った。


「で、お前から見たヤツはどうだ?害になりそうか?」


「なるだろうな、確実に。力を操れるようになればかなり強敵になるぜ。」


ヴァニタスが嬉しそうに言った。久々に楽しめそうな相手を見つけたために血がたぎる。


「では、今は放置しておく。下手に魔物やお前たちを送り込んで腕をあげられるわけにはいかん。」


ヴァニタスの戦闘好きを尻目にそう言い放った。


「何だよぉ〜…戦わせろよ!強くなって害になるなら今のうちに始末した方が良いに決まってる!!」


机をドン、と叩いて言った。


「…。もし向こうに強い援軍を送り込まれて、何も知らずお前たちを送ってドルチェの二の舞になったらどうするのだ?それこそ計画が崩れるではないか。」


「確かにそうだが…。」


ヴァニタスが俯いた。


「今は我慢しろ。いずれ時が来れば好きにさせてやる。そのために計画の準備を進めろ。」


そう言って、マゼランは仲間を見た。


「…了解。」


ヴァニタスがしぶしぶ頷き、周りの仲間達も頷き闇に消えた。


「今回は見逃してやる。だが、次に邪魔をすればただでは済まさん…。」


机の上に現れたトシキのホログラムを冷たく睨み言った。

・・・・・・・・・・・・・・・


いつもの空き地


トシキと神楽はまた空き地に戻ってきて戦闘の練習をしていた。


「…何でうまくいかないんだろぅ。」


左目を変化させようと、まだ試行錯誤していた。ミゲルと戦った時の感覚を思い出そうとしても、怒りで無意識に戦っていたため頭ではわからず、体でも思いだせず、これか?違う、これか?ちがう…、の堂々巡りをしていた。


一方、神楽はミゲルの言っていた“召喚”をしようとしていた。

召喚は、契約した魔物や精霊、神族を呼び出せる高等魔術(スペシャルアーツ)である。

契約すれば、契約の証に“かぎ”をもらい、鍵を使って召喚できる。

トシキと契約した時、神楽には杖と鍵を2本,アーティファクトとして手に入れた。

その2本の鍵が召喚の鍵である事はすでに確認した。

教本には、召喚の鍵には、契約した魔物や精霊等の名前が刻まれている。神楽は鍵を確認して、名前の様な物が刻まれている事に気付いた。

1つは、“Ondine(ウンディーネ)”とかかれている。もう1つは、所々が錆びていて文字が読めなかった。


「ウンディーネかぁ…。確か水の精霊だったかな。」


記憶を辿りながら神楽が呟いた。

Ondine(ウンディーネ)は、水を司る精霊で、その中でも上位に位置する強力な精霊である。ウンディーネを呼び出せればかなりの戦力となる事は間違いないのである。


「私に扱えるのかな…?」


手のひらにのっている鍵を見ながら呟いた。強力な精霊を従えるのに、従える側にも高い魔力が必要になる。トシキ程高い魔力を持っていれば扱えるだろうが、神楽はお世辞にも高い魔力とは言えない。ただ低くもない、普通の魔力である。


「どうかした?」


ただの大剣を引きずりながら聞いた。特訓の成果は、ただでかい剣を創ることができるようになっただけである。


「私にこの子が扱えるのかなぁと思ってただけだよ。」


そう言って、神楽はトシキにウンディーネの鍵を見せた。


「一回召喚してみたら?」


トシキが聞いた。


「召喚して暴走されると困るし…。」


神楽は俯いてしまった。かなり不安そうである。


「大丈夫だよ!やってみよう!」


トシキが言った。

トシキの言葉に神楽は顔をあげた。トシキは神楽をジッと見ていた。優しく、且つ頼れるマスターであるトシキ。甘えてばかりの自分。トシキの力になるためには、今のままではダメ。


強くなるのには時間がかかる。でも、自分には強い力が、召喚があるかもしれない。トシキが、使える力は使う。そう言っていた。

神楽の中で、精霊の暴走による恐怖と不安があったが、それよりも何とかなる!!って気持ちのが大きくなった。


「わかった、やろう!」


神楽の言葉にトシキは頷いた。


・・・・・・・・・

「準備はいい?」


右手に杖、左手に鍵を持つ神楽が、隣にいるトシキに聞いた。


「あぁ、いつでもいいよ!」


刀に変えたテリルを強く握りトシキが言った。

神楽がトシキの返事を聞いて頷いた。

神楽が召喚の詠唱を始めた。


「我に従いし水の精 我の元へきたれ!」


召喚の詠唱はシンプルなもので使い勝手はいい。だが、召喚して大技を使うため詠唱を延ばす事もある。その分隙はできるが、威力は絶大である。今回は召喚がメインなので、召喚の詠唱をした。


周りの植物、大地から魔力が集まり始めた。

精霊は基本自然の魔力によって生み出されるため、召喚の際に、主の魔力をサブに、自然の魔力をメインで召喚ができる。もちろん主の魔力だけでも召喚できるが、魔力を抑える為にそうする召喚士もいる。


集まった魔力は2人の前に浮かび、強い光を発した。


「わっ!?」


神楽とトシキは眩しくて怯んだ。

が、すぐに光りは収まった。


「びっくりし…、わぁー!」


神楽が目の前に立っている精霊に声をあげた。


「キレイだな…」


トシキも見て言った。


2人の前には水の様に澄んだ青色をした長い髪をなびかせ、薄い青色のローブを着ている様な1人の女の人が立っていた。

その女の人の周りには、水の玉がフヨフヨ浮いていた。


「初めまして。貴女が私の主ですね?」


神楽に尋ねた。


「うん。あなたがウンディーネ?」


神楽が答えて聞いた。


「ええ。私が水を司る精霊の1つ、ウンディーネです。」


そう言って、ペコリと頭を下げた。


「突然ですが、貴女の力をまだ測ってないので主として資格があるか、手合わせを願い出たいのですがよろしいですか?」


ウンディーネが言った。


「え?手合わせ?」


ウンディーネに暴走する気配がなくて、安心していた神楽は驚いた。


「手合わせなので命の保証はします。安心してください。」


「で、でも…。」


自信がなく、神楽は手合わせを受けようとしなかった。


「なんなら、お2人同時でも構いません。」


そう言って、トシキの方を向いた。


「オレはいいよ、それでも。」


2人同時でやるなら、とトシキは頷いた。


「どうする?オレは手伝うよ。手伝ってもいいならだけど。」


そう言って、神楽に聞いた。


「…。自信がないから2人でいきたいんだけど…。」


モジモジしながら神楽はトシキを見た。


「いいよ、手伝う。でも、オレは今回あまり戦えないよ?神楽を守るけど、攻撃は神楽に任せる。」


「えぇ!?何で!?」


神楽がトシキの言った言葉に驚いた。


「これは神楽の力を試すモノだからオレがやれる事は少ない気がするんだ。」


精霊に力を、精霊を従える資格があるかを試す手合わせ。確かに仲間と一緒に精霊と戦う事もある。だけど、精霊を従えるのは召喚士だけ。精霊に認められるには、召喚士が頑張らないといけない。トシキはそう思っていた。


「別に大丈夫ですよ。私は私が見極めるべき相手を見極めますので。貴方が向かってこようと、貴方は障害の1つとして迎え撃ちます。」


ウンディーネがトシキに言い放った。


「…。ふーん。」


ウンディーネの言葉にカチンときたトシキが言った。


「では、いきます!」


ウンディーネがそう言ってペコリと一礼した。神楽とトシキもお互いを見た後に、同じように一礼した。


ウンディーネは顔をあげた後に右腕を水の力で剣に変えた。トシキと神楽も武器を構えた。


「はあぁぁ!」


トシキがウンディーネに向かって刀を振り下ろした。

ウンディーネは、剣に変えた右腕でトシキの一撃を受け止め、左手をトシキの腹に置いた。


「ぐっ…!」


ウンディーネの左手から圧縮された水の塊を零距離で発射された。零距離でモロに受けたため、トシキは数メートル吹っ飛ばされた。


「ライトニングシューター!」


吹っ飛ばされたトシキを尻目に、神楽が詠唱をしていた雷系の魔法を使った。

三本の雷の細い柱がウンディーネに向かっていった。


「ふむ、主との連携はとれていますね…」


ウンディーネがそう呟いて、ウンディーネの前に水の壁ができ、ライトニングシューターを防いだ。


「なっ!防がれた!?」


神楽が驚いて少しパニックになった。そこへ、ウンディーネが神楽に接近してきた。


「焦っちゃダメだ!大丈夫、詠唱を!!」


神楽の横を走り抜けながらトシキが言った。ウンディーネが、トシキの出現でターゲットをトシキに変えた。

トシキがウンディーネと斬り合っている間に神楽は詠唱を始めた。


「…甘いですね。」


そう言って、ウンディーネが右腕でトシキの攻撃を捌きながら、左手を神楽に向けた。


「スプレッド!」


ウンディーネが言った。

神楽の足元に水が広がった。




「ライジングバブル」


神楽の足元に広がった水が、いくつもの球状になって神楽目掛けて飛んだ。


「きやあぁぁ!」


神楽が下から飛んでくる水の球を受けた。手で顔当たる球を防いだが、体に当たるのは防げなかった。神楽はその場に崩れ落ちた。


「カグラっ!」


トシキが叫んだ。

神楽は、ヨロヨロと立ち上がった。足がガクガクしている。息もあがってきた。水で服がびしょびしょになり気持ち悪い。


「…はぁ、だい、じょぶ。はぁ…まだ、いける…!」


荒い息の中トシキにそう言った。

トシキは神楽を見て、コクンと頷いた。

神楽はまだ戦意を失っていなかった。


「なら、そろそろ決めるぞ!」


そう言って、トシキはウンディーネに体当たりをして、間合いを広げた。

ウンディーネは突然の体当たりに対応できずによろめいた。


「風よ!」


そこへトシキが風を起こし、ウンディーネを吹き飛ばした。


「くっ!」


ウンディーネは体勢を立て直すために地面に手をついた。


「くらえぇ!」


トシキが、地面に手をついた状態のウンディーネに斬りかかった。

剣が大剣に変わり、片目が赤くなっていた。


「なっ…!これは!?」


ウンディーネは驚いたが、自分の前に水の壁を作った。

その壁に大剣は呑み込まれて攻撃を防いだ。


「あの目…、まさか…」


「まだまだぁ!」


ウンディーネが何か呟いたが、トシキが壁から無理矢理大剣を引き抜いて追撃をした。

大剣が抜かれたことで、水の壁が崩れた。

大剣を引き抜いた反動を利用してトシキは振り抜いた。

反動を利用したことで、勢いが増した大剣を、ウンディーネは右腕を剣にして受けた。


「うっ…!重い…」


大剣を受けた事で衝撃を受け、後退した。

また、体勢が崩れたため地面に手をついた。

そこへ12本の雷柱がウンディーネに向かって飛んできた。

神楽が、トシキがウンディーネの気をひいてる間に魔法を詠唱していた。

魔法を使うタイミングを打ち合わせていない、行き当たりばったりだったが、2人はこなしてしまった。


「しまった!」


予想外の魔法だったが、ウンディーネは12本中5本を弾いた。7本は直撃してしまった。

半分と相性の悪い属性を受けた事で大ダメージを受けた。


「くっ…!やりますね!」


そう言って、立ち上がった。

2人はそれを見て、戦闘体勢を再びとった。


「もう戦う必要はありませんよ、十分です。貴女は私の主と認めます。」


ウンディーネが剣を右手に戻した。


「え?ホント?やったー!」


神楽がその場で跳び跳ねた。

トシキが構えていた大剣を下ろし、フゥーっと息をついた。


「貴女は自分の主との連携と、いい魔法の発動タイミング、諦めない精神を持っています。」


そう言って、2人に近づいた。


「貴方達2人なら、大抵の魔物には勝てるでしょう。まだ甘いですがね。」


ウンディーネは2人に微笑んだ。それを見て2人は思わず微笑んだ。ウンディーネが思ったよりも可愛い顔で微笑んだため、反射的に微笑んでしまった。


「ありがとう、ウンディーネ。それからよろしくね!」


神楽が言った。


「えぇ、よろしくお願いします。」


ウンディーネがペコリと頭を下げた。


「そう言えば、さっきオレの目がどうのって言ってなかった?」


トシキが戦ってる最中に聞こえた言葉を聞いた。

ウンディーネは顔をあげ、トシキに近づいた。

トシキはまだ戦ってる時の状態だったため、片目が赤くなっていて、大剣を持っていた。

ウンディーネはトシキの頭から爪先までまじまじと見て、大剣を見た後に再び顔を見た。


「その目をした人、いえ神を知っているんです。破壊神と呼ばれている神族の1人です。」


ウンディーネは、トシキの片目と同じような目をした破壊神と呼ばれる神族の名前をあげた。


「破壊、神?」


トシキが唖然として聞いた。神楽も唖然としていた。


「えぇ、破壊神。その名の通り、破壊を司る魔物・精霊をまとめる神です。神族の中でもかなりの強さを誇る神ですよ。」


そう言って、またトシキをまじまじと見始めた。


「でも、なんで神様と似たような力がオレに?」


今まで普通に暮らしてきたトシキに、何故そんな力が有るのかはわからない。


「それは私にも解りません。それに、必ずしも貴方と破壊神の力が同じとは限らないので。」


トシキの全身を見るのをやめてトシキの顔を見た。


「…解らないことばっかだなぁ。」


トシキがため息をついた。

その瞬間に目が元に戻り、大剣が指輪に戻った。


「あ、戻ったね。」


神楽が言った。

トシキが一回頷いて、自分の全身を見回した。


「何かわかり次第お教えしましょう。」


それでは、と言って、ペコリと頭を下げ消えていった。


「…、これでウンディーネも力を貸してくれる、な!」


トシキが神楽の姿に驚いた。思わずトシキは顔を背けた。

神楽がトシキの反応を不思議に思った。

不思議に思って、神楽は自分の姿を見回してみた。


「え?…あ!」


さっきのウンディーネの攻撃で全身水浸しになり、服が濡れて下着が透けていた。

慌ててしゃがんで隠した。


「うぅ…、寒いし、くっついて気持ち悪いよ〜…」


さっきまで緊張していて気にしていなかったが、ウンディーネが消えて落ち着いたら急に感覚が戻ってきた。


「…これ着なよ。ちょっと濡れてるけどそれよりは良いと思う。」


トシキが着ていた上着を神楽に渡した。


「ありがとう…、でもね、その…」


上着を受け取ってお礼を言ったが、もじもじし始めた。


「…ちょっと待って。…うーん、ないよりは良いと思う。」


テリルを一際大きいマントに変えて神楽に差し出した。人が1人なら丸々入りそうなぐらい大きいマントを受け取って、


「…ありがとう。一応後ろ向いててくれる?って、もう後ろ向いてるか。」


マントを渡した後にすぐ後ろをトシキは向いていた。

神楽はマントを羽織って着ている服を脱いで、トシキの上着を着て、マントもちゃんと羽織って全身を覆った。


「もういいよ。」


神楽が、脱いだ衣服を手に持ちながら言った。


「ん、じゃあ、帰ろっか。シャワー浴びないと風邪ひいちゃうよ。」


そう言って、神楽をチラッと見てから歩き出した。


・・・・・・・・・・・・


神楽の部屋


「はぁ〜、いい湯だったー」


タオルで頭を拭きながらジャージでお風呂からでた神楽が言った。


「トシキも入れば〜?」


そう言って、ドライヤーを手に取った。


「いや、オレはそこまで濡れてないし。」


神楽より濡れてなかったから、タオルで拭くだけで済ました。

 トシキは、マントを羽織った状態の神楽を一人で帰らせるのも不安だったため、一応家までついて来ていた。


 「そっか。」


 そう言って神楽はドライヤーをかけ始めた。


 「こんばんわ。」


 ブォン、という音の後にキャロルが通信機を介して映し出された。


 「あ、こんばんわ。どうかしたんですか?」


 トシキが、ドライヤーをかけていて気づいていない神楽の肩を叩きながら返事をした。


 「え、何?あ、こんばんわ!どうしたんですか?」


 神楽がドライヤーを止めてキャロルを見た。


 「突然ごめんなさい。あなた達に伝えることがあってきたの。」


 キャロルはそういって、手帳を開いた。

 二人はキョトンとしていた。


 「伝えることは二つ。一つは、トシキ君、あなたの事よ。」


 「オレの?何か解ったんですか?」

 

 トシキが思わず立ち上がった。


 「えぇ。あなたの目の事なんですが、古い文書にあなたと似た目を持っていると書かれている物が見つかりまして。」


 「…もしかして、破壊神の事ですか?」


 「え?何故それを…。」


 キャロルが予想外の言葉に驚いた。

 トシキと神楽が、今日あった事をキャロルに報告した。


 「…なるほど、そんな事がありましたか。」


 そう言って、手帳に目を移した。

 うーん…、と考えていたがすぐ顔をあげた。


 「私が調べた事とほぼ一緒ですね。」


 キャロルが複雑そうな顔をした。


 「…ほぼ?どっか違うことあったんですか?」


 トシキが聞いた。


 「…えぇ、私が調べて解った事は、あなた達がウンディーネから聞いた破壊神の事。それに加えて、“練装士”の事です。」


 「練装士?」


 トシキは神楽を見たが、さぁ?みたいな顔をした。


 「“練装士”っていうのは、自分の思った通り自由に武器を創り出し、どんな武器でも使いこなす魔法使いの事で、“練装士”もオッドアイだったの。」


 そう言って、手帳を閉じた。

「でも、自由に武器を創り出すって、魔法使いならできるんじゃ…?」


トシキが聞いたが、キャロルは首を横に振った。


「魔法使い皆が出来るわけではないんですよ。できる可能性があるのは、今ではあなたぐらいでしょうね。」


それを聞いてトシキは呆然とした。


「…じゃあ、もしかしてこの魔法媒体は練装士を元に…?」


トシキが指輪を手に載せた。


「えぇ、その通りです。そのため魔法媒体を扱える人は限られてくるんですよ。魔力の高い人、力の強い人等限られてくるんです。」


「へぇ〜…。でも、その練装士はどうやって魔法を使っているんですか?コレが、今は存在しない練装士を元にして創られた魔法媒体なら、杖を使ってたりするんですか?」


「…。彼らは魔法媒体を使ってない人のが多かったわ。」


「魔法媒体なしで…。そんなことが…。」


「えぇ、有り得ないのよ。魔法媒体無しの詠唱…。恐らく指輪か何かを媒体にしてたって可能性が考えられてます。」


「…なるほど。」


ちょっと考えながら言った。

神楽の部屋のドアが開き、誰か入ってきたが3人とも気づかない。



「もう1つは、増援の事だけどもうそっちに向かってるはずだからよろしくね。あ、でもウンディーネが仲間になってくれたからだいぶ楽になったかな?」


キャロルが笑顔で言った。


「…じゃあ、私来た意味ないんじゃないの?」


急に後ろから声がして2人は驚いて振り返った。


「あら、早かったのね。霊紗。」


「…。急いで来たから疲れたわ。」


「何で急いで…?」


「急いで行けって言われたから、急いだのに何かまったりしてるし…。」


はぁ、とため息をついた。


「ごめんなさい、なるべく早くそっちに着いてもらいたかったから。」


「…まぁ、いいわ。」


「ところで、あなたこれから何処に泊まるの?これ忘れていって。」


キャロルが2つの紙を出して聞いた。


「…何?」


「あなたの借りる予定だった物件。」


「…いいわ、そんなの。あんたん所泊まる。」


霊紗がトシキを指差した。


「は…?オレ?」


霊紗がコクンと頷いた。


「ちょちょちょ!待ってよ!何でトシキの家なのよ!」


神楽が焦って言った。


「なんとなくよ。…それともあんたが泊めてくれるの?」


霊紗が神楽を見た。髪を結んでいるリボン状にした赤い髪留めが揺れた。


「…いいわ、私が泊める!それでも良いですよね?」


キャロルに許可を得ようと聞いた。


「えぇ、一緒のが楽でいいわ。それにしても必死ねぇ〜。」


イタズラっぽく笑いながらキャロルが許可をだした。それを見て神楽が赤くなった。


「…まぁいいや。私は、白谷霊紗。よろしく。」


「あぁ、よろしく。」


トシキが微笑んだ。神楽が気に入らない、という感じで唸りながらも、よろしくと言った。


キャロルはそれを見ながらクスクス笑っていた。



白谷霊紗(18)

神楽と同期の魔法使い。黒髪で赤い髪留めをリボン状にしてポニーテールにしている女の子。光属性を得意とし、俊貴と同じく球状にして飛ばす魔法を好んで使う。魔法使いとしては神楽よりも強く、勘が鋭い。基本群れようとはしないサバサバした性格だが、初めて会った俊貴が少し気になりはじめてしまった、女の子らしい所もある。

150cm 40kg A型



キャロル・ステール(25)

ハイライト魔法学校学園長の秘書を勤めている。その仕事と同時にハイライト王国からの任務や情報等を魔法世界、旧世界両方にいる卒業生に連絡する事も行っている。魔法学校の秘書という立場通り、魔法使いとしてかなり優秀である。火と雷を得意とする。美人なのだが、自分の事を余り話そうとしないため詳しい事は不明。神楽を気に入っており、何かと気にかけて連絡をしてくる優しい性格。

160cm 46kg A型

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